第19話 お婆さん
ワニに全く気付かない佳一。このまま佳一はワニに殺されてしまうのか!?
「ワン、ワンワン!(お願い、気付いて!)」
絵梨香は何度も吠える。しかし依然として佳一の耳まで届いていない。佳一は相変わらずリラックス状態。
「どうしよう…これじゃあ佳一君が…」
絵梨香は慌てていた。すると霧の中に黒い物体が見え始めた。
「何…あれ…」
絵梨香は恐怖に怯え始め、次第に体が震え始める。その物体は勿論…
「さあて。何処をかぶっと噛みきろうか」
その正体は巨大ワニ。巨大ワニは佳一・絵梨香にゆっくり近づいていく。その距離およそ10m。
「取り敢えず左腕をカブッといこうか」
笑みを浮かべながらワニは方向を変え、佳一の左腕の方へ方向転換する。一方何が来るかまだ分からない絵梨香はワニが左に移動し始めたのを確認した。
「きっと佳一君を狙ってるんだわ。でも佳一君は全然気付いてくれないし…」
絵梨香はどうしたら佳一が気付くか考えようと冷静になろうとするが、あまりの恐怖でなかなか平常心を保つことができなかった。
「落ち着け…落ち着け私……」
絵梨香は無理矢理目を瞑り、考え始めた。
「それじゃあそろそろいきましょうか」
距離が4m程になり、ワニは飛ぶ体勢に入る。
「死ね!人間ッ!」
ワニは脚を曲げ、勢いよく飛び始めた。
「そうだ!」
ワニが飛ぶ2秒前に閃いた絵梨香は早速実行し始めた。
「ゴメン!佳一君!」
カブッ
絵梨香はそう言った後、佳一の右脚を力一杯噛んだ。
「いったぁぁああああああ!!!」
「うえっ!」
噛まれた佳一は反射で勢いよく右脚を上げる。するとタイミングよくワニの顎に中った。ワニは着地した後、顎の激痛に耐えられず、じっと痛さが和らぐのを待っていた。
「いっってぇえええ!何すんだこのクソ犬!」
一方佳一は自分の足がワニに中ったことを知らずに即、絵梨香を見て怒鳴った。
「ワン!ワン!」
絵梨香はワニの方に顔を上下させながら吠える。
「ん?そっちに何かあんのか?……って!」
佳一はやっとワニの存在に気付いた。
「な、何だこのワニ!で、でかっ!」
佳一の倍以上あるワニを見て驚く佳一。ワニは痛さに耐えながら佳一の方に体を向ける。
「よ、よくも俺の顎を……貴様を生きて返さん!」
「なっ!」
ワニは佳一に向かって飛ぶ。佳一は剣を素早く出し、両手で剣を縦に持ち、ワニの口を剣で押さえる。しかしワニの重さに佳一はワニの下敷きになる。
「貴様を…この口で噛み殺してやる゛!」
「そ…そうはさせねぇ」
歯を食い縛りながら、ワニの力に耐える。佳一は必死で押し返そうとするが、徐々に剣は佳一の方に近づく。
「俺の力をなめんな人間!」
ワニは更に力を入れる。佳一とワニの距離は僅か30cm。
「や、やべぇ…」
佳一の目には鋭くて大きな牙が見える。噛まれたら即死は間違いない。
一方絵梨香は自分はどうしたらいいか、うろうろしながら考えていた。
「どうしよう…どうしよう…佳一君が危ないっていうのに…私はどうすれば…」
絵梨香は必死で一発逆転になるような方法を考える。
「う~んと、う~んと……もうこうなったら!」
絵梨香は一か八かでワニに向かって走り、絵梨香はワニに向かってジャンプする。そして絵梨香はワニの目を覆い尽くすようにうつ伏せになる。
「な、何だ!?」
急にワニの視界が真っ暗になり、一瞬気が目の方に行く。その隙を見た佳一はワニの口を押し返し、ワニから脱出する。そして剣を持ちながら絵梨香に言う。
「じっとしてろよ犬!」
佳一はワニの尻尾に向かって斬った。
「ぎゃあああああああああああああ!!!」
ワニは叫びながら体を強引に揺する。絵梨香は振り落とされないよう負けじと目の部分だけを手で押さえる。
「これで終わりだ!」
三枚降ろしにするかのように体を突き刺し、横へ剣を滑らせる。
「んがっ!」
刺されたワニは口を大きく開き、声を上げる。数秒後、ワニは口をゆっくり閉じ、目もゆっくりと瞼に覆われた。
「よし!ナイスだわんこ!」
「ワン!」
佳一は思わずガッツポーズをした。
「ほ~なかなかやるね~あの子…ちょっとこっちへ導き出してやろう」
ワニを倒したことに正直驚いた謎の人物は皺くちゃな人差し指を指し伸ばし、こっちへと数回自分の方へと指を曲げる。
「さぁ~おいで~」
「うぐっ!」
同時刻。急に佳一の防具服が何かものかに引っ張れる。佳一は引っ張られている防具服を押さえる。
「な、何なんだ急に!」
時間が経つにつれ、力がだんだん強くなっていく。佳一の体はその力の方へゆっくりと引き摺られていく。絵梨香も佳一の下着を噛み、抵抗する。
