第20話 人間になれるなら
相方の希望により、ここからは少しグロいというか読者に悪影響が及ぶ恐れがあります。読む方は心してお読み下さい。
「ここじゃ」
「ここ?」
お婆さんの後を着いて行った佳一が着いた場所、それは特に施設があるわけでもなく、広場でもなく、草むらだった。
「お主にこれから魔法をかける。1週間以内に私の家まで戻ってきなさい」
「……えっ?」
佳一はお婆さんの発言に戸惑った。
「ここからスタートってことですか?それに魔法って…」
「つべこべ言うな!それじゃあスタートじゃ」
するとお婆さんは指を佳一に指すと、ピンク色のビームが佳一の体に中り、佳一の体をピンクの煙が包む。
「ゲホッゲホッ」
煙で息があまりできない佳一は煙を退かそうと両手で追い払おうとする。
「な、何だこのゲホッ、煙は」
追い払いながら佳一の体はゆっくり変化していく。変身が終わると煙はあっという間に佳一から離れていく。
「ゲホッ、ゲホッ!ったくいきなり何すんだよ…ってあれ!?」
佳一は何かに気付いた。
「俺…こんなに声高かったっけ?」
声に違和感を持ちながら目は自然に下へと向く。こんなに地面も近かったっけ?…こんなに手、小さかったっけ?何で草がこんなにでかいんだ?
佳一は手を顔に当てたり、体に当てる。そして佳一は気付いた。
「……小さくなってる」
地面に落ちている剣を持つ。
「ヤバッ、この剣重っ!」
いつも持っている剣が凄まじく重く感じる。両手でも持ち上がらない。
佳一は、婆さんが言っていた「1週間以内に婆さんの家まで戻る」を思い浮かべ、早速実行しようとする。が、しかし……
「方角が全く分からない…」
高い雑草のせいで方位が全く分からない。行く時の記憶を思い出し、それを信じて佳一は歩き出す。
一方絵梨香はと言うと…
「うぅ~」
目を開けても真っ暗な場所に、絵梨香は少々震える。
「ここ…何処…」
起き上がり、一歩一歩ゆっくり歩く。
「くんくん、何この臭い…」
刺激臭程でもないが家畜臭がする。絵梨香は臭いの方へと進むにつれ、段々臭いがきつくなってきた。真面な空気を吸うのが精一杯だ。
曲がり角を幾つも曲がっていくと光が射している場所を発見。絵梨香は恐る恐る覗く。
「何……あいつ」
窓からの光で影しか見えないが、大きさ的に熊に見える…
「もしかしてあたし……食われる的な…」
絵梨香は危険を察知し、ゆっくり後ろに下がる。しかし、
コロッ
小石が転がる音にそいつは耳を立たせる。
「ヤバイ…」
絵梨香は逃げ出そうと体に命令するが、体が動かない。びびりすぎて硬直してしまったのだ。そいつは後ろを向く。
「……起きた?」
「へっ?」
後ろを向いた時、絵梨香は驚いた。絵梨香が予想していた熊ではなく、二足歩行している巨大な鼻が特徴の豚だった。体長はおよそ2メートルくらい。声が高いから雌だろうと絵梨香は思った。
「あの~……ここって何処ですか?」
「ここは私の家だ。おまえこそ誰だ」
「私は絵梨香。来井 絵梨香」
「絵梨香?人間みたいな名前ね」
「そりゃそうよ。あたし元は人間だったんだもん」
「何?」
豚は急に目を鋭くさせ、兎の視線に更に絵梨香の体は硬直してしまった。
「おまえ、元は人間?」
「そうよ」
絵梨香の発言に豚は前を向いた。
「……私も元は人間だった」
「えっ!?」
