おいらは宇宙の何でも配達屋。
♪~♪♪~♪♪~♪~♪~
おいらは宇宙を駆けるトラック野郎。
のせた荷物は懇切丁寧もれなくキッチリと送り届けるのがモットーさ。
いつか大好きな歌い手の推しちゃんだらけの痛船を作って荷物を運ぶ傍ら彼女の声を宇宙の端から端まで届ける事がおいらの夢。
だから推しちゃんに恥ずかしくないような操船&配送技術の習得任務遂行中。
そんなおいらの腕前を気に入ったお役人だかお偉い人が居たらしく、大きな積み替え港と政府の試験プラントを結ぶ長距離航路の臨時輸送便の依頼を請け負う事になったのだ。
政府の依頼とは言っても試験プラントは宙域の端っこ…辺境の地と言っていいような場所にあり、片道だけでも一ヶ月と少しはかかる上、田舎過ぎて強盗団すら出ない位の辺鄙な路線だ。
そんな僻地にある…つまり長距離航路であるという事と、政府の試験プラント相手の輸送のだめ厳しい守秘義務契約が課せられるという事で、お眼鏡に叶う事業者が少ない上に依頼料もそんなに高くはない事、等々の理由で定期契約ならともかく、単発の依頼を受けられる事業者は中々居ないらしい。
決して高額という訳では無いけれど、おいらは個人事業主なもんで人件費を含む経費が他の事業者よりはかからない。
だからまあまあの稼ぎになるし、何と言っても政府の仕事を請け負えるという箔が付くのは今後の仕事にも役立つんじゃないかという打算もちょっとある。
なにせ、おいらみたいな個人の輸送事業者が依頼主から信頼を得るのは中々に大変だからだ。
特に大事な品物を預けなくてはならないのだから、なるべく信頼できる人に任せたいと思うのが当然だろう。
それにおいらだって、なるべく危険の少ない航路の運送を請け負いたい。
単発と言えど政府の仕事をこなしたという実績があれば信頼もされやすいし、人気の高い安全な航路の仕事を請け負いやすくなるだろう。
何故かって?
だって地上と違って宇宙で何か予期せぬ困難が起こったら、それは死に直結する。
そもそも移動距離が長いという事は、何かしらの不測の事態に見舞われる可能性も高まるし、この航路に限った話じゃあないが、宇宙で何か想像もつかない状況に陥ってしまったらそれはすなわち全ての終わりだ。
個人の輸送事業者の小さな貨物輸送船と言えど宇宙サイズでいう“小さな”だ。
地上の感覚で言うと貨物列車で運ばれる12ftの5tコンテナ─全高2mの軽自動車一台が余裕をもってすっぽり入る─をいくつも積み込める貨物庫が複数連なる小型─重ねて言うけど宇宙サイズで─の一般貨物船が、おいらの船で棺桶だ。
だから本当に棺桶になっても後悔の無いように、居住空間はおいらの推しちゃんであふれている。
今着ている一張羅だって仲間の間では別名棺桶服だ。
だから、いざという時の為に棺桶服の内部に仕込んである予備の燃料は推しの限定グッズである。
さて、馴染みの積み替え港で貨物の積み込みを終えたおいらは、借りた積み込み作業用のドローンを返却した帰りに、どうにも厄介な相手を見つけてしまった。
同じ個人貨物輸送船─同じ型番・形式の貨物輸送船オーナーという意味でも─仲間の一組である面の皮がとても厚いパリピ兄弟の弟の方が、携帯スナックを乱暴につまみながら小型のドローンを連れて、何かを探すかのようにぶらぶら歩いていた。
ドローンには携帯スナックやパウチ飲料を溢れるほど詰めた小さな箱と書類を挟んだクリップボードが乗せられており、どこかへ書類でも提出しに行く途中なのだろう。
ここでは空気も重力もあるから、宇宙服のヘルメットをきっちり被らない者が多い。
向こうもおいらもそれは同じで、まあつまり少し遠くからでも顔がすぐにわかる。
まずいな見つかりそうだと遠回りしようとした時にはすでに手遅れ。
ニヤリとイヤな笑みを浮かべながらパリピ弟が、おいらに向かってやって来た。
兄弟たちに比べておいらの方が年季が浅いからか、会うたびに何かと絡んでので避けたかったから億劫だ。
