第17話 折角逢えたと思ったのに…
無事地球に到着し、偶然にも地元に近い鳳南市の山に不時着した。久しぶりに帰った地球。しかしそこに待っていたのは想像以上の辛さだった。
バキバキバキバキ
枝の折れる音が響く中、佳一を乗せたカプセルはとある山で不時着した。
「いったぁ~。着いたみたいだな」
頭を抱えながら佳一は痛さを我慢する。
ドンドン
「くっそぉ、何で、開かないん、だ」
ドアを開けようと佳一は足で蹴ったり剣で刺したりした。
バコン
「開いた!」
カプセルから出ると辺り一面森だった。
「一体何処なんだここは…」
何処に着いたか分からない佳一は周辺を捜索する。
「あ、道路だ」
木々を抜けると、アスファルトの道路が現れた。佳一は道路に従って下山していく。
「ここは何処なんだろう…日本ならいいんだけど」
不安を抱きながら佳一は山を下りていく。下りていくと一件の民家が見えた。民家は木造住宅で屋根は瓦…もしかしてここは日本なのか?そう思いながら更にその民家から数十メートル下りると横転した車が見えた。佳一は駆け寄ると、車のナンバーには見た事のある文字が。
「鳳南…これって姉が高速バスから降りた町じゃん」
外国に飛ばされたかと思い、心配した佳一だったが、運よく着陸した場所は地元に近い鳳南市だった。
二時間後、佳一はやっと町がよく見える場所に着いた。景色は相変わらず瓦礫と化した町だった。市街地に近くなるにつれ、恐らく人間だったカンガルー、サイ、パンダ、ゴリラなど、多くの動物がそこらじゅうにいた。
「なんか懐かしい…UFO乗る前もこんな感じだったな」
目に少し涙を溜めながら佳一は地元へと歩いていった。
一方千成、悠真、犬になった絵梨香はピンチになっていた。何故ピンチか―――
食糧が尽きたからだ。
スーパーに言っても、コンビニに行っても食べ物は殆ど動物に食われてしまった。もう俺たちの命も僅かなのかもしれない。
動く元気すら無くなった二人は亮大の家でぐったりしていた。絵梨香は意識が無くならないように舐めたりなど対処をする。
一方佳一は夜更かしして早朝頃、斜めに傾いている看板を発見した。
「早徒《さかち》町。やっと着いた…」
そう。早徒町は佳一の出身地なのだ。しかし町はあれから変わらず廃墟と化していた。電車が住宅地に横転してたり、今にも倒れそうなホテル。そして所々鼻にツーンと来る腐敗臭が漂う。佳一は記憶を辿って、自分の家まで歩いた。
「ニャー」
歩いてる途中猫が近寄ってきた。佳一は猫に目を合わせるかのように座る。
「どうした?」
佳一は猫の頭を撫でようと手を出した。
「あっ」
佳一は途中で止まった。
そうか…もし触ったら俺は…
亮大と約束した「動物には触るな」という言葉が甦ってきた。
「ごめんな」
佳一は手を戻し、立ち上がって再び歩き出した。
「いた…母さん、父さん、姉ちゃん、優佳」
母さん、父さん、姉ちゃん、優佳と思われる牛と他にも4頭の牛がまとまって生活していた。母さんと姉ちゃんは横になり、乳搾りできる人がいないため、自分たちでパンパンになった乳房の中の牛乳を少しでも減らすため、互いの乳棒を銜え、乳を吸っていた。一方優佳はモォと鳴き、草を食べていた。
