第22話 虫!
佳一はお婆さんに勝てるのか!?それではどうぞ。
スッ
「反応が鈍いぞ」
お願いしますと言った直後、お婆さんはあっという間に佳一の右に現れた。
ドーーーン
見た目と違い、強力な左パンチが佳一の腹に命中し、佳一は空中を舞い、近くの岩にぶつかった。岩は一瞬で粉々に砕け、その先の岩に中った。
「な…何だあの…一撃は」
サングラスに出ている体力ゲージが一気に赤まで減った。一気にボロボロになった佳一は起き上がろうと立ち上がろうとした時、
「遅い」
バーーーン
お婆さんは容赦なく、もう一発佳一の腹を殴る。岩は亀裂を増やし、欠片となって宙に舞う。
ドドドドドドッ
舞っている岩は容赦なく佳一の頭上に雨のように降り注ぎ、佳一は岩に埋もれた。
「ふっ、結局わしには勝てるわけない。今回もまた一人死んだか」
瓦礫のように積み重なった岩を見て、お婆さんは後ろを向いた。
コロ、コロ
「ん?」
帰ろうとした時、小石の転がり落ちる音に反応し、お婆さんは振り向く。
ゴゴゴ……ゴゴ
「ほぉ~、なかなかの体を持っておる。あれを受けてまだ生きてるとは」
岩の僅かに動く音を察知したお婆さんは岩の山に近づくと、岩を次々と放り捨てていく。するとすっかり傷だらけの佳一がいた。
「おまえ、なかなかの根性を持っておるのぉ」
「ぼ…僕は……そんなっ…簡単に……死ぬわけにはっ……いきません……から……」
肺がやられたのか、真面に呼吸がしづらい中、佳一は自分の信念を言う。
「ほぉ~、まだ喋れる力があるのか。今の二発で死なないとはなかなかの運じゃな。今回はこのくらいにしてやろう。このままやってもやる意味がない。後で上がってこい」
お婆さんはそう言って一番奥の梯子を上っていく。
「畜生ォォォ……」
佳一はすぐやられたことに後悔した。
一方絵梨香はと言うと、
ブリブリブリブリッ
「いいぞ!頑張れっ!」
絵梨香から次々と卵が産まれる。絵梨香は最近毎日のように交尾をしては卵を産むという日を繰り返している。端には大量の卵の山が積まれている。
「凄いぞ!これだけあれば1位とれるかもしれんぞ」
扉が卵で見えないくらいに埋もれている姿を見て、絵梨香も自分はこんなに産んだのかと驚いた。
「ホント?ハァハァハァ、1位だと良いわね」
毎日卵を産んでいる絵梨香は疲れ果てていた。しかしこれを最低5週間もやらないといけないなんて流石にきつすぎる。
ブーー、ブーー、ブーー
サイレンが鳴り響く。このサイレンは卵を集める合図だ。サイレンは一週間に一回鳴り、一週間の間に一番多く卵を産めば人間になるチャンスがある。しかし人間になるためには五週連続一位を取らなければならない。逆に卵をあまり産まなかった下位5組は、二週連続worst5に入ると失格とみなし、ここを出ていくことになる。つまりそれは永遠とその姿で生きていかなければならないという意味である。因みに絵梨香は前回最下位。今回でworst5に入れば一生絵梨香はゴキブリとして生きていかなければならない。
ガチャ
扉が開き、回収係が卵を袋に入れていく。袋は先週よりも遥かに大きくなっている。集められた後すぐに結果が発表され、扉に白いスプレーで書かれている番号で言われる。絵梨香たちは349だ。
「それじゃ発表するよ!今日から10位から発表していく。10位421、824個。9位193、840個、8位349、899個…」
「えっ!?あたしたち8位!?」
自分たちの番号が呼ばれ、驚く絵梨香。
「でも、あれだけ頑張っても8位か。世の中厳しいもんだ」
オスのゴキブリが呟く。その間にも順位は発表される。
「4位807、1029個。3位718、1107個。2位688、1238個。1位499、1404個だ。1位の499にはポイントをやろう。これで499は4つ目じゃな。あと1つじゃ。頑張るんじゃぞ」
先週1位だった499番が今週も1位。次週で1位を取れば人間になれる。にしても一週間で1400個も産めるのは相当凄い。肝心の二週連続worst5に入った組は今回なかった。
「499番って何であんなに産めるのかしら?」
「相当相性がいいんじゃないか?」
「だって4週間で少なくとも4000個以上は産んでいるんでしょう?相当凄いわよ」
「1位なんてほっとけ。今は俺らが1位になることだけ考えるんだ」
「そ、そうね」
二匹は早速交尾を始める。
一方佳一は、痛さを我慢しながら、梯子を上り終え、横になっていた。
「あのお婆さん、今まで闘ってきた中でダントツトップだ。たった二発でここまでいくなんて…」
天井を見ながら佳一は腹部を手で翳す。防具服の隙間から血が滲み、骨も軽く数本は折れているだろう。今まで以上にこんなに痛いのを感じたのは初めてだ。
「おや、よく上ってこれたじゃないか」
声のする方へ佳一は顔を向けると、お婆さんが階段から見ていた。
「わしのあの二発をくらってここまで来れた奴を見たのは久しぶりじゃ。殆どの奴等は皆あそこで死ぬんじゃがなぁ。おまえはこの通り、私には到底勝てん。負けを認めてたっていいんじゃぞ?無理なら無理と言いなさい。そうすれば楽しい生活が待っているからの」
あんな婆さんが言う楽しい生活なんて絶対楽しいわけがない。と佳一は心の隅で思った。
「ハハ…楽しい生活ですか。でも僕の楽しい生活はここを脱出して、元の世界に戻ることなので」
「ふっ、随分口だけは相変わらずじゃな。おまえみたいな奴と会うのは本当久しぶりじゃ。ここまで来れたんじゃ。おまえにいいものを見せてやろう。ほらっ」
お婆さんが人差し指を指しだし、こっちへ誘き出すように指を上げ下げ繰り返していると、佳一の体は自然に起き上がった。お婆さんが歩き出すと、体も自然とついていく。
外へ出て、僅か数分。佳一は何かを察知した。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
「この音って…滝?」
「そうじゃ。でもただの滝じゃないぞ。吃驚するんじゃないよ?」
音の方へ近づくと、大自然の中に落差数十メートルのピンク色の滝が姿を現した。水蒸気が佳一の肌を伝う。ってことはこれは温泉?