「前に仕事帰りに私は夜道を歩いていたら、急に空が光った。すると私はいつの間にかここにいた。まるで樹海のような場所を私は3日間歩いた。そしたら目の前に一件のボロイ家を見つけ、開けてみると中には年老いた婆さんがいたの。婆さんは長年ここに住んでいて元の世界に戻る方法を知っているって言ったわ。婆さんは私に『ここを抜けたいか?』と聞いた。私は勿論はいと答えた。すると婆さんは私に試練を与えた。元の世界に戻るための材料の一つを、一週間以内に持ってこいと。材料は桃色の水でバケツ一杯分汲んで来いだった。私は早速向かった。けど見つけれなかった。すると婆さんは私に呪いをかけ、こんな醜い姿になってしまった。最初は戸惑った。食糧もないし、これからどう生きていけばいいんだと。でも何日か経って動物界の弱肉強食の世界が解った。弱い者は強い者の餌となるって。だから私は今もこうして生きてる。けど私はもう元の世界には戻れない。友達とも会えない。彼氏とも…」
豚は話している内に鼻を鳴らしながら涙を流した。話を聞いていた絵梨香は急に何か閃いた。
「ねぇねぇ!もう一回そのお婆さんの所に行こうよ!もしかしたら私たちを人間に戻してくれるかも」
「馬鹿言うな!そんなの有り得ない!おまえはあの婆さんの力を知らない。いっくらお願いしたって無理だ。おまえみたいな考えを持った奴が何人もおったわ。けど婆さんはそいつらに更に呪いをかけ、キモイ虫に変えられて、婆さんの餌になったわ。信用できないなら行ってみな。地獄を味わうだけだから」
豚はそう言うと絵梨香の耳元に口を近づける。
「それかあたしの餌となるかい?」
笑みを浮かべながら豚は言う。
「あたし、そんなの怖くありません。お婆さんの所へ行きます」
「あぁ行っておいで。いつでも帰ってきな。帰ったらあたしの餌だけどね。フゴッフゴッ」
絵梨香は確信した。
本当にここにいたら食われるってことを。
豚にお婆さんの家がある方を教えて貰い、絵梨香は歩き出す。
「いつでも戻ってきてもいいから。フゴフゴッ」
豚は鼻笑いしながら絵梨香に手を振る。
「あそこにいたって私はあの豚の餌となるだけだわ。だったらこのあたしが人間の姿になってやる」
絵梨香は薄暗い樹海を歩く。
「クソ~あの婆さんめぇ」
重い剣を引きづりながら小さくなった佳一は、自分の勘を信じてお婆さんの家があるだろうと思われる方角を歩く。雑草の合間を抜けていると目の前には真っ黒いある生物がいた。
「蟻?」
いつも小さく見える蟻が自分が小さくなるとでかく見える。巨大な大顎に二本のべん節、そして蜂のように鋭い針が見える。これがあの蟻には見えない。
「蟻目線で見ると、でけぇんだな~」
佳一は雑草から覗くように蟻を見ていた。
つんつん
突如後ろから誰かが背中を突く。佳一は後ろを向くと別の蟻が涎を垂らしていた。
「俺……食べられちゃう?」
コクン
蟻は頭を縦にふった。
「俺食っても不味いぞ…止めとけ…止めとけ!」
一歩一歩後ろに下がった後、前を向いて全力で走り出した。蟻は後を追う。
「ヤバイ!蟻なんかと闘ってたら絶対集団で襲ってくる。ここは取り敢えず…っておい!」
走りながら佳一は後ろを向くと、黒い波のように大群が佳一に向かって走る。
「ガチで死ぬ!ガチでヤバイって!」
佳一は走っていると、ある虫が佳一を穴から覗いている。佳一はその虫のいる穴を通り過ぎようとした時、そいつの手が佳一を掴み、穴の中へ入れる。
「そこにいて!」
壁に激突した佳一をそいつは佳一を隠すように陰を作る。蟻たちはそのまま通り過ぎていく、そんな中、そいつは集団の中から蟻を一匹ずつ早食いのように食べていく。
「ふぅ~美味しかった。大丈夫?」
そいつは佳一の方を見る。
む、虫が喋った!?
