第2話 実行
いよいよ彼の研究の成果が試される。
ここは地球。人々は日常通りの生活を送っていた。その中の一人皆中 佳一も普段通り高校生活を送っていた。
「じゃあ教科書を開いてください。はい、遺伝情報の発現過程は、DNAの塩基配列という列を伝令する伝令RNAが塩基配列をコピーする。これを転写という。転写された伝令RNAはアミノ酸配列に変換する事、これを翻訳という。今言ってもさっぱり分からないという人が多いと思う。これから詳しく説明する。皆しっかりノートに取るように」
今は生物室で遺伝の授業を行っている。先生が教科書を片手に持ちながら前を向き、チョークを持ち、黒板に書いていく。佳一は一番後ろの席に座っている。
「はぁ~遺伝ってめんどうだなぁ。全然分からない」
小言で独り言を喋る佳一を隣に座っている佐々木 亮大が反応する・
「そうか。俺結構この分野好きだから分かるぜ」
「おまえ凄いな~。俺基本生物嫌いだから無理だ…」
教科書を机に立て、先生に見えないように教科書で顔を隠し、佳一は寝る態勢に入った。しかしそれを先生は教科書を見ながらちょくちょく確認していた。
「皆中君」
「はい!」
先生の声に驚いた佳一は顔をあげる。
「次のページを読んでくれないか?」
「はい」
畜生…寝ようと思ったのに…
そんな事を思いながら、佳一は立ち、教科書を読む。
「まず、核内のDNAの2本の鎖の一部分が解ける。解けた部分ではDNAの1本の鎖のA,T,G,Cにそれぞれ新しいヌクレオチドのU,A,C,Gが対応して弱く結合していく。その後RNAポリラーゼの働きで……」
佳一は2ページにわたり読んだ。
「皆、皆中君の読んだ所が解ったか?皆中君、座りなさい」
佳一は座る。
「疲れた~」
「流石先生に狙われている佳一。寝ようとした瞬間当てられたな」
亮大の言う通り、俺は生物が苦手。だから先生が何言ってるのかさっぱり解らない。だから最初はぼーっとしていたが、眠気も混じって来たため、今では寝ている。それを先生に指摘されてから、毎回先生に当てられる。おかげで今では寝れない。
「やっと終わったぁ」
放課後に入った途端、背筋を伸ばし、大きく息を吐く佳一。
ブーブーブー
「ん?」
突然携帯が振動し、ポケットから出す。
「母さんからだ……なるほど」
携帯を閉じた佳一はカバンを背負って、帰る態勢を取る。すると教室では席が前の亮大が話し掛けて来た。
「おいケイ、もう帰るのか?」
「あぁ。今日はちょっと16時電で帰らなきゃ行けねぇんだ」
「お?デートか?」
「ちゃうわボケ!」
そう言って、佳一は教室を出て行った。
俺はいつも17時発電車に友人の亮大と帰る。だが今日は久し振りに姉が東京から帰ってくるとさっきの母さんからのメール文に書いてあったのだ。と言う事で、家族で迎いに行こうと言う事で今日は16時発電車に乗り、車に乗って2つ先の鳳南市の高速バスターミナルに姉が乗っているバスが着く19時までに到着しなければならないのだ。その為には俺は16時発電車に乗る事が絶対条件。佳一は全力で近くの駅まで走った。
同時刻、宇宙。
「人間共めぇ……」
私たちの住む地球を含む太陽系とは違う場所にあるもう一つの太陽系にある惑星フレイジョルを飛び立ったルピは、空中椅子に座りながら人間がやってきた事に苛立っていた。
「この46億年という歴史の中で、色んな生物が誕生・絶滅を繰り返してきた。そして今生きている人間はたまたま他の生物より脳の発達が素晴らしかった。しかしおまえらはその脳の発達のせいで、自分達の都合の良い環境を作り出し、森林伐採、過度の狩猟を繰り返してきた。本来はおまえらを含め、植物や動物は共存すべきなのだ。おまえらをもうこれ以上好き勝手にはさせん!」
ルピは出発前に人間がこれまで行ってきた事を資料にまとめ、紙を見ながら怒りをあらわにしていた。
「人間には罰を与えなければならん」
ルピは立つと、部屋を出て、全身白で統一された廊下を歩いた先には、灰色の鉄製のドアが見えた。ルピはドアの前に立つ。
ピピ
「コレカラ、本人確認ヲ致シマス」
ドアから緑色の光が発し、ルピを包み込む。
「本人確認シマシタ。ロック解除」
カチャという音がし、ルピはドアを押した。中に入ると、50帖程の白で統一された長方形型の研究室。部屋の中心には一機のレーザー機が置いてあった。
「ふふ、レーザーで人間を獣化させてやる。おまえらは散々他の動植物たちを恐怖に陥れた。今度はおまえらが恐怖に怯える番だ」
