第26話 剣に刻まれたもの
「教えてやろう…俺は、おまえのその剣だッ!」
おじさんは直後に右拳で佳一を殴ろうとしたが、佳一は首を横に振って躱し、立ち上がり、距離を置く。
にしてもあのおじさんは何言ってんだ?『俺は、おまえの剣?』って今持ってる剣があのおじさんって言うのか?
佳一は全く理解できなかった。それを解ったかのようにおじさんは右手を頭の後ろに当てるながら喋る。
「そんな事急に言っても理解できねぇよな。逆に理解出来たらおまえは天才だ。とにかく、そういうこった。おまえの持ってる剣は=俺なの・さ」
「さ」の言葉と同時におじさんはその場から消えた。
ど、何処行ったッ!
顔を前後左右に振るが、おじさんはいない―――というか気配すら感じない。沈黙と化したこの場所は何かと不気味な空気を漂わせている。
「さっきの防御はどうしたッ!」
声と共に真後ろに現れたおじさんは、右足を後ろへと構えていた。
「なっ」
ドーーーン
後ろを向いた直後、右足が佳一の脇腹に中り、佳一は地面を何度も転がり続けた。やっとのとこで止まったと思えば、直ぐ後ろにはあのおじさんが、
「遅いッ!」
今度は左足で佳一は蹴りあげられ、更に空中で右足で蹴られ、佳一は地面に叩き付けられた。
「ハッハッハッハッハッ……」
額から血が流れている佳一は瞼を開けると、おじさんは再び消えた。立ち上がり、息が荒いまま剣を構える。
「クッソォ…次は何処から出るんd」
佳一は何かを感じ、剣を右へと振る。すると剣に僅かながら空気の重みを感じた。
「何だ今の違和感は!」
佳一が違和感を気にしている中、上空では佳一には見えないがおじさんが立っていた。
『フッ、さっきは少々焦ったが、次はもう無かろう。今度は真正面から行ってやろう。よしっ!』
おじさんはその場から消え、佳一の目の前へと移動し、右足を後ろに下げて構える。
「くらえっ!」
おじさんの右足が佳一に向かう途中、佳一は何かに気付き、体を横に移動させた。
「何ッ!?」
おじさんの右足は佳一に躱された。そして佳一は剣を時計回りに振る。その瞬間おじさんは消え、一旦距離を置き、姿を現す。躱しきったと思ったが、右目の下が切れ、血が流れていた。
佳一の剣にはおじさんの血が少し付いていた。
「まさかこんな簡単に切られるとはな。だが、次はどうかなッ」
おじさんは再び姿を消す。
『にしてもさっきは危なかった…まさかアイツ読んでいるのか?』
おじさんは、瞼を瞑っている佳一を見る。
『まさか俺のが簡単に見破られたとでもいうのか?そんな馬鹿な。今度こそ殺ってやるッ!』
おじさんは今度は佳一の後ろへと現れた。
『今度こそ終わりだッ!』
おじさんは右拳で佳一の頭を殴ろうとした。
「グッ、そんな…馬鹿な!」
おじさんの右拳を佳一は首を横に振って簡単に躱し、おじさんの右腕を掴み、剣を手放すと、勢いで背負い投げをした。
「何故俺が後ろにいて、殴ると分かった?」
「何でだろうなッ!」
剣を拾い、おじさんに振り落としたが、おじさんは消え、数十メートル先に出現した。
「危うく斬られるところだったぜっ!」
おじさんが再び消えてから僅か0.5秒。佳一から見て、左に現れた。
「これでどうだ!」
空中に浮いているおじさんの左足が佳一の顔に向かって蹴ろうとしたが、佳一は既に読んでいた。
「うっ…」
佳一はその場で一旦しゃがみ、おじさんの左足を躱した。おじさんはそのまま時計回りに動き、互いに背を向けた時、佳一は立ち上がり、剣を反時計回りに回しだした。
「う゛っ」
剣はおじさんの脇腹を掠り、おじさんはその場から消え、数十メール先に脇腹に手を当てながら現れた。
「き、貴様……何故分かる!?」
「もうおじさんは俺の体に当てるのは無理だよ」
「ふっ、どうしてだ?」
「空気の流れさ。空気は常に均等に拡散している。けどある物体が突如現れると、空気は均等になろうと流れる。それが特に感じる人に近ければ近い程ね。最初分からなかったけど、前におじさんが現れて俺が剣を振った時、ちょっと微風だけど風を感じたんだ。その時にもしかしておじさんが現れるとそこにあった空気が均等になろうと拡散するんじゃないかってね」
「フッ。そうか。あんな短時間でそんな事まで理解するとはな。だが……」
おじさんは再び消えた。
「何度やったって無駄だ!正々堂々勝負しろっ!」
自分の声が壁に反射するようで四方八方何重にも聞こえる。静かになって数分、おじさんが出てくる気配は無い。
「クソッ、何処にいる」
脳内でそう思ってると、
「キタッ!」
佳一は僅かな空気の流れを感じ、剣を時計回りに振る。中ると思っていたが、中った感触が無い。
「逃したかっ!」
「残念」
すると全く違う方向からおじさんの声が聞こえた。
「そんな!」
顔を後ろへ向けようとした時、視界におじさんの姿が映った。
ドーーーン
おじさんの強烈な蹴りが中り、佳一は地面を転がり続け、壁にぶつかった。砂煙が舞い、視界が悪い中、佳一は瞼を開けると、目の前には怪しい人影が現れ、佳一の首を掴み上げ、佳一は宙に浮いた。