けど今日は兄貴が居ない様だからまだましだろう。と自分に言い聞かせ、なんとなくの愛想笑いで応対することにした。
どうやら借り物のドローンの返却を兄貴に押し付けられたらしく、そのせいで虫の居所とやらが悪かったのか、返却作業なんてめんどくせえとばかりにおいらに管を巻いてきた。
いつものような嫌味を言われるよりはマシだけど、これはこれでうっとうしいことこの上ない。あと食い散らかすような飲み食いをしては個包装のゴミを周囲を散乱させつつ話しかけるのは止めてくれ、シンプルに汚いから。
そう言いたい気持ちをぐっとこらえて、なんとかなんとか離れようと試みるも気にすることなくしつこく絡んでくる様子は、まるで悪酔いしたサラリーマンの様である。
そうこうしているうちに予想以上に時間が経って、いつの間にか出港時刻が迫ってきてしまった。
本当にまずい。どうにかしてこの場から離れられないかと思案していた所、毎時の時報が辺りに響き渡った。
お陰で現在時刻に気が付いたらしいパリピ弟が、やべえとばかりに焦ったように自分の船に戻って行った。
バツが悪いからか気まずいと思ったからなのか、引き留めて悪かったな、とおいらに小型ドローンに乗せていた箱ごと携帯スナックやパウチ飲料を全て押し付けて。
まあ食べ物に罪は無いから遠慮なく貰うけれども。
おいらは足早に我が愛船にたどり着くと、貨物庫の扉を外からきっちり閉めて居住空間部分─操舵室と休憩場所である船室のある場所─に乗り込んだ。
貨物庫の中からも居住空間部分と行き来できる扉はあるけど、出港の時は外から扉を開閉するのが何となくの性分だ。
内から閉めても外から閉めても変わらないはずなんだけど、やっぱり扉がきちんと閉まっているかは外から確認しないとなんとなく落ち着かないから、これもいつもの出港ルーティンの一つだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ふう…定刻通りになんとか出港できたなー。これで予定通りに航行できそうで良かった。」
出港直前に余計な時間を取られたけれど、管制室からの案内時刻には何とか間に合い、滞りなく出港シーケンスをこなし、無事に試験プラントへの航路に乗る事が出来た。
あとは目的地に到着する寸前まではナビを使って自動運転に任せておけばいい。
目的地の試験プラント迄は一ヶ月ちょっとの長旅だ。
地上の海と違って狭い船内から一歩…ではなく一呼吸も外に出る事を許されない。船は船でも潜水艦のような環境で長期間の航海に耐えられる者─特に一人きりで─は少ない。
だからこの商売をしている奴らは、良く絡んでくる兄弟みたいに親兄弟でチームを組んで協力しあっていることが多い。
だ・が・し・か・し
“長期間一人っきりで誰もいない”だなんて誰に気兼ねすることも無く推し活を堪能できるなんて、オタクなおいらにとってはまさに天国。
しかもそれで報酬を貰えるなんてこの商売って神過ぎないか?
おいらは操舵を任せた自動運転が正常に動作したことを確認すると、ウキウキと船室へ降りるや否や、いそいそと推しちゃんがプリントされた推しちゃんイメージカラーの限定ホームシアターフルセットを室内に展開した。
テーブルに箱ごと貰った携帯スナックやパウチ飲料を広げ、個包装されたそれらを遠慮なく頂きながら、この環境で出来る最高画質最強音質のライブMVを垂れ流し。
♪~♪♪~♪♪~♪~♪~
推しちゃんの心地よい歌声とホームシアターから放たれるカラフルなライトがまるでベビーメリー(赤ちゃんをあやすために天井に吊り下げられた音の鳴るモビール)のように疲れた体に染み渡る。
出港という一仕事を終えた解放感と携帯スナックで満ちたお腹にはとても効果的で、あっという間においらの体を安眠に導き始め、最後の意識を振り絞ってホームシアターのスイッチをオフにすると、そのまま眠りの淵に全てを委ねた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
ビーッ!ビーッ!ビーッ!
