第1話 窮地
彼にもうあとはない…
私たちの住む地球を含む太陽系とは違う場所にあるもう一つの太陽系にある惑星「フレイジョル」。この惑星には地球には及ばないが、木々は一応疎らに生えている。海も惑星の半分くらいあり、多くの生物が生活している。「第2の地球」と言っても過言ではないくらいだ。
そんな惑星の中で有名な研究者だけが勤める事ができる研究所がある。その名もヘクドゥル研究所。30階建ての高層ビルで、2階から上部は研究室となっている。そんな中、一人の研究者が焦っていた。
「ヤバイ…時間がない!」
その研究者は黒い服、黒いフードで全体を覆っている。胸元の名札には「D-043」と書かれていた。俺はここ何日かずっと研究室に籠り、ただひたすら実験を行っていた。
何故俺は焦っているのか。それは…
コンコン
ガチャ
扉を開けて入ってきたのは、白衣にフードを被っていて、白い髭が胸まで伸びているこの研究所の所長だった。
「しょ、所長!」
俺は所長を見るなり、実験を中断し、所長に向かって一礼をした。
「やぁ、D-043」
所長は胸元の名札を見て呼ぶ。
「な、何でしょうか…」
「君…自分の今の立場…分かってるよね?」
「はい、勿論承知しております」
「君には他のD群と違い、一番最低部類なんだぞ。仮にA、B、C群からD群に落ちた奴がいるとしたらおまえの運命はどうなるか分かっているだろう?」
「私は…この研究所を出ていく…」
「そうじゃ。君には最初驚いたよ。幾つもの発見をし、世間を賑わせ、トップのA-001まで君は昇格した。じゃが最近はどうした?ここ数年何も発見・発明してないじゃないか。本来わしはD群なんぞ糞のような扱いをしてきたが、まさか君がD群に落ちるとは想定外じゃった」
この研究所は大いに4つに分けられ、高い階にいるほど良い。システムはいたってシンプル。良い研究成果が出れば昇格し、成果が出なければ下がる。一番上はAで人数は15程度。ここにいる者はエリート中のエリートとみなし、多くの研究費が援助される。研究室もその階の半分程で各部屋に機械が備わっている。B群は30人程。エリートと言えるギリギリライン。A群と比べ研究費はA群の2分の1だ。B群の研究室はその階を四等分したくらいで各部屋数台備わっている。C群は研究所に入った者達のスタートライン。人数は30人程度。研究費はB群の2分の1だ。そして一番下、D群は研究所を出るか出ないかのギリギリライン。人数は50人程度。番号が下な程、出ていく確率が高い。研究費は勿論無しだ。研究室はC群は15帖、一方D群は10帖、CとDは共同で機械のある部屋で行なわなければならないがC群が優先的に機械を操作する権利がある。
先程所長が言っていたA-001は研究者の中でトップで、所長がいる部屋の下で、その階全部を使う事ができる。更に欲しい機械があればすぐ業者に注文してくれるのだ。
「すみません。最近…何も発見ができなくて…」
「この研究所でやりたかったら、期限の3ヶ月後までに発見・発明するんだな。この研究所を出たら、地獄しか待ってないからな」
「分かりました…全力で取り組みます」
ガチャ
所長は扉を閉めた。
「危機的状況なのは解ってる!でも…でも…仮説さえも浮かばない…」
頭を抱えながら俺はその場でしゃがんだ。
翌日。結局何も浮かばない彼は、外の空気を吸おうと、研究所を出た。街路樹を抜けると、目の前にゲートが見えた。ゲートの前に止まり、監視員に声をかける。
「外出したいのだが」
「番号と名前とパスワードを」
「D-043、ルピロエ・ネリドゥキルサ。RN2598」
「D-043、ルピロエ・ネリドゥキルサ。RN2598。確認OK。ゲートを開けます」
監視員から許可を得ると、頑丈なゲートがゆっくりと開く。周りを見ると、研究所を囲うように高々と作られた鉄壁。そして高圧電線が仕込まれているゲート。このゲートを出て、外の世界に行くのは3年振りだ。確か最後に見たのは研究所に入った時だ。
外の世界は3年前と変わっていなかった。
この周辺、いや、この惑星は非常に貧しい。そこら中に飢えた人がおり、稼いでも稼いでも生活は貧しかった。でも今俺はこの研究員。親たちを幸せにすべく、俺は今まで頑張ってきた。ここを出て行ったらまたあの苦しい生活が待っている。そんなの嫌だ!
