第25話 おじさん
佳一は練習場へと階段を上っていく途中、今着ている防具服を見て止まった。
「これ…婆さんが用意してくれたんだよな。何か変な仕掛けとかねぇ……よな…」
婆さんが用意した全身黒い防具服を見て思わず心配になる。でももうあと四日しかない。こんな事気にする余裕なんてないんだ。気を取り直して練習場へと向かう。梯子で降り、今度は負けないと自分に言い聞かせ、ボタンを押す。押した直後に立っていられない程の地鳴りが響き、地面に亀裂が入ると、亀裂から例の物体が現れ、どんどん結合しながら大きくなり、前回と同じ姿になった。
「ぜってぇ今度こそおまえをぶっ殺してやる!俺にはもう時間がねぇんだ!」
剣を取り出し、相手の様子を伺う。相手もこちらの様子を伺っている。
「ヒィヤァアアア!!!」
モンスターは左右四本、計八本の腕を佳一に向かって攻撃する。佳一は躱し、剣で八本の内の三本を斬り落とした。斬られた腕は地面に落ち、残りの五本は引っ込み、再び八本で攻撃してきた。佳一は今度は左四本を斬り落とした。佳一の近くには計七本の腕の一部が落ちている。しかし再び引っ込むと、今度は塊になって、本体が佳一に攻撃しかけてきた。佳一はこれを躱し、本体の通り過ぎていった直後に剣を反時計回りに振り回し、攻撃しようとしたが僅かに中らず、モンスターは通り過ぎていった。佳一は剣の遠心力でモンスターに背を向けた状態になり、顔だけを向けると、円くなったモンスターは既にこっちへ向かっていた。
「うっ」
ドーーーン
大きい鉄球が中ったような感覚で佳一は飛ばされ、岩にぶつかる。
「畜生ゥ…」
佳一は起き上がると、モンスターがさっき佳一が斬りおとした腕を吸収していた。
「ウオオオオオオオオ!!!」
佳一は走り出し、モンスターの中心部へと剣を刺した。
「ヒィヤァアアア!!!」
刺した箇所から夥しい程の血が流れる。剣を抜いた佳一はもう一撃しようとしたが、モンスターは佳一を噛み砕こうと大きく口を開けながら佳一へと迫る。佳一は剣を縦にし、両手で剣を押さえる。モンスターの力は異常で、対抗する佳一だったが、佳一は徐々に後ろへと引き摺らながら後ろの岩まであと数メートルまで来た頃、このままだとどうしようもないと剣を押さえながら考えていると、モンスターの体から六本の腕が突然現れ、佳一を掴むと、そのまま岩へとぶつける。
「またあの時と同じ状態だ…」
砂煙が舞い、視界が遮られる中、がっちりと押さえられ、身動きが取れなくなった佳一をモンスターは涎を垂らしながらこっちを凝視している。
「クソッ!俺は……俺は、おまえなんかに二回も負けてらんねぇんだよ!」
力を何度も入れても自分の体は動かず、反動つけても微動だにしない自分の体に苛立ちを感じ始め、逆にこのままだと殺られるという危機感が同時に発生しだした。
「やはり、まだまだだな…」
別室でお茶を飲みながら婆さんは呟く。
「仕方ない。作動させるか」
婆さんは指をパチンと鳴らした。
同時刻。佳一は相変わらず身動きが取れずにいた。徐々にモンスターの力は前より強くなった。
「また前回のように…」
諦めかけていたその時、体内で何かが込み上げてきた。それを感じた佳一は、再び力を入れると押さえているモンスターの腕が徐々に動く。それを認識した佳一は更に力を体全体に込めると体全体から何かが込み上げてくる。何かを察知したモンスターは突如腕を引っ込めた。徐々に体から熱を発し出した佳一からオレンジ色の炎が佳一の体を包み始めた。不思議と込み上げてくる力を全て剣に注ぐように集中すると、剣もオレンジ色に光り始めた。モンスターは再び腕を佳一へと伸ばす。しかしオレンジ色の炎に中るとまるでバリアのように跳ね返された。
