第11話 セカンドミッション②~アムル~ 前編
翌日。全身筋肉痛の中、なんとか起床し、防具に着替える。まだ若干血の匂いがするがそんな事は気にせず、昨日と同じ立体モニターが映し出された広い廊下に行く。
「それじゃあ二匹目だ。今日はアムルだ」
「アムル?」
立体モニターでアムルの姿が映し出される。どうみてもムカデの尻尾に鋭い針があるようにしか見えない。
「これ?」
「そうだ。全長およそ5m、尻尾に当たると毒を浴びるから注意しろよ」
「え、毒!?」
その言葉に驚く佳一。
「まぁ心配すんな、解毒剤渡してやるから。そして今回これも付けてやる」
宇宙人は佳一に解毒剤5つ渡すと、指を鳴らす。
ガチャ
扉が開き、ロボットが入ってきた。そして佳一に片方しかレンズが入っていない眼鏡を渡す。
「何これ?」
「取り敢えず付けてみろ」
佳一は言われるがままに付ける。するとレンズのある方に一本の緑色の太線が見える。
「それはおまえの現在の体力だ。半分過ぎると黄色、体力の4分の1になると赤になる。それを目安に闘うがいい」
よく戦闘ゲームにあるやつね。実際にも表示されるんだ。
「それじゃあ行って脚5本持って帰って来い。時間は今日の夕方までだ。勿論出来なかったら…」
「分かってる」
これが出来なかったら、亮大が獣化してしまう。
「分かってるならいい。じゃあ行ってこい」
佳一は歩き出し、UFOから出る。
「さぁて、探しに行くか」
軽く準備運動をし、佳一は探しに行った。
歩き出して数時間。アムルと会わないまま、佳一はとある大きな穴がある洞窟の前に立っていた。
「この中にいそう…」
少々ビビリながらも洞窟の中に入っていく。
「うっわ(うっわうっわ)、暗っ(暗っ暗っ)」
マイクのエコーのように洞窟内に俺の声がこだまする。明るい所から暗い所になったため、目では暗順応が発生している。
暗くてなんも見えねぇ。そう思っていると、
「ピピピ、ナイトモード発動します」
眼鏡から声が聞こえた。そして急に洞窟内が明るくなり、周りがハッキリ見えるようになった。
なんだこの機能…すげぇ。外すとどうなるんだろう。
サングラスを外すと、さっきと同じ暗闇になっていた。
で、これを付けると…
再び眼鏡を付けるとハッキリと奥まで見える。
こいつスゲェ!
そう思いながら俺は洞窟の奥へと進んだ。
凸凹道をひたすら進む事数十分。次第に天井が低くなってきたがまだ立って歩ける。曲がり角を曲がると、奥に何か小さく光ってる物が見えた。
「なんだ?」
その方向へ進んでいると水色の氷柱のようなのが刺さっていた。
綺麗…持ち帰れるかな?
剣を取り出し、慎重に周りを剣で刺していく。9割くらい切り込みを入れ、手で四方八方揺らすと取れた。
手に取って見るとキラキラ光っている。長さは両手で握ると一寸出るくらいだ。
ポッケに入るかな…
ポケットに入れてみる。鉱物は意外と入った。
さて、結局何もいなかったし、帰るとするか。
俺は戻る事にした。
「アムルいないなぁ」
洞窟を抜け出して一時間。佳一は湿地帯を歩いていた。木と木が不揃いに生えていて、尚且つ根が地面が飛び出している。まるで樹海みたいだ。
空を見ると、日は若干西よりに傾いていた。そろそろ見つけないとヤバイ。
歩いていると、色んな小動物が木からも地からも伺える。
「こんなところにいるかなぁ」
ムカデということでジメジメしたこの地帯を歩いているわけだが一向に姿を見せない。というかまずアムルの生態が分からない。
「ハァ~」
溜め息を吐きながら歩く事更に一時間。佳一は岩の上で休んでいた。
「やっぱいないのかねぇ」
手を顔に当てながら呟く。
すると…
ガシャン
後ろで何か折れる音がした。
「何だ!?」
佳一は降り、音のする方へ歩く。そして木の陰からそっと覗く。
「ムカデだ!」
その先には私たちが見るムカデの50倍程の大きさのやつ、アムルがゆっくりと歩いていた。これはムカデと言えるのか、そう思うくらいデカイ。
こいつをやっつけるんだな。
そう思いながら暫く見ていると尻尾が見えた。
あれに当たったら毒るんだな。
佳一は音をたてないように歩く。しかし、
コロン
小石が僅かに音をたてながら落ちる。するとアムルの動きが止まった。
ヤッベ!