「この滝は癒しの滝と言って、この滝から流れるお湯に浸かると、傷が一気に治るのじゃよ。温度はちと熱いが、なんとかなるだろ。ほれ」
「えっ?」
お婆さんは人差し指を佳一から滝の方へ弧を描くように移動させると、佳一も指のように弧を描いて滝の方へ移動し、そのまま滝の中へ入った。
「あぢぢぢぢぢっ!!!いだい!傷口がっ!傷口がぁっ!あぢぢぢぢっ!!!いだい、いだい!」
温度は半端ないくらい高かった。そして温泉が傷口に沁みて激痛が走る。水深はそんなに深くは無かったが、佳一は溺れかけているように必死で足掻く。
「我慢せぇ!こんなんで痛かったらおまえはまだまだ私には勝てんぞ!」
そんなこと言われても痛いものは痛いんだよ!と佳一は言いたかったが、そんなの言う暇なんてなく、とにかく痛さが最優先だった。入ってから5分後。
「あれ?もう痛くない…」
足掻いているうちに痛さは、入った時よりはかなり無くなっていた。傷口を見ると塞がっていたり、瘡蓋になっていた。
「効果が現れたんじゃな。闘いが終わったらここへ行くとよい。完全に治るまでそこにおれ。私は先に戻る」
お婆さんは家へと帰ってしまった。
傷は20分で完治した。湯から上がり、少しストレッチした後、佳一もお婆さんの家へと帰る。
家に入り、佳一は食事中のお婆さんに強くなる方法を聞いていた。
「強くなる方法?何故わしに聞く?何度も言うが、今のおまえじゃ私には勝てん」
「そんなの解ってます。けど、一日でも早く、元の世界に戻りたいんです。お願いします!」
佳一は安座し、土下座をした。
「じゃがなぁ…ここを出るには最低2年はかかるぞ?」
「に、2年…」
「そうじゃ、でもどうしても早く戻りたいなら…」
「何か方法があるのですか?」
「一応あるっちゃある。それをやれば恐らく二週間くらいには短くなるんじゃないかの。じゃが、それはとてつもなく危険じゃぞ?」
「危険……危険でもいいです!僕には時間が無いんです!」
「ならいいじゃろ。こっちへ来なさい」
一気に食料を丸呑みしたお婆さんは、移動しだした。着いた場所は佳一がお婆さんにやられそうになったあの巨大な広場だった。
「これから12時間ひたすら敵を倒し続けるのじゃ。最初だからレベルは抑えておいてやる。じゃがその代わり、敵数は多いからの。死なないように頑張るんじゃな」
「解りました」
「じゃあ早速スタートじゃ」
パチン
お婆さんが指を鳴らすと、お婆さんは瞬間移動で上に移動し、部屋とここを結ぶ梯子を一気に持ち上げた。
「12時間後に再び梯子を下ろす。それまで頑張るのじゃぞ」
扉が閉まると、早速奥から敵がやってきた。
「なっ」
佳一は少し嫌な予感がした。よーく見ると佳一が苦手なアレだった。敵は大群で佳一に近づく。
「ちょっと勘弁してくれよ。敵っていくらなんでも虫は……」
そう。敵とは佳一が苦手な虫だった。ムカデ、ヒル、カマキリなど見ただけでゾッとするような気持ち悪い虫の大群が一斉に向かってくる。
「皆でアイツを倒すぞぉおおお!!!」
「「「オオオオオ!!!」」」
虫たちから声が聞こえる。こうなったらもう気持ち悪いとかいってられない。殺ってやる!
「オリィァアアアアア!!!」
佳一も負けじと声を出し、剣を抜きだす。こうして12時間の戦いが始まった。
呆気なく佳一はお婆さんに負けてしまいましたね。次話は佳一vs虫の大群です。そして絵梨香は遂に…。次話の更新は8月になります。
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