「ヤァイイ!?」
モンスターはその後、何度も攻撃するが全て跳ね返されてしまった。佳一は、剣を高く上げモンスターの方に向ける。
「何だろう…どんどん力が込み上げてくる…」
頭の中で思い、佳一は走り出す。
「オオオオオオオオオオオオ!!!!!」
佳一は剣を下ろすと同時に、オレンジ色の炎もモンスターへと移り、モンスターは一瞬で消え、直後佳一の体を包むように燃えているオレンジの炎も消えた。
「さっきのは一体……」
「私が仕込んでやったのさ」
後ろを見ると婆さんがいた。
「おまえじゃ、二回目も恐らく一回目と同じように死んでいくような気がしての~。だから防具服を作る時にちょいとお呪いをしといたのさ。にしてもあれだな。よくそう簡単に出せたもんじゃ。まずそのくらいの力が無きゃ、あと4日で私に傷なんて付けれないからの」
「ク……」
佳一に悔しい気持ちが込み上げてくる。
「落ち込むな」
「落ち込んでなんかいません!」
佳一は思わずカッとしてしまった。
「まぁいい。とにかくそいつはおまえにやろう。いっとくが……」
婆さんは間を置くと、下を向いた。
「今の段階でも私に触れる事すらできんわい。残りの日数で、おまえがどのくらいそいつと上手くやっていけるかじゃの。頑張り次第では私に傷を付けれるかもな。まぁ頑張ってくれや」
婆さんはそう言って、一瞬で消え去った。
「ぜってぇ傷を付けてやる…」
婆さんに小馬鹿にされた佳一は悔しいあまりに剣をぎゅっと握る。
次の日もそのまた次の日も、佳一は睡眠時間を出来る限り減らし、練習場でモンスターと闘い続けた。
その夜、佳一は温泉に浸かっていた。傷だらけで剣を杖代わりにしないと歩けないくらいボロボロな体でさえ、ここは数十分で治してくれる。
「よし、治ってる」
右腕を出し、傷跡が無くなっているのを確認し、更に下半身の傷も治ってる事を確認した佳一は温泉から出て体を拭き、着替える。
街灯が無く、暗くても見えるサングラスを付けながら帰る佳一。
「いよいよ明日が婆さんと闘う日か…」
歩きながら佳一は更に呟く。
「俺は婆さんより強くなってんのかなぁ。もし傷を付けれなかったらどうしよう…」
呟く度に心配になる。と、その時。
ピカーン
突如剣がオレンジ色に光り始めた。
「な、何!?」
剣に一体何が起きたか分からないまま、剣は光を強くし、佳一は目を閉じた。
「……ここは」
目を開けると真っ白い景色が映し出されていた。地面に座っているのに、まるで宙に浮いているような不思議な感覚だった。
「ここは一体何処なの?」
「佳一!」
何処からか男の声が聞こえた。佳一はキョロキョロと周りを見回す。
「誰!誰なのさ!」
「俺は此処だ」
突然佳一の前に現れたのは、一人の40代くらいのオレンジ色のマントを被ったおじさんだった。
「……あ、あの~」
「……」
「あ、あの。すいません」
「……」
おじさんは急に喋らなくなった。
「……え?」
それから沈黙の時間が何分も続いた。
「……す、すいまっ」
突然おじさんの姿が消えた。そして佳一は何かを感じ、後ろを向きながら近くに置いてあった剣を後ろへ振った。すると急に剣が止まった、というか誰かに掴まれた。
「おまえ、感だけはいいんだな」
後ろには佳一の右腕を掴んでいるおじさんだった。
「一体、あなたは誰なんですか?」
「教えてやろう…俺は、おまえのその剣だッ!」
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