佳一は驚く。しかしそれを思うより佳一はお礼をした。
「あ、ありがとうございます…」
「怪我は…ないみたいね」
あなたので結構ダメージくらった気がするんですけど…
話しかけてきたのは佳一目線から見ると頭部が大きく、複眼や大顎が発達し、脚も細長く発達している。これはニワハンミョウという生き物だ。
「どうして俺を…助けてくれたんですか?」
「まぁまずは私の大好物の蟻を引き寄せてくれたのが一番大きいかな。久しぶりに食べれたからね。それとあなたが人間だってことかな?」
「俺が人間だって、って言うのは…」
「信じられないと思うけど、あたし…元は人間だったの」
「えっ!?」
「あたしは食品会社の衛生管理っていう所で働いてたの。でもある日の深夜、空が光った瞬間あたしはこの不思議な森にいたの。暫く彷徨っていると、お婆さんが住んでいる家を見つけて『元の世界に戻りたいか?』って聞かれたから、はいって私は答えたの。すると私に試練を与えたの。『3日以内に蟻を100匹食え』って。けど私は大の虫が嫌いだから出来なかった。結局3日間1匹も食べれずに終わったら、お婆さんが私に呪いだって言ってこんな姿にさせられたの。おかげで私は今ではこうして蟻を食べて生活してるの」
「そうなんですか。俺も今、婆さんに与えられているんです。一週間以内に婆さんの家まで戻れって」
「あなたもそうなの。なら早く行った方がいいわ。ここは常にこの天気。一日中昼なの」
「そうなんですか!?」
衝撃発言に驚く佳一。
「あなた与えられてからどれくらいかかった?」
「え~っと4時間くらいだと…」
「じゃあ深夜0時をスタートとさせると、1日目の夕方4時頃ね。ここは今まで生活していた時間の4倍なの。でも実際はもっとかかっているかもしれないわ。あたしも一緒に行ってあげる」
「ホントですか!」
「えぇ。ここにいる生き物って大概は元人間なの。でも弱肉強食の世界だから元は人間なんて関係ない。でもあたしはこれ以上人間を虫とかにさせたくないの。さぁ今すぐ出かけましょ」
彼女は穴から出る。
「さ、あたしの背中に乗って!」
佳一はニワハンミョウの背中に乗る。
「しっかり捕まってて!」
「うわっ!」
ニワハンミョウはジャンプし、1メートル程飛び、また飛ぶを繰り返した。
一方絵梨香はお婆さんの家がある筈の方角へと歩いている。
「本当に着くのかな~」
一歩歩く毎に心配になっていく。すると奥に何か蠢いている。
「あれは……蚯蚓?」
ピンク色をした細長い生き物。にしてもこれは大きそう。遠くから普通に見えるってことは目の前で見たら大きいに違いない。
「一体この世界はどうなってるの…」
絵梨香は蚯蚓を避けるように大回りをする。更に進むと巨大蛆や巨大蜈蚣、巨大蝸牛など、あちらこちらに虫がいる。まるで自分が小さくなったみたいだ。
暫く歩くと一件の家が見えた。
「あれがお婆さんの家ね!」
絵梨香はお婆さんの家を見つけた瞬間走り出した。そしてドアを見つけ、前脚でノックしようとしたら佳一同様、地面が透け、絵梨香は地下へと滑り台のように滑っていく。地下に着いた絵梨香は歩いていく。今にも何かが出てきそうで絵梨香は早歩きで進む。
階段を昇って地上に到着するとお婆さんが椅子に座って本を読んでいた。
「あの~」
絵梨香の声にお婆さんは振り向く。
「何じゃね?」
「あの~人間に戻れるって聞いたんで来たんですけど…」
「あぁその件ね。確かにあたしはそういうことが出来るお婆さんだよ。おまえもしてほしいのか」
「はい!」
「じゃあこっちへ来なさい」