佳一はその場に止まる。アムルは音が鳴った方を向き始める。
これじゃあヤバイ!
佳一は急いで剣を出し、アムルの体を斬ると黄色い液が流れる。そしてアムルは表現出来ないような鳴き方で鳴く。
「なんだこの黄色い液は?」
粘着性のある液体が付いた剣を振って取り掃い、佳一はすかさずもう一回斬る。
なんだ意外と鈍いじゃん。
斬っていくうちにそんな事を思っていた。その直後。
ブワン
バキバキバキ
長い尻尾が凄い勢いで佳一に当たり、佳一は数十m遠くに飛ばされ、木に当たる。
防具で衝撃は軽減されたものの、佳一はダメージをくらった。眼鏡を見ると、体力が4分の1減っていた。そしてゲージの下には「毒」という文字が表示されていた。
「毒かっ」
佳一は急いでポケットから解毒剤を取り出して飲んだ。数秒後毒の文字が消えた。
よかったぁ。
安心したがそれも束の間。アムルがこっちに来る。
佳一は入り組んだ木を利用し、アムルが簡単に来ないように走った。そしてアムルの横に着き、
「おりゃ」
剣を刺しながら数十cm強引に走る。そして引き抜くと、刺した場所から大量の液が零れる。アムルは悲痛な声をあげる。
「もういっちょ!」
佳一は再び剣を刺す。しかし、
ブワン
「グハッ」
剣が刺されたまま、佳一は再び尻尾に飛ばされ、先程まで休んでいた岩に当たり、口から血が数滴出る。ゲージを見ると黄色くなり、再び「毒」の文字が表示された。
佳一は痛みを我慢しながらも解毒剤を飲む。
そして再びアムルのもとへ走る。剣は未だ刺さったままで、液が地面に多量にある。相当ダメージはいってる筈だ。その証拠にアムルの動きがさっきよりも鈍くなっていた。
佳一は剣を取りに行こうとするが場所が悪く、尻尾が左右に振られてる間に刺さっている。
「このままやつが死ぬのを待つか、それとも取りにいくか」
どっちにしようか考えていると、アムルの進行方向に洞窟があった。
「ヤバイ、あいつ洞窟に入ろうとしてやがる」
佳一は尻尾に注意しながら走り、剣が刺さってる所に何とか着いた。
剣を取り出し、数撃アムルを斬った。
しかしアムルは死ぬ事無く洞窟に入ってしまった。
洞窟内でも攻撃したが、アムルは一向に止まらない。そして、アムルは崖に沿って下っていってしまった。
アムルは暗闇の中に入ってしまった。
「クソ!」
思わず零れた言葉が洞窟内に響く。
「あともうちょっとだったのに」
佳一はその場に座り込んでしまい、思わず涙が零れる。
外に出ると、日はすっかり暮れかけていた。闘う前はまだ太陽は上だったのに…あっという間に過ぎていくもんだ。
そして太陽が完全に沈んだ時。
パッ
湿地帯からUFOへ瞬間移動した。目の前には宇宙人が佳一を見下ろしている。
「お疲れ様。君は残念ながらアムルを倒す事が出来なかったようだね。これで分かるね?君の友達は…」
「ま…待ってください」
佳一は宇宙人を見上げながら言う。
「何かね?」
「も、もう一度チャンスを下さい!亮大を亮大を獣化させたくないんです!だから、だからもう一度チャンスを下さい!」
佳一は土下座をする。
「しかし私は言った筈だ。出来なかったら君の友達を獣化させるって」
「そこを何とか」
土下座しながら言う。
「でも確かにまだ二匹目で終わるのは流石に可哀相だ。特別にもう一度だけチャンスをあげよう」
「ほ、本当ですか!」
その回答に佳一は顔をあげる。
「勿論条件がある」
「ぼ、僕のもう片方の足を…ですか?」
「ほぉ~君は理解が早いねぇ。しかし、残念ながら足だけじゃない……片足と顔だ」
「か、顔…」
佳一は急に声量を下げる。