「う、うーん……。うるさ…い、な…って。ええっ、緊急音じゃないか!?」
推しの声に誘われて夢見心地だったおいらの睡眠を強制終了させたのは、非常な緊急音だった。
航行中の宇宙船では絶対に遭遇したくない音NO.1が鳴り響く中、原因を確かめようと慌てて船内の制御盤本体を確認すると、貨物庫でなにやら熱源反応があるようで、詳しく確かめようと画面を叩いた時にその違和感に気が付いた。
「…あれ、貨物庫の一区画─バッテリー区画─だけ区画内の管理システムが制御盤本体から制御できなくなっているな、何かのエラーか?」
「こういう時は設定からチェックしなおさなきゃな…ってなんだ??船の残存燃料がやけに減っているじゃないか。どういうことだ?」
「まだ出発したばかりなのに……って、あれ?表示されている日付がおかしいぞ?これが本当なら出発してからもう5日も経ってる事になるじゃないか。おいらそんなに眠りこけてたの?そりゃ燃料も減って…って、もう残りが3割しかないなんて減りすぎだ!この量じゃ宇宙で行き倒れるぞ。」
制御盤本体の日付や残量表示が間違っているだけだと思いたいけど、時刻自体はとある恒星を基準とした宇宙線を利用して自動調整される仕組みだ。だから狂いようがない。
いくら疲れていたとはいえ、ここまで長く眠っていたこと自体信じられないが、おいらの体感による日付の感覚よりも制御盤本体が示す時間の方が正しいだろう。
「それにしてもバッテリー区画でのエラーなんて嫌な予感しかしないな…。燃料切れは多分それが原因だろうし…。」
「サーマルセンサーは…該当の区画にはなんだかおかしな熱源有り、か。燃料用機器が壊れたにしては色が低いけど…。」
制御盤本体を前に寝起きの頭をしっかり覚醒させつつおいらは
「ここでうだうだ考えていても仕方ない、船自体が一刻を争うような状態ではなさそうだし、航行機能自体にも問題はなさそうだし…ただ燃料の残量が無いだけで。はあ、気が重いけどちょっくら状況を調べに行くか。」
と、現場を直接自分の眼で確認することにした。
「貨物庫自体や積み荷は無事な様だけど、どうなっているか判らないから準備だけは慎重にしないとな。」
貨物庫の環境に問題が無いことを確認し、念のためヘルメットを装着し、制御盤の子機端末や工具箱にランタンをアナログな台車に載せてガタゴトと押しながら、貨物庫内のバッテリー区画へとおいらは向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「センサーの表示によるとこの辺りっぽいんだけどな…」
良く地上の人に尋ねられることの一つだけど、貨物庫は別に真空だったり無重力だったりする訳では無い。
勿論、そういう輸送船もあるにはある。けれど空気も重力もある場所で使うモノを空気も重力もある場所で梱包し空気も重力もある場所で開封するのだから、輸送中も似たような環境の方が問題は起こりづらい。
というより、いちいち真空や無重力や気圧などの大幅な変化を耐える梱包をするよりも、陸と同じように梱包し、耐圧性能があり内部は陸に近い環境を用意できる貨物船に乗せて運ぶ方が手間は無いのだ。
まあ重力は若干軽い事が多いので、陸よりは丁寧な梱包が求められるのだけど。
それでも天地が定まっているという点において梱包は格段に楽になる。
そして空気も人間が暮らせる範囲の濃度を維持しているし、何かあれば人間を詰め込める訳─安い旅客船の三等室のように─だけど、今は人間ではなく呼吸などしない荷物を積み込んでいるから庫内の空気の組成が変化することは無いはずで…なのに、空気を調整管理する機器がぎゅいんぎゅいん作動しているな。
「これってもしや…。」
嫌な予感が脳裏をよぎった矢先に、区画の奥のバッテリールーム近くの片隅から、見覚えのない灯りがぼんやりと周囲を照らしている様子が目に入ってきた。
思わず眉間に大きく皺が寄ってしまう。
ヘルメットの上から頭を抱え込んだものの放置しておくわけにはいかない、深呼吸して意を決すると、おいらは慎重に足を進めて漏れ出る光の先に向かってランタンを当てて覗き込むと…。