黄色い液が入ったカプセルをレーザー機に填め込む。ガラス越しから外を見ると、ちょうど私たちの太陽系の一番外にあり、水色と青色と白色の混じった惑星海王星が見える。
「海王星か。まだまだ地球は先だな。早く人間を、人間を……グフフ……」
ルピはニヤニヤしながら地球へ向けて進んで行くのだった。
こちらは地球、佳一はなんとか電車に乗れた。帰省ラッシュの時間帯に差し掛かり電車内は若干混んでいた。
「まもなく、納戸居、納戸居、お出口は左側です」
電車は佳一が降りる駅、納戸居駅に着いた。人混みを避けながら、電車を降りる。駅を出ると、佳一は携帯を開いた。
「17時30分、ヤッバ」
佳一は走って自宅へと走った。
6分後。佳一は自宅に着いた。
すると既に車に乗っている父さん、母さん、そして中学二年生の妹の優佳がいた。
「おい佳一、早く乗れ」
父さんの声が運転席から聞こえた。
「はいはい」
俺は制服のまま車に乗った。
一時間後。2つ先の市、鳳南市のバスターミナルに着いた。
「よし、ちょっと時間あるから飯でも食うか」
そう言うと父さんは近くのファーストフード店に車を停め、家族皆でご飯を食べる事にした。
「「「いらっしゃいませ」」」
店内に入ると、店員さん達の元気な声が店内に響いた。俺たちは店員さんの案内で奥の四人席に座った。
「にしても混んでるなぁ」
父さんの言う通り、確かに辺りを見ると平日にも関わらず、殆どの席が埋まっていた。
「さて、何食べる?」
テーブルの端に立ててあるメニューを取り出し、一通り目を通す。すると妹の優佳があるメニューを指した。
「あたし、これがいい」
優佳が指した先は、当店オススメと書いてあるチーズハンバーグだった。
「じゃあ皆これにするか」
父さんが言う。
「えぇ、いいわよ」
母さんも父さんの意見に賛成した。
「佳一は?」
「俺もそれでいいよ」
本当はもっと見たかったけど。
「よし、これにするか。すいません」
ちょうど近くに店員さんがいたので父さんは女性店員を呼んだ。
「チーズハンバーグを四つ下さい」
「かしこまりました。チーズハンバーグ四つですね。少々お待ちください」
五分後。
「大変お待たせいたしました。チーズハンバーグです。熱いのでお気をつけ下さい」
女性店員が一つ一つ俺らの前に置く。鉄板の上にソースがかかっており、油が跳ねる音が聞こえる。これは相当熱々のチーズハンバーグだ。しかもメニューで見た物より大きかった。
「美味しそうね」
「あぁ。じゃあ早速食べてみっか」
家族皆で早速ナイフとフォークを持ち、ハンバーグを切っていく。すると肉汁がどんどん溢れてきた。一口サイズに切り、一口食べる。熱かったがとても美味しい。
「これ、うまいな」
父さんが喜びながら言う。
「ほんと、美味しいわぁ」
「ンンンー(美味しい)」
後に続き、母さんや優佳も言う。
とても美味しく、あっという間に完食した。
「美味しかったわぁ」
「あぁ、うまかったな」
「姉ちゃんが帰ってくる際、また来ようよ!」
三人共、オススメのチーズハンバーグに大絶賛だった。時刻は18時53分。もうそろそろ姉が帰ってくる時間だ。店を出て車に乗り、姉の乗っているバスの到着を待った。
19時ちょうど。姉が乗っていると思われるバスが到着した。
「俺、迎えに行ってくるわ」
俺はそう言い、車から出て、バス停に向かう。するとちょうど姉がバスから降りてきた。
「あ、おかえり」
「ただいま~」
姉は荷物を持ちながら疲れ果てた顔で言った。姉の名前は佳那、東京の大学に通う二年生。公務員になるため日々勉強している。大学は九月まで休みな為、帰ってきたのだ。
車に乗った姉は、
「疲れたぁぁぁぁぁぁぁ」
と声を出し、そのまま寝てしまった。
その頃、宇宙では…
「やっと木星か。あともう少しだな」
ルピは大きな惑星を見ながら言った。
「到着は0時頃か。人間よ、もうすぐおまえらは人でなくなる。楽しみにしてろよ。これで私はクビにならずに済むのだ」
UFOは地球へと向かっていく。
21時過ぎ、自宅に到着。
姉の荷物を運び、玄関マットに置く。俺はリビングに入り、電気を点けた。家族皆リビングに入って、ソファに座る。そして話は姉の事で始まった。
「で、どうだ?学校生活は?」
父さんが姉に聞いてきた。
「チョー大変。授業に追いつけないから、毎日徹夜で復習~」
姉は携帯をいじりながら答える。
「三年生たちは就活しているのか」
父さんの質問に対して、姉は父さんを見る。
「そう!先輩達は就職探しで忙しいらしいよ。いつも可愛がってもらってる碓氷先輩もなかなか決まんなくて、面接7連敗だって。うちらの主任が『今の内に就職先を決めるように』って言われたから、今私もパソコンで探し中」