お婆さんは立ち上がると招きながら奥へと進んでいった。地下へ続く階段を降りていくと色んな虫たちの声が聞こえる。階段を降り切ると鉄のドアが正面に見える。お婆さんはいとも簡単に片手で開ける。
「な、なにこれ…」
絵梨香はその光景に驚いた。奥まで果てしなく続く一本道の両端には柵が設けられ、それぞれ2匹ずつ虫たちが何かしていた。
「これは皆卵を産んでいるんじゃよ」
「た、卵!?」
歩きながらお婆さんは言う。確かによく見ると、部屋の隅に卵が重なっている。
「そうさ。こいつらは元はおまえと同じ人間さ。皆には試練を与えている。あたしの食料となる卵を産めってね。勿論産めなくなったら用はない。すぐここから出て行ってもらう。そして一生その姿で生きていくのさ。二度目はない。おまえもやってみるか?一番頑張った奴は勿論人間に戻してやる」
「ほ…本当に戻してくれるんですよね…」
「あぁ。あたしは言ったことは必ず守る人だからね」
絵梨香は考える。見渡せば確かに元は人間だった虫たちが必死で交尾をしている。中には産卵中の虫もいた。皆人間になるため必死さが伝わる。あたしだって戻りたい。でもダメだったらあたしは二度と…
「さぁどうする?そろそろ答えを聞きたいけど。まぁ嫌ならいいさ、大事な賭けだからねぇ」
「お…お願いします!」
絵梨香はお婆さんに頭を下げた。
「いいだろう。それじゃあこっちに来なさい」
一旦出て階段を上がり、更に二階程上がっていくと3畳ほどの何もないスペースに着いた。
「まずおまえは犬だ。犬だと他の奴等に負ける。これからおまえを虫にさせる」
「え!?虫…ってあたし虫は…」
てっきり犬のままで行うかと思った絵梨香は驚いた。
「つべこべ言うな!それじゃあおまえをこれから虫にする。相手は既に部屋に入れてある。それじゃあいくよ、そら!」
緑色のビームが絵梨香に中り、絵梨香の周りを煙が包み始めた。煙の中で絵梨香は姿を変えていく。黒くて鋭い鉤爪を持ち、黒光りした硬い殻に覆われた昆虫の足を思わせる物体が飛び出す。皮膚がめくれ上がり、額から触覚を思わせる一本の鞭のような物体が飛び出しながら、下腹部が大きくうねると、扁平で、幾つものリングのような節に覆われた腹が飛び出してきた。
そう絵梨香は全長1メートル50センチの巨大ゴキブリに変わってしまったのだ。
ゴキブリになってしまった絵梨香はまだ自分がゴキブリになったことが分からずにある部屋で連れられて止まる。
「さぁ、これが君のパートナーだよ」
お婆さんは分厚いドアを開けると、さっきみた場所だった。柵で囲まれた6帖のスペース、天井には白電球が照らしている。隅には一匹のオスの巨大ゴキブリがいた。そこで絵梨香は初めて自分がゴキブリになったと解った。
「わ、私ゴキブリになったの!?そんな…」
絵梨香は思わず泣いてしまった。
「大丈夫。人間になりたかったら産めばいいのさ。じゃあ頑張って」
ガシャン
厚いドアは閉められ、一対一となった。左を見ると蚯蚓が、右を見ると蜘蛛がそれぞれ交尾をしていた。
これからあたしはゴキブリとして卵を産まなくちゃいけないんだ…
そんなことを思っているうちにオスのゴキブリが近づいてきた。
「お互い人間になれるよう頑張ろうな」
そいつは早速交尾を始めた。
絶対に人間に戻ってみせる…
絵梨香は心の中でそう思った。
今回、悪影響が及ぶような内容だと思った方には申し訳なかったです。
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