歩きながら俺は心中で呟いていた。
「久しぶりに実家に帰ろう」
突然思い浮かんだ言葉に俺はすぐ行動した。あそこにいたって何も思い浮かばないだろうから…
バスでおよそ三時間。辺りは草も生えていない赤土地帯。そんな所に小さな村が見えた。茅葺屋根が象徴な私の故郷スカダッチ村だ。私の家は村の端っこにあるためバス停から更に一時間平坦な道を歩く。
「見てよあれ、あの研究所の奴よ。こんな所に何の用かしら」
「さぁ、どうせ研究材料を探してるかでしょ。でも憎いわよね。あそこがっぽりお金があるらしいじゃない」
「そうなの?私たちとは大違い」
主婦たちの会話声が聞こえる。まぁ俺はそんなの気にしない。例え憎まれようが関係ない。村人が皆俺を見る中、俺は家へと歩く。
少し山を登ると、一件の茅葺屋根が見え、傍には赤土と石で固めた浴槽が見えた。
「懐かしい。3年振りに帰ってきたけど、相変わらず変わってないな」
わが家は相変わらずあのままだった。家に近づくと母さんが畑を耕していた。
「それじゃあそろそろ脱ぐか」
俺はフードを取った。オレンジの皮膚に、ショートヘアな茶髪。口を閉じてもはみ出る犬歯に高い鼻に、耳当てのように膨らんでいる耳。そして水色の瞳。そういえばフードを取ったのは研究所に入ってから初めての気がする。
「やぁ母さん。久しぶり」
「あら、ルピじゃない!おかりなさい。急にどうしたの?」
右目が見えない俺の母さん。体は痩せ細り、湶骨がくっきり見える。汗びっしょりになりながら、母さんは久しぶりに会った俺を見て頬笑んだ。
「ちょっと久しぶりに帰ってみようかなって」
「ならちゃんと連絡頂戴よ。急に来て吃驚したわ。さ、あんたは中に入りなさい。お父さんとトゥーナがいるから」
俺は隙間が所々空いている扉を開けた。
「ただいま」
「あ!お兄ちゃんだ!」
何処からか妹のトゥーナの声が聞こえる。
「兄ちゃんおかえり!」
「ただいま、トゥーナ」
妹のトゥーナは俺よりも6つ下。身長は俺よりも5、6センチ下。喋り方は若干幼いが見た目は美人。その証として胸が異様にでかい。「兄ちゃん、老けた?」
「おいおい、いきなり何言うんだ」
俺は笑いで誤魔化す。
「にしてもおまえスリムになったな」
「そう?」
トゥーナはスリムというより、皮膚と骨しかないようなガリだった。
「父さんは?」
「いるよ。お父さーん」
妹の後に俺も家の中へと入る。父さんはベッドで仰向けになっていた。俺の父さんは5年前まで運搬業をしていた。しかしある日、いつも通り荷物の運搬作業をしていたら、地雷に中ってしまい、父さんは飛ばされ、車の下敷きになり、両脚を切断するという大手術をした。更に脳に障害が残り、上手く腕が使えなくなってしまった。
「おうルピか。久しぶりじゃないか」
「ただいま父さん」
「今日はどうしたんじゃ?」
「ちょっと急に帰りたくなってね」
「そうか。ゆっくり休みなさい。じゃあ母さんに言わないとな。今日はおまえの好きな料理にってな」
「いいぜ。んなこと言わなくたって。今日は俺が奢ってあげるから」
「そうか。すまないなぁ貧乏で」
「気にするなって。こうして研究所に行けたのも父さん・母さんのおかげなんだから」
「すまないなルピ」
「父さんはゆっくり休んでな。俺は母さんの手伝いをしてくるわ」
「…ふぅ~」
二時間程、クワで畑を耕し、井戸水を如雨露で濡らす。
「ありがとうルピ。お茶にするかい?」
「おぅ、後もう一杯汲んでくるわ」
この地帯は雨は月に1日程度しか降らないため、土壌は常に乾燥状態でとても作物が育つという環境ではない。そのため、この地帯は水をあげるにしろ、生活水は全て井戸水だ。しかし母さんに言うには、今年は3ヶ月経ったが雨はまだ1日しか降ってない。そのためか、井戸水は底を尽こうとしていた。最後の一杯を如雨露でやった後、8帖程のリビングで皆とお茶を飲むことにした。と言ってもお茶は若干緑色で、見た目はほぼお湯だった。けどこれは仕方ないことだ。
俺はコップを持ち、お茶を飲む。