「うわっ!」
力負けした佳一はまるでロケットのように空中を飛んで行った。木々の間をすり抜けながら佳一たちはとある場所で急に引っ張られた力が無くなると、ウォータースライダーのように地面を擦っていく。絵梨香は着着地時に強打し、地面に叩き付けられ、木の幹に中って気絶した。一方の佳一は依然として滑っていた。根っこが尻に中り、痛さを我慢しながら止まるのを待つ。
「止まって!止まってぇぇえええええ」
涙目になりそうな佳一の前に一件の古びた民家が見えた。しかしこのままだとぶつかる。
「あわわわわわわわわわわ!!!」
佳一は絶体絶命だった。すると
ピタッ
壁まで数センチという所で止まった。
「あ…あっぶねぇ」
冷や汗を大量にかいた佳一は立ち上がる。
「にしてもこんなところに家があるなんて…」
見上げると上には木の枝が見える。後ろに下がって全体像を見ると、一本の木を囲うように家が建っていた。といっても増築した証拠のように全体的につぼ型であり、今にも落ちてきそうな脆さだ。壁や屋根を見れば木の板をただ貼ってあるだけ。こんなところに人が住んでいるとは全く思えない。でも人がいないとそれはそれで困る。佳一はドアを見つけるため、家の周りを歩く。板には見知らぬ茸がたくさん生えていた。後ろに周るとドアノブを見つけた。
「どうかいますように!」
心中でお願いしながらドアをノックする。
「すいません!誰かいませんか?」
しかし全く反応がない。
「すみませーん、誰かいませ…」
その時だった。佳一が立っている地面が急に透けたのだ。佳一は長いトンネルを滑る。滑り終え、前を見ると、何者かが蝋燭を持っていた。
「す、すみません」
谺する自分の声に吃驚しながらも佳一は訊ねる。
「なぁんだね」
お婆さんのような声で振り向くそいつは正しく…
お婆さんだった。
でも何処かで見たことがある皮膚の色だ…オレンジ…まさか…
宇宙人の仲間!?
佳一はここは何処なのかを聞こうと口を開くが、先にお婆さんの方から喋り出した。
「おまえ、なかなかいい獲物じゃ」
「…え?」
「おまえは私のペットちゃんたちを殺した…なかなか面白い奴だ…」
意味不明な言葉に疑問を抱く佳一。するとお婆さんは佳一の方へ歩き出す。
「おまえは面白い…面白いぞ!」
徐々に声を上げながらお婆さんは佳一の目の前まで来た。お婆さんは手を佳一の頬に当てる。
「おまえ…この樹海のような迷路から抜けたいか?」
お婆さんはまるで俺の心を読み取ったように喋り出した。
「は…はい」
「そうじゃろ…じゃがここを抜けるにはかなりの時間がいるぞ?骨になる前に抜けれるかな?キーキキキ」
「はぁあ…」
佳一は苦笑いで誤魔化した。
「出たいんじゃろ?」
「は、はい!」
「なら私の弟子になりなさい。なんせ148年ぶりの弟子やからのぅ」
「ひゃ、148年!」
「そうじゃ?今まで何万人とこの樹海を彷徨い、私に会ったのは5173人。その内抜けれたのはたった5人」
「ご…5人…」
ゴクッ
佳一はお婆さんの衝撃発言に思わず唾を飲み込んだ。
「おまえもここから抜けたいだろ?」
「はい!」
「よかろう」
頬から手を離すと、お婆さんは再び歩き出した。
「気を抜くんじゃないよ…気を抜いた瞬間、おまえはこの樹海の餌食と化す。よーく覚えておきなさい。キーキキキキキ、キーキキキキキ」
お婆さんは元の場所へ歩き出した。
「さぁ、こっちに来なさい。早速特訓開始じゃ」
佳一は立ち上がって、お婆さんんの元へと走った。
「う~…」
数時間気絶していた絵梨香は目を覚ました。
「ここは…アッ!」
急に激痛が襲ってきた絵梨香はあまり痛さに叫ぶ。
「どうしよう…全く体が動かない」
植物人間ならぬ植物動物となった絵梨香は動かない体を無理矢理動かそうとするが、動く気配は全くしない。
「佳一君もいないし…このままじゃまた…」
絵梨香はワニみたいにまた敵が来るのではないかと恐れていた。しかし残念ながら絵梨香の予想は中ってしまう。
絵梨香が気付かない所で何者かが身を潜めている。そいつはゆっくりと絵梨香に近づいていく。
「えっ?」
気配を察知した絵梨香は後ろを向こうとするが、動かない体のせいで全く見れない。
「なに…なに…」
涙目になり始めた絵梨香は恐怖に怯えていた。何者かは徐々に絵梨香に近づく。そして……
「ウバァァアアアアア!!!」
「ギャァァアアアアアアアアアアアア!!!」
突如目の前に現れた何者かに驚いた絵梨香は、そのまま二回目の気絶へと入ってしまった。
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