ランタンの灯りに照らされた床の上には見覚えのある携帯スナックや、バッテリールームに保管していた各種パウチ飲料の空き袋、取り出されたバッテリーや変換器一式にコードの類がいくつも散乱し、その間にはヘルメットが一つ転がっている。
そして、その傍で倒れ込んでいるぶかぶかな宇宙服が少し苦しそうな声ををあげており、ゆっくりとランタンの光を当てると眩しそうにしかめた顔は……。
「えっ、だ、誰だ…なんだか小さいな…って、子供?女の子…か?」
慌てて近付いて様子を…状態を確認すると、宇宙服の生命維持装置に異常はないが体温と呼吸が乱れていて、そのせいか少し青い顔をしている。
「…うん、流石にこのまま放ったらかしにして見捨てるなんて出来ないな。」
おいらは指で顔を─ヘルメットの外からだが─を掻くと急いで台車の荷台を片付けて、その子を台車に乗せて船室まで運ぶことにした。
「担架を取りに行くより、今あるもので運べるならその方が手っ取り早いよな。ちょっとの間だけ我慢してくれよ!?」
そう声を掛けつつ、よく考えると緊急時用の備え付け担架を持ってきても一人じゃ病人?を運べないから、どうしたって台車で運ぶしかない。
結局一人で担架は使えないなと、頭の中で現実逃避をしかけてしまった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「う、うーん……。」
船室に、ぶかぶかの宇宙服の主である密航者…だよなあ?を運び入れて、ボックス椅子をいくつか並べてシーツを敷いた長椅子もどきに寝かせて一息ついたおいらは、パウチ飲料と可愛いポップカラーの医療キットを収納庫から取り出し机の上に置いて残りの収納箱付きスツールの一つに座り、密航者ちゃんの様子を伺いつつ制御盤の子機端末をチェックしていると、目が覚めかけているのか寝ぼけ声が聞こえた。
「気が付いた…のかな?おーい、君、おいらの声が聞こえるかい?」
少し顔をしかめながら、もぞもぞと身じろぎを繰り返すと、密航者ちゃんはうっすらと目を開け始めた。
「う、あ……あれ。ここは…」
「はー、良かった目が覚めて。一般的なの医療キットならあるけど、気を失ったままじゃ、何の薬を渡して良いか判らないからなあ。」
「…ほえ……。」
目を覚ましたばかりだからか状況を飲みこめておらずぼんやりと戸惑った表情を浮かべている密航者ちゃんに、パウチ飲料を差し出しながら大事な事を一番最初に尋ねることにした。
「それで、どうしてこの船の貨物庫に居たの?」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ふーん、試験プラントで働いているご両親に会いに…か。でもわざわざこの船に密航しなくても、関係者の家族なら大型の…それこそ大手企業や政府所有の定期便に同行者として乗せてもらえるんじゃないの?」
「あの、私。全寮制の学院に今年から入学していて、でも、あんまりなじめてなくて…」
密航者ちゃんはふるふると首を横に振って、おいらの率直な疑問に答えてくれた。
「でも、それなら余計にちゃんと許可を取った方が…。」
「私の誕生日に両親がプレゼントを贈ってくれたんですけど、私の手元に届く前に勝手に開けて捨てられてたんです…。」
「おおっと。聞き捨てならない話になって来たな。」
「誕生日のプレゼントだけじゃなくて、手紙や他の普段の贈り物なんかも…。今までは結構頻繁に手紙やプレゼントを贈ってくれていたのにって。でも学院の人や同級生の人たちから、『学院に入ったのだから勉強の邪魔にならないように控えているんじゃない?』って言われて、それを信じちゃってて…。」
渡したパウチのクリーンウォーターを両手でぎゅっと握り締めて、密航者ちゃんは話をつづけた。
「私から両親へ送る手紙や贈り物も『ご両親の迷惑になる』から出さないようにって言われて、でも誕生日のプレゼントが来ないなんてどうしたんだろうと思って、手紙を書いて出したんです。」