「久しぶりに飲むお茶は美味しいね~」
若干お茶風味がするお湯は懐かしかった。
「そうかい。さ、漬物も食べなさい」
大量に漬けられている丸々1本のキュウリの漬物。俺は一口で半分程齧った。
「美味いよこれも」
「良かった良かった」
「うん、美味しいこの漬物」
トゥーナも漬物を食べながら感想を言う。
「で、どうだい研究所は?ちゃんと頑張っているかい?」
母さんの質問に対し、俺は数秒黙った。
「ま…まぁまぁだよ」
「そうかい。あんた、折角世界一有名な研究所に入れたんだから。クビにならないようにしなさいよ」
「んなの解ってるよ」
そう、解ってる。クビにならないよう頑張ってるさ…
暫く食べた後、今度は後ろの家畜小屋へと向かった。
「ノォォオオオオン」
「コヒィコヒィ」
「クワアア、ククククワアア」
板一枚で覆われた屋根の下で私たちが言う乳牛みたいな灰色と黄色の斑があるケウ7頭、豚とサイを合わせたような動物ブーダが8頭、水色の鶏リトリが5羽いた。元気よく家畜たちは鳴き声をあげる。
「おまえら元気か?」
俺は柵の間から手を入れ、牛の頭を撫でる。
「ノォォオオオオン」
撫でられた牛は嬉しそうに鳴く。
「俺らの家計は全ておまえらにかかってるんだ。餌だって少し高めのものを使ってる。おまえらの頑張り次第で父さんたちの生活が左右されるんだ。頑張ってくれよ」
俺は家畜を見て歩きながら言う。
もっと…手軽で簡単にコイツらを殖やせたらもっと裕福になるんだけどなぁ
柵によっかかりながら俺は動き回る豚を見ていた。すると突然俺は何か閃いた。
「そうだ!これを使えば…」
俺はすぐに家に戻り、二階に上がる。久しぶりに入る6帖の俺の部屋。家を出てから何も変わってない。壁には研究所に入るための用語や計算がびっしりと貼られていた。机の引き出しを次々と開けていく。
「確かここに注射器が何本かあった筈」
俺は机の引き出しを全て開け終わった後、箪笥も開け始めた。
「あ…あった」
上から4番目に注射器が何十本も入っていた。早速俺は注射器を持てるだけ持ち、左手の人差し指と中指の間にマジックを挟み、俺は再び家畜小屋へ。
「ちょっとじっとしててくれよ~」
俺は注射器をマントのポケットに突っ込むと一本取り出し、柵を飛び越え、乳牛の体に注射針を刺す。
「ノォォオオオオオオ!!!」
「お願いだから我慢してくれ」
少々暴れる乳牛を押さえながら、注射器に血を溜めていく。
「よし!」
注射器を抜き、マジックで「C1」と注射器に書いた。その後も乳牛4頭、豚5頭、鶏5羽の血を採血し、豚の血が入った注射器には「P」、鶏の血が入った注射器には「B」と書いた。
「これで…俺は研究所をクビになるのを避けれるかもしれない」
15本の注射器を見ながら俺は言い、俺は袋に注射器を入れた。
その夜。
「今日は俺の奢りで」
食卓には宅配で頼んだA5ランクのステーキや刺身等、高級レストランで見るような食品が多く並んでいた。
「こんな豪華なもの…いいの?」
「あぁ。そんな痩せ細った体を見てちゃ、心配で仕方ない。少しでも多く食べて、元気だしてくれよ」
「ルピ…」
母さんは息子からの言葉に涙を流す。
「それじゃあ食べようぜ。いっただきまぁす!」
俺の合図で皆は食事を始める。家族はまず目の前の分厚いA5ランクのステーキを食べた。
「おいひぃ!」
「美味しいわルピ。こんなお肉食べたの初めてよ」
「うん、美味しい肉だ」
家族皆驚きながら喜んで食べていた。
「あなたはいつもこんないいもの食べてるの?」
「何言ってるの母さん。俺は相変わらず冷凍食品だよ。俺だってこんな贅沢品食ったの初めてさ」
俺は肉を手で持ち、半分カブッと食べる。食べた瞬間、口の中に広がる膏が美味しい。噛めば噛むほど肉汁が溢れ、俺は思わず口から肉汁を溢す。
「兄ちゃんごちそうさま!」
「おまえ食べるの早っ!」
トゥーナはあっという間にステーキを食べた。
「だってこんなに食べたの久しぶりなんだもん」
トゥーナは笑顔で言うが、その言葉に俺は重みを感じた。常に家族は満腹感を得ていないんだと。