「いやならいいんだよ。君の友達が獣化すれば君はしなくて済むんだから。どうする?」
数秒考えたが、やはり亮大を獣化させるわけにはいかない。
「僕の…顔と片足をお、お願いします」
「おや、意外と回答が早いじゃないか。本当にそれでいいんだな?」
「はい…お願いします」
「じゃあまず体を洗って、その後私の部屋に来なさい」
宇宙人は奥の部屋に入っていった。
くそ…
佳一は額を床に着け、暫く動かなかった。
体を洗い終え、私服姿で宇宙人の部屋の前まで来た。
入ろうとするが、体が言う事を聞いてくれない。
何してんだよ俺。さっき言ったじゃないか、亮大を獣化させないって。必ず…必ず亮大を獣化させずに返してもらい、そして解薬を奪うんだ。
自分にそう言い聞かせ、深呼吸をし、一歩進む。
プシュー
「おぅ来たか。では早速始める。この台に天井を見る形で寝てくれ」
真ん中の照明しか灯りはなく、部屋の中央には1m程の高さの台があり、すぐ横にはレーザー装置が置いてあった。近くには操作する台があり、色んなボタンが見える。
佳一は宇宙人の言う通りに台の上で寝る。上目にするとレーザーの先が見える。
「それじゃあ始める。まずこれを付けろ」
宇宙人にアルミ箔みたいなのが被されたゴーグルを渡された。佳一はそれを付ける。
宇宙人は装置の傍に置いてある操作台を弄っていた。
「じゃあまずは足だ。目を閉じておけ」
装置は佳一の頭上を通過した。佳一は目を閉じる。
「いくぞ!3、2、1、発射!…終了」
何も痛さを感じないまま終わった。佳一はゴーグルを額に移動させ、顔を少し上げて足を見る。
一見変わってないように見えた。
……しかし
ボキボキボキ
片方の人間である足の方から骨の軋む音がする。不思議な事に痛さを感じない。
足は獣化した足と同じく皮膚は青緑色に変色し、足の指が長く伸び、指と指の間隔が広くなった。
佳一は獣化した足を見て、ショックを受けた。
「それでは今度は顔だ。ゴーグルを付けて目を閉じろ」
レーザーが今度は顔の上に移動した。佳一はゴーグルを持ち、着けようとするがなかなか手が離れない。そして手は僅かに震え出す。
「どうした?早くしろ」
「ちょっと待ってください」
「何だ」
「…いえ、なんでもないです。ちょっと恐怖心が来ちゃって」
「心配ない、すぐ終わる。さぁ早くゴーグルを着けろ」
佳一はゆっくりとゴーグルを着け、目を閉じる。
「それじゃあいくぞ!5、4、3」
カウントダウンが迫るに連れ、佳一の恐怖感は増す。
もう自分の顔が…人間である顔が見れなくなる。
「2、1…」
これで僕の顔とはおさらばだ。さよなら人間の顔であったボク。
「発射!…終了」
ゴーグルを外す。数十秒後、顔に変化が起き始める。
ボキボキボキ
ブクブクブク
本人からは見えないが、まず視界がゆっくりと動いてる。勿論決して瞳は動かしてはいない。細胞分裂が急激に行われ、上唇と鼻一体化しながら前に突き出し、鼻が少し盛り上がる。人中であった場所から目の下にかけ、色は分けられ、上は青緑に濃い青緑の斑点が大小関係なく着き、下は若干薄い青緑色一色に変色し、首まで青緑色に変色した。
何に獣化したのか分からない。唯一目を前に向けると青緑色の皮膚が見える。
「これで終わりだ。部屋を出ろ」
台から降りて、佳一は部屋を出る。
「一体何になったんだ俺は…」
人間の手で顔を触る。髪の毛がまだ残っている顔と両足が、トカゲでイグアナの仲間であるバラコアアノールになったという事に彼は当分気付かないだろう。
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