第16話 ある場所では捜索、ある場所では別れ
佳一・亮大を探す千成・悠真・絵梨香。一方佳一は亮大が獣化する姿を…
「ここにもいない。カズ、そっちはどうだ?」
「こっちにもいねぇよ」
二人は瓦礫の中を覗いたり、瓦礫を退かしたりしながら佳一、亮大を探していた。一方絵梨香も鼻を使い捜索する。
「俺あっち行ってみるわ」
千成は山の方角へと歩いて行った。
「ダメだ…何処にもいない」
その後も悠真は流れる汗を腕で拭いながら探していた。腰の痛さを我慢しながら立つと夕日が沈みかけていた。
「あいつら一体何処にいっちまったんだよ…」
今日はこの辺にしようと悠真は廃れた町を見ながら周辺を歩く。動物になった俺ら以外の人々は呑気な顔でこっちを見ている。
「本当にもとは俺らと一緒なのか?こいつら」
信じられない気持ちで一杯だが実際そうなのかもしれない。だって絵梨香が実際犬になったのだから…
亮大の家に戻り、入ると、リビングには千成と犬になった絵梨香が既に座っていた。
「おぅ悠真。あいつら見つかったか?」
千成がリビングの床に座ったまま言う。
「ダメだった」
「ワオン(いなかった)」
絵梨香は顔を横に振る。
悠真も床に座り、あぐらをかく。
「ったく…あいつら一体何処に…」
人間として生きているか。それとも動物になって生きているか。それとも死んでいるか…
悠真は色んなことを考えてしまっていた。
「あいつらはきっと何処かで生きてるさ」
「そ、そうだな」
千成の言葉に元気づけられた悠真は思った。
きっと何処かであいつらは生きてる筈だ!
その夜、2階に移動した二人と絵梨香はご飯を済まし、ぼーっとしていた。携帯の灯りが唯一の灯りなのだが電池が危なくなっていた。
「やべ、あと1だ」
「もう閉じとけ。今日はもう寝よう。明日もあるんだし」
「そうだな」
千成は携帯を閉じ、二人は体を丸める。
「明日も頑張ろうぜ」
悠真が千成に言う。
「あぁ」
二人は寒さに耐えながら寝た。
翌日もその次の日も二人と絵梨香は探したが一向に佳一、亮大は見つからない。服もボロボロになり、瓦礫の破片があたり血が流れることもあった。食糧も僅かになり、体力的にも精神的にも限界が来始めた。
「クソォ…何で見つからないんだ!」
千成は亮大の家の壁に向かって右手を拳にして何度も叩き、顔を壁につける。
「もう5日目だ。流石に俺らにも限界が…」
二人は体力の限界を感じていた。
「佳一…亮大…一体どこにいるんだよ」
千成の目からは突然涙が流れる。それを見た絵梨香は何も言うことが出来なかった。
「もう限界だ…食糧だって飲料水しかないし…このままじゃ俺らが死んじまう!」
「千成…」
「もういい…動物を殺って、食糧にしちまおうぜ悠真」
千成は後ろを向いた。後ろを見ると鶏と豚がいた。
「ほら…あそこにいるじゃん肉がよぉ…」
千成は口から涎を垂らし始めた。
「ば、バカ言うな!こいつらはもとは人間だぞ!」
「んなの解ってるさ!でも一人くらい命奪ったって…」
千成は豚の方へゆっくり歩き始めた。
「待てカズ」
悠真は千成を体で止める。
「は、離せ悠真!このままじゃ俺ら死ぬだけだぞ!奇跡的に人間のままでいられた俺らが死んだらこいつらだって戻れなくなるかもしれない。絵梨香だってそうさ!いいじゃないか、何十億人の内の一人くらい」
千成は絵梨香を見る。
「ウォォン…(確かに戻りたいけど…)」
「ほら絵梨香だって戻りたいんだってよ!だから離せ!離せ悠真!」
「うわっ!」
千成の力に負け、悠真は地面に叩き付けられた。
「さぁ子豚ちゃあん…僕らの食糧になるんだ…」
豚は一切逃げようとせず千成をじっと見る。
「そうだ…そのまま大人しくしてろ…」
千成が豚に襲いかかろうとした時、絵梨香が走る。それに驚いた豚や鶏は逃げ出す。逃げ出したことにショックを受けた千成は絵梨香を睨みつける。
「絵梨香…どういうことだ」
今まで見たことがない千成の目に怯えだす絵梨香。