笑顔で母さんや父さんも美味しそうに食べる。俺はその笑顔に満足を得た。
「ごちそうさま。とても美味しかったわ」
「あぁ、とても美味かった」
「食べすぎた…」
皆、お腹がパンパンに膨れていた。あんなにあった料理も今では跡形もなく消えた。
「良かった。それじゃ俺はそろそろ帰るよ」
「もう帰るの?」
「あぁ、新たな研究をしたいからさ」
「そう…いつでも帰ってきなさいよ」
「あぁ」
俺はフードを被り、注射器が入ってる袋を持ち、扉を開ける。
「それじゃあ」
「気を付けなさいよ。夜は危ないから」
「大丈夫だよ。それじゃあ行ってくる」
「いってらっしゃい!」
トゥーナが元気よく手を振る。
「いってくるよトゥーナ、母さん」
「いってらっしゃい」
ガチャ
扉を閉め、俺は夜道を歩いた。
翌朝、自分の研究室に入り、俺は早速注射器を袋から出した。
「これがケウ、これがブーダ、これがリトリ」
各5本ずつ採血し、俺は各試験管に採血した血を入れる。計15本になった試験管を試験管立てに入れ、俺は早速研究に入る。
コンピューターで見たり、機械で調べたりと俺は研究に入った。
2ヶ月後。
「で…出来た」
遂に完成した。カプセルに入ってる液を見ながら俺はガッツポーズをする。カプセルの中には黄色い液体がたっぷりと入っていた。
「後はこれを証明するだけだ。早速所長に」
俺はカプセルを持って、最上階の所長室へと向かった。大きな扉が緊張感を起こさせる。
コンコン
「誰だ」
「D-043、ルピです」
「入れ」
所長を許可を得て、俺はドアに近づく。
ガチャ
ドアノブを捻り、ドアを開ける。何十メートルも続くレッドカーペットの先には所長が机に肘を付けながら座っていた。俺は自分に自信を持たせながら歩く。
「そのカプセルは何かね?」
「私の研究の成果です所長」
「ほぉ、遂に出来たか。で、何だ」
「これは獣化液です」
「獣化液だと?」
所長は気難しそうな顔をしながら言う。
「はい、これを被った奴等は獣化するのです」
「そんなバカなことがあるか!」
急に所長は机を叩き、立ち上がる。
「染色体の数がそれぞれ違う中で獣化だと?笑わせるな!」
「しかし、私はそれを乗り越え、完成したんです!」
「いくらおまえでもそんなことはありえん!なら私たちが私たち以外の動物になれるっていうのか」
「はい、可能です!なのでこれを証明したいので、その期間の間、クビにするのを止めていただきたいのです!」
俺は全力で訴える。
「その期間、おまえはどうするんだ」
「いい実験材料を探し、研究の成果を報告します。なのでお願いします!1ヶ月後の締切を延ばしてください」
俺は土下座をした。
「ん~」
所長は考える。数秒考えた所長は口を開く。
「良し、特別に許可を出そう。だが、それが証明できなければ即クビだ」
「あ、ありがとうございます。それと所長」
「なんだ」
「UFOを貸して頂いても宜しいでしょうか?」
「んなの別に構わん。おまえのその成果とやらを楽しみにしているぞ」
「はい、任せてください」
俺はカプセルを抱えて、出て行った。
「獣化液。本当に獣化なんて出来るのかね。あいつの退出命令でも書いておくか」
所長はどうせ無理だろうと、引き出しから紙を取り出し、ルピの退出届を書きだした。
一方ルピは、パソコンを使いながら実験材料を探していた。
「いい実験材料はないかな…」
俺は暫く探していると、ある項目でマウスが止まった。
「破壊怪物、人間」
俺はクリックし、詳細を見る。
「なになに。地球という惑星に住む『人間』は他種を殺し、絶滅させたり、又ある時は実験に使う。そして機械で木々を次々と伐採し、環境破壊をしている……なんて悪い奴等だ人間は」
人間の脅威な事に驚くルピは決意した。
人間を実験材料にしよう。
俺は早速レンタルしたUFOに乗って、カプセルと共にフレイジョルを飛び去った。
いきなり読んで、何で獣化計画を行うのか分からないと思ったので書いてみました。感想・評価等よろしくお願いします。