「うう…」
「ここまで俺を本気とはいかないが、一歩寸前まできたのはお前が人生で初めてだ。だが、結局俺に勝てる奴はいねぇんだ」
ギュッ
「うがぁあああっああッ!!」
おじさんは更に佳一の首を絞める。徐々に佳一の顔が青くなる。するとおじさんは掌を見せると、佳一の顔面の近くに手を止めると、急に視界が明るくなった。おじさんは佳一に光線を放とうとしている。
「死ねぇえええええ!!」
おじさんが光線を放った瞬間、佳一は最後の力を振り絞って剣を持ち上げた。すると光線は剣によって跳ね返され、光線はおじさんに中った。苦しむおじさんは佳一を掴んでいる手を離した。
「うっ、うわぁあああああああ!!!」
光線を浴びたおじさんの顔の一部が溶け、赤い皮膚が見えると、胴体がぶくぶくと膨らみ始め、同時に脇腹から腕が左右3本ずつ生えた。筋肉質な体が形成される中、顔も膨らみ始めた。口からは牙が端にはみ出し、目が6つへと増え、怪獣へと姿を変えた。
「グワァアアアアアア!!!」
吠えると、自分の体を確認し、
「これはどういう事だっ!」
「こういう事さ」
突如ばあさんが怪獣の目の前に現れた。
「何だ貴様!」
「別に。あたしはただ様子を伺いにきただけさ」
「そうじゃねぇ!何だこの姿は!」
「おや?知らないのかい?おまえがここに来て、あたしに負けた罰じゃないか」
「…そういえばそんなのがあったな」
その頃、意識を取り戻した佳一は体を動かし、丸くなる。すると婆さんは下を向き、
「おい佳一、ミッションだ。コイツを倒せ」
「俺がコイツを倒すだと?馬鹿言ってんじゃねぇぜ?こんな死にぞこないに俺が負ける訳ねぇ。ましてや、今の俺はパワーアップしてる気がすんだ。こんな感じでな?」
するとおじさんは口から光線を放つと、凄まじい破壊力を見せ、爆風が佳一の体を襲い、数メートル転がった。
「見たか小僧?こんなんで俺に勝てると思うか?おまえにはもう勝ち目はねぇ。残されたのは『死』だけだ」
高笑いするおじさんに怒りを感じながら、佳一は剣に何か刻まれているのを発見する。そこには何か技の名前が書いてあった。
「おい、どうした?死が怖くて怯えてるのかあ?」
おじさんは佳一の近くに光線を放ち、佳一は数十メートル飛ばされた。起き上がり、剣を持つと、佳一は目付きを変え、剣を構える。
「何だ?闘うっていうのか?」
「そうさ…」
「アァ?そんなボロボロで闘うっていうのか?」
「うるせぇんだよ!グダグダいってんじゃねぇ!」
その時、佳一から赤い炎が現れた。
「確かにあの時は死にかけた。でもこんなところで…こんなところで負ける訳にはいかないんだよ!!!」
炎は更に威力を上げる。
「なら、勝ってみろよ!」
おじさんは光線を佳一へと放つ。佳一は剣で光線を跳ね返す。そして佳一は踏ん張り、ジャンプすると一気におじさんへと向かう。
「死にきたってか。バカな奴だ。さっさと灰になってしまえ!」
おじさんは更に大きい光線を幾つか放った。光線を避けながらおじさんに近づくと、
「一、炎斬!」
剣から炎が現れ、思いっきり振ると、炎が三日月状におじさんへと行く。
「うっ!」
中ったおじさんは両腕で防いだものの、直撃し、皮膚が所々火傷している。
「何だ今の技は!俺はそんな技など持っていないぞ!」
「アイツが作ったんだよ…」
「なんだと!?ババァ何時の間にそんなのを」
婆さんはニヤリとしながら答える。その隙にも佳一は次の技の体勢に入る。
「二、包囲炎落下!」
剣を振ると、おじさんの周りを炎が包み、逃げ場を失ったおじさんは炎に囲まれていた。
「クソッ!何だこれは!」
上を見上げると炎が落ちてきた。
「ウガァアアアアアアアアア!!!」
炎の壁が崩壊し、炎が丸くなり、地面へと落ちると、丸焦げになったおじさんが倒れていた。
「なかなかやるじゃないか。よくそう簡単にできたものだ」
「ここに書いてある通りにやっただけですよ」
剣を見せると技の名前とやり方が持ち手に刻まれていた。
「じゃが、私の場合、今のじゃ全く効かんぞ?」
「やってみないと分かりません」
「ハーハッハッハー、面白い!じゃあ一週間後。勝負じゃ!」
その日はしっかり休み、翌日からは練習に全ての時間を注いだ。新技開発も兼ねて。
そして一週間後。
「それではやるかのぉ。私にちょっとでも傷を負わせることができたら勝ちだ」
「分かっています」
佳一の体は徐々に炎で包まれ始めた。
「ほお。随分余裕があるような言い方じゃないか」
「そんなことはありません。ただクリアするだけです」
「そうか。なら早速やろうか」
婆さんの体からも紫色の炎が現れた。
「言っておくが、手加減はなしじゃ。生きて帰れると思うなよ」
「ここで死ぬ訳にはいきませんから」
「それじゃ…行くぞっ!」
こうして二人の闘いが始まった。
おかげさまで今日で人獣1周年を迎えることができました。こうして人獣が続いたのも読んで下さった全てのユーザーさんのおかげです。ありがとうございます。これからも人獣をよろしくお願いします。