姉が喋った後、二人の会話を聞いていた母さんが
「ねぇ佳那、公務員になるっていうけど本当になれるの?」
母さんは心配そうに言った。
「わかんない。ここ数年で一気に倍率が上がったから厳しいかも……」
「そう、だったら入れるように今のうちにしっかり勉強しときなさいよ」
母さんは姉にそう伝えるとソファから立ち、キッチンへ移動した。
「佳那。お腹空いてる?」
「チョー空いてる~」
「何食べたい?」
「なんでもいい」
「そう。じゃあ焼きそばでいい?」
「いいよ~」
返答が返ってくると、母さんは早速焼きそばを作り始めた。父さんと姉は相変わらず話、俺はテレビに近いソファ席でテレビを、妹は二階へ上がっていった。
テレビ見てもつまらないなぁ……
俺はソファから立ち上がった。
「俺、自分の部屋行くわ」
ドアを開け、階段を登り、階段上がってすぐ右の自分の部屋に入った。
宇宙。時刻は23時48分。UFOは月に到着していた。
「ふぅ~」
ルピは長旅で疲れていた。
「これであとは、0時になるのを待つだけだ」
ルピは腕時計を見る。
「あと12分、残り5分になったら発射準備だな。それまで飯でも食ってるか」
するとルピは指をパチンと鳴らす。奥のドアが開くと、体長1メートル程の人型ロボットが現れた。
「ナンデショウカ、ゴシュジンサマ」
「腹減った。何か作ってくれ」
「カシコマリマシタ」
ロボットがそう言うと、湯気が所々出始めた。
チーン
ロボットから音が鳴った。
「完成イタシマシタ。今日ノメニューハ、ラーメンデス」
ルピは腹部分の持ち手を引くと、出来たてのしょうゆラーメンが姿を現した。
ルピはラーメンを手に取ると、箸やレンゲを使わず、一気に口の中に入れ、飲み込んだ。
「ん~、やっぱラーメンは上手いな~」
ルピは器をロボットの中にいれた。
「アリガトウゴザイマシタ」
ロボットはドアを開け、去っていった。
「さぁて、あと5分になったな。そろそろ発射準備でもするか」
ルピは操縦席から立つと、奥の部屋のドアを開けた。部屋の中には床を突き抜けているレ-ザーが置いてある。ルピは別室の操縦席に行き、ガラス越しに見える装置を見ながら発射準備を行っていた。
一方こちらは地球。
「もうこんな時間か」
俺は椅子に座りながら部屋の時計を見た。時刻は23時56分になっていた。
「そろそろ風呂でも入るか」
俺は部屋を出て階段を降り、浴室前で服を脱ぎ、浴室へ入った。お湯で体を洗い、浴槽に浸かる。
「あぁ~やっぱ風呂はいいわぁ」
肩まで湯船に浸かりながら、鼻歌を歌い、入浴タイムを楽しんだ。
午後23時58分、宇宙。
「よしっ!準備完了。あと2分だ」
ルピはレーザーの先を地球へと向けるため、UFOを回転させた。
「発射1分前、後はこの発射ボタンを押すだけだ」
ルピは早く0時にならないかと腕時計を見ていた。
「30秒前!」
ルピは秒針をずっと見ていた。
「10秒前・9・8・7・6・5・4・3・2・1・ゼローーー!」
ポチッ
ゼロという声と共にルピは発射ボタンである赤いボタンを押した。レーザーから緑の光線が放たれた。光線は地球の大気圏に触れた瞬間、大気圏の周りを包み始めた。そして完全に包むと眩しい緑の光を発し、そのまま何事も無かったように光は消えてしまった。
「ふふ……ふふふ……ふはははははははははは!」
ルピは徐々に笑い声を上げていった。
「成功だ、成功したぞ!あとは獣化するのを待つのみだ。グハハハハハハハハ!」
ルピはその後も笑っていたのであった。
一方こちらは地球。ルピが発射ボタンを押す、1分前。
佳一は相変わらず鼻歌を歌っていた。
そして午前0時。
ピカン
浴室の窓が一瞬緑に光った。しかし佳一は目を瞑っていたため、光には気付かなかった。何事もなかったかのように佳一は頭、体を洗い、浴室を出た。タオルで頭を拭きながらリビングに入ると母さんが駆けつけてきた。
「ねぇ、さっき緑色に光らなかった?」
「緑色?さぁ……」
「あら?そう。じゃあ私の目がおかしかったのかしら」
「父さんや姉に聞けば?」
「お父さんは二階で寝ちゃったし、お姉ちゃんもこの通りソファで寝ちゃってるから…」
母さんは手を顔につけた。
「取りあえず風呂に入ってくれば?」
「そ、そうね」
母さんは浴室へ向かった。
「緑の光ねぇ」
俺はパジャマに着替え、歯を磨きながら呟いた。そして二階にへと上がり、普段通りベッドで寝るのだった。
佳一はぐっすりと寝ている。これから起きる変化を知らずに……
次話はいよいよ人類が獣化し始めます。