耳をぴくぴくさせながら元は人間だったという面影もなく、牛として生活していた。優佳は何度も反芻を起こしながら草を噛んでいた。蹄を見ると瓦礫の破片が当たったのか傷だらけになっていた。
「みんな…」
佳一は牛たちをただ見ることしか出来なかった。
一方UFOではカプセル内で変わり果てた亮大の姿があった。
「完璧じゃないか亮大。さぁて、じゃあ早速行こうか。地球みたいな屑な野郎共がいないかを」
変わりきった亮大の姿を見た宇宙人は拍手をする。そして宇宙人はカプセルに近づく。
「さぁ、君の力を見せてもらうよ」
パリィィン
宇宙人がカプセルのガラスを割った。中のドロドロの液体が外へ流れる。そして液が流れきった後、亮大はゆっくり目を開ける。
「ピシャァァァ……」
嘴から出てきた言葉…もはや人間のように喋る能力は無くなった。
「亮大。これから共に行こう。屑共を殺しに」
「ピシャァァアアアア!」
UFOは離陸し、新たな惑星へと飛んで行った。
グゥウウウゥゥウウ
「あぁ~腹減った~」
着いてから何も食べていない佳一のお腹は限界まで来ていた。佳一はなにか食糧がないか探す。
「あ…」
佳一はとある家で止まった。
「亮大…」
そう、立ち止ったのは亮大の家だった。一階部分の壁が大きく開いているのは正しく亮大の家だ。
「相変わらず変わってないな」
佳一は何事もなく亮大の家に入る。
「あれ?誰の靴だ?」
見慣れない靴が二足玄関に置いてあった。
「誰かまだ生存者が!?」
佳一は部屋中探した。一階にはいないことを確認し、二階へ。
「ワオン?(誰かしら?)」
絵梨香は起き上がり、階段を覗く。
「うわっ!」
「ワフン!(きゃっ!)」
ドドドドドドドド
階段上がったと同時に絵梨香が現れたことに吃驚した尻餅を着き、一階へ。
「いてててて」
防具服を着ていた為、あまり痛さは感じなかったが、少し痛み、佳一はお尻を押さえる。
「ワン!(佳一君!)」
絵梨香は階段を降り、佳一を舐める。
「な、なんだよこの犬、止めろって」
「ワンワワワン!(良かった無事で!)」
絵梨香は只管舐める。
「ちょ、止めろって」
絵梨香はその言葉に舐めるのを止める。絵梨香は尻尾を振りまくる。
「にしても亮大の家に犬……あ!」
佳一は後ろに下がる。
「やべぇ…触られちまった」
「ワオン?(どうしたの?)」
絵梨香は急に慌て出した佳一に疑問を持った。
「どうしよう…俺…獣化しちまう」
佳一は急いで立ち上がり、亮大の家を飛び出す。
「ワワワン、ワン!(ちょちょちょっと、佳一君!)」
絵梨香は佳一の後を付いていった。しかし佳一の速さに絵梨香は追いつけなかった。
「ワォン…(佳一君…)」
夕日が沈み、外は真っ暗となった。佳一はとある木造の空き家の中に座っていた。
「俺も…あいつらみたいになっちまうのか?」
震える両腕を見ながら佳一は恐れる。
「一回は免れたものの。今度は宇宙人がいない…。今度こそ俺は…」
佳一は蹲った。自分はいつまで人間の姿でいられるのだろうかと思いながら。
そんなことを考えていたその時!
「グルルルルルルルルル」
突然何者かの唸り声が聞こえた。佳一は頭に付けていたサングラスを降ろし、周辺を見渡す。窓からそっと見ると10メートル先にトラが歩いていた。
ト、トトトトト、トラ!?