「ワンワン、ワンワン…(流石に人の命を落とすのはダメだよ…)
「さては、おまえ自身が俺らの食糧になるってか?それでもいいぞ」
千成は一歩一歩絵梨香に近づく。
「ワォォォォン(止めてよ千成君…)」
「止めろって!」
悠真は起き上がり、千成に言う。
「何でさ!何故止めるんだ悠真!」
パチン
悠真は千成の頬を叩く。
「な…何すん…」
悠真は千成の肩を掴む。
「落ち着け千成!おまえがやってる行為は間違ってる!いいから落ち着け!食糧はないが尽きたわけじゃないだろ!とにかく落ち着け!」
言い聞かせるように悠真は千成に言う。
「わ……わりぃ」
我に戻ったのか千成は冷静になった。
一方佳一は宇宙人の研究室の隅で両手両足、首と鎖で縛られていた。
「それじゃあ友人の変わる姿をよーく見ておくんだ。これで人間はおまえだけになるな」
「止めてくれ!亮大にだけは手をつけないでくれ!」
鎖の音が鳴る中、佳一は必死でお願いする。
「言いましたよ。試練失敗したら貴様の友人は即獣化だって。一回は許してやったが二回は流石にダメだ。それじゃあ友人を出そうか。おい、出せ!」
パチッ
宇宙人は指を鳴らすとロボットが扉を開けて入ってきた。
「タダイマオ持チシマシタ」
ロボットが大きいカプセルを運んできた。液体の中には亮大がマスクをはめて眠っていた。
「ご苦労」
ロボットは部屋を去ると、宇宙人はカプセルを縦に置いた。
「亮大!…亮大!」
佳一は何度も叫ぶ。しかし亮大は目を覚まさない。
「いくら叫んでも無駄さ」
カチッ
宇宙人はカプセルの上の部分の挿しこみ口を見つけると操縦席から管を伸ばし、差し込み口に挿す。
「さて何にしよう…多くの動物がいるからね」
宇宙人は操縦席に座りながら画面を見る。
「お願いだ…止めてくれ!」
「五月蠅い奴だなおまえは」
宇宙人は突如席を立ち、奥の引き出しで何かを探す。
「あったあった…」
引き出しから出してきたのは一本の注射器だった。
「な、何する気だよ…」
「大丈夫…ただ体を一時的に麻痺状態にさせる薬だから」
「止めろ!」
「いいから黙っとれ!」
ガチッ
「アアアアアアアアア!!!」
宇宙人の強力な握力が佳一の右腕を掴み、佳一は痛さに我慢できずに叫ぶ。そして注射針を血管に刺し、中の液を入れていく。薬の効果はすぐ現れた。体中電気が走るように体は痺れ、手足や口を動かすことが出来なくなった。
「き…きひゃまぁ……」
口があまり動かせない佳一は精一杯口を動かす。
「貴様は黙って見ておれ」
宇宙人は再び操縦席に座り画面を見る。
「よし、コイツにしよう」
数十分考え、宇宙人は画面をタッチする。
「な…なに…し…たん…だ…」
多少喋れるようになった佳一は宇宙人に問う。
「何したかって?それはなってからのお楽しみさ。ま、これからも他の惑星に行ってウザい奴等を滅ぼすために使わないとな」
宇宙人は喋りながら画面をタッチする。
「獣化ヲ始メマス。宜シケレバタッチシテ下サイ」
女の声が聞こえた。すると宇宙人は佳一の方を見た。
「大丈夫だ。コイツが仮に死んだ場合、おまえも獣化させてやるから」
そう言って宇宙人は画面にタッチした。カプセル内の液体に変化が起き始めた。亮大を包むように液体は亮大の周りを回る。
「亮大あああああああああああ!!!」
佳一は叫んだ。
「なった姿を見せたいがやはりおまえは見ない方がいい。おまえは今のところもう用はない。故郷に帰してやろう」
宇宙人は鎖ごと佳一を研究室から出す。
「亮大!亮大あああああああ!!!」
ドアが閉まり、佳一は引きづられ、一人が入るのが精一杯な広さのカプセル部屋に入れられる。
「じゃあな。人間独りで生きて行けよ」
「ふざけるな!おい!おい!」
プシュウウウウ
扉が閉まると、UFOと分離し、佳一を乗せたカプセルは地球へ向け飛んで行った。
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