佳一は心臓をバックバクにしながら静かに身を潜める。しかし防具服に付いていた血の匂いを察知したトラはゆっくりと佳一のいる空き家へ近づく。佳一は早く去ってほしいと願い只管じっと待つ。数十秒後、佳一はもう一度ゆっくりと窓へ顔を向ける。顔を向けたと同時にトラが窓越しから佳一を見る。
「グワァウ!」
トラは一鳴きした後、空き家に入る。佳一は立ち上がり、剣を構える。体長は俺とほぼ同じくらいの1m80cm。トラは牙を出しながら威嚇する。
「どどどどうする…俺を食うか?」
佳一はトラにそう言う。震える体に剣はカタカタと音を立てる。
「グワウッ」
トラが先に佳一に飛びかかる。佳一は避けるが、すぐにトラは攻撃する。
こんな所じゃ俺が不利だな…
そう考えた佳一は窓から外へと跳んだ。なんとか外へ出ると思わぬ落とし穴が待っていた。
「う…嘘だろ…」
外に出ると周囲を囲むように動物達が集まっていた。推定50匹はいる。まさかこいつら俺を食うんじゃ…
中にいたトラが跳び出し、仲間の元へと歩く。
「これって…絶体絶命的な感じ?」
佳一は家の壁に寄り掛かる。
トラはゆっくりと佳一に近づく。
「もう終わりだ。小僧」
「へ?」
突如トラが喋り出した。
「おまえがやったんだろ?俺たちをこんな姿にしたのは」
「ち、違う!俺はこんなことしないし、まずやったのは…」
「じゃあ何故おまえだけ人間の姿なんだ!」
「そ、それは…」
「昨日おまえが載った飛行物体を見て皆思った。一人だけ逃げて俺たちを犠牲にしたってな。それにその防具服と剣は何だ?俺らを殺しに来たってか?」
「ち、違うんだ!」
佳一は必死で主張する。
「じゃあ何故俺が来たとき剣を構えた!」
「それは、トラが来たら吃驚して…食われるかもしれないって思ったから…」
佳一は急に声が小さくなった。
「濁そうたって無駄だぜ。俺にはちゃんと聞こえた。食われるかもしれないから?そもそもありえるのか?こんな多くの動物がいて。不思議に思わんのか!」
トラの威勢に佳一は黙る。
「安全なこの国で、こんなに動物がおって、人間がおまえ以外誰もいないなら普通は考える筈だ。みんな俺らみたいに動物になっちまったんじゃねぇかってな」
「そりゃあ俺だって思ったさ!家族が牛に獣化されていくのを目の前で俺は見たんだ!」
「そんなの嘘に決まってる。ガセネタだ。なぁ皆?」
「そうだそうだ!」
「嘘よ!あたしたちから逃げようとしてるに決まってるわ!」
他の動物達は一斉に鳴く。
「ほら、皆言ってるぜ?嘘ついたって無駄さ。おまえを生きて返すわけにはいかねぇ…俺らの餌食になりやがれ!いくぞ皆!」
動物達は一斉に襲いかかってきた。
こんな数をやってたらキリがないし、元は人間なら斬れない。こうなったら…
佳一はジャンプし、トラの頭に乗ると、更に跳び、地面に着地すると一気に走り出した。
「く、あいつめ…皆行けぇぇええええ」
「ま、マジかよ」
一斉に佳一を追ってきた。チーター達があっという間に佳一との距離を縮める。
「逃げたって俺の脚力には勝てねぇぞ」
次第に距離が縮まると佳一は仕方なく、走りながら剣を構える。そして、走っている際、たまたま目の前に斜めに傾いていた電柱を見つけると通り過ぎる際に電柱を斬った。
ドスン
「うわわわわ!」
電柱が倒れ、慌てて止まろうとしたが間に合わず、チーター達は電柱にぶつかった。
「良かったぁ」
「待ちやがれ!」
「まだいたの!?」
後ろを見ると一匹のチーターがいた。佳一は曲がり、チーターのスピードを出来る限り落とさせた。
「くっ、しばしっこい野郎め!」
チーターは急ブレーキをかけては曲がりを繰り返していた。
「ハッ、ハッ、ハッ…」
息が上がりかけていた佳一はそろそろ限界が近づいていた。後ろを見るとチーターはいない。
「なんとか逃げ切ったか」
佳一は走っていると再び亮大の家が見えた。佳一は家の中に入り、二階に上がって亮大の部屋に入る。するとそこにいたのは、
「カズ…悠真!」
床に倒れていたのは千成と悠真だった。二人はカラオケで見た時より痩せているように見えた。近くにはあの犬も。
「おい!二人ともしっかりしろ!」
佳一が懸命に体を揺する。
「そ…その声は…」
千成が僅かに声を発する。
「カズ、大丈夫か?」
「あぁ…なん…とか…お、おまえが…いてくれて…よか…ったよ」
「おい!しっかりしろよ」
佳一は近くにあった飲料水を飲ませる。
「ありがとな…」
「まだ飲むか?」
「いや…もう十分だ」
千成は笑みで応える。一方悠真にも飲料水を飲ませた。
「しっかりしろ!悠真」
佳一は体を仰向けにさせる。すると、
「な、何だこれは…」
悠真の腕がやけに毛が多い。佳一は次第に嫌な予感を察知した。
「もしかして…」
佳一は悠真から離れた。そして悠真はある動物へと獣化し始めたのだ。
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