「もしかして、その手紙ってご両親に届かなかったりして…」
「はい、学院の焼却炉で、燃え残りを見つけて。で、そこから両親からの手紙もプレゼントも何もかも勝手に自分達の物にされてた事が分かって。」
「それで、周りの人を…大人を含めて頼るのは怖くなっちゃったのか。」
「月に一度の校外実習で先生の目を盗んで、どうにかして試験プラントへ行く方法を調べてたら、ある時『試験プラントへ内緒で行きたいなら手伝ってあげる』ってメッセージが来て。それでそのメッセージを送って来た紹介者さんに貯金を全部を渡して…それでこの場所に案内されてきて説明を受けたんです。てっきりこの船の人なんだと思って…。」
「はぁ、なるほどね…。そいつが誰かは…今は、ともかくとして。おいらの船で勝手に違法な商売のタネにされているなんてなあ。」
おいらは思い当たりがないでもない相手を思い浮かべながら腕を組んで渋い顔をしてしまった。
「…あの、やっぱり、こっそり人を乗せて運んでいたりはしない…んですよね?」
密航者ちゃんはおいらの気を悪くしたと思って…そりゃあ、あんまりいい気分じゃあないのは本当に確かだけど!恐る恐る尋ねてきた。
「ああ、おいらは貨物専門の運送業だから頼まれたって人を乗せるなんて。乗客どころかおいら以外の人を乗せるつもりは全くないから、客用の…おいら以外の乗員の為の食料品や生活必需品といった物資を載せる代わりにグッズを沢さn……ゲホゲホッ、いや、別の荷物を載せているから…。」
肩をすくめてそう答えると、密航者ちゃんの青い顔がさらに青くなったり赤くなったりさせて頭を下げてきた。
「ってことは、私が使ったバッテリーや飲食物、って物凄い大切なものなのでは?あ、倉庫の空調だって思いっきり使ってたから…燃料とかたりないのでは…。」
「まあ、そうなるかなあ?」
「わ、わ、私、私っ、ごめんなさいっ!」
体調がさらに悪くなったわけではなさそうなのに、密航者ちゃんの顔色は変化は止まらず青と赤を行き来したまま長椅子から飛び降りる勢いで床に土下座をし始めた。
「携帯スナックとかの飲食物は渡されたものを持ち込んでたんですけど、パウチの飲み物が口に合わなくて、収納庫の中のドリンクや携帯食を食べちゃったし、宇宙服のバッテリーだって何個も使ってしまって…。ごめんなさい!いえ。謝って済むことじゃないんでしょうけど…って、確実にダメな事ですね…。」
「そういえば床に食べ残し?やパッケージがいっぱい散乱してたね。」
見覚えのある携帯スナックの空き袋が散乱していたなあ。おいらも疑うことなく食べてしまったものと同じ携帯スナックの空き袋が。
「この船に連れてきてくれた紹介者さんが、貨物庫に乗る時に宇宙服と一緒に食べ物や飲み物が詰まった箱をくれて…。それで、その時に庫内の操作や収納庫に入っている物は好きに使っていいからって言われてて…。」
青くなった顔のまま話をつづけ、
「…その、お小遣いを全部出して払っていたし、そういうものなんだって思ってしまって…。それで渡された携帯スナックと収納庫のドリンクを飲んで過ごしていたんですど、なんだかお腹が痛くなってきてしまって熱も出て…気が付いたらこの状態で…。」
「それで、おいらの船に君を連れてきた人って、どんな人だったか覚えている?」
「あ、はい。容姿はこんな感じの人で……、………、…………。」
密航者ちゃんから聞いた密航紹介者とやらの容貌は、パリピ兄弟の兄とそっくりだった。
はぁ~……。通りで弟が一人で港内をうろついていた訳だ。
おそらく兄弟が渡して来た携帯スナックやパウチ飲料に何かの薬が入れられていたのだろう。この子が渡された飲食物とおいらが渡された飲食物で同じ薬が使われているかは判らないけど、可能性は高そうだ。
もしかしたら渡された飲み物を飲まなかったことで薬が変に作用してしまい、この子に熱が出てしまったのかもなあ。本当に大事に至らなくてよかった。
本来なら眠っているだけの効果だったんだろう、おいらみたいに。いや、それにしても眠らせ過ぎだが!
貰った携帯スナックやパウチ飲料を成分分析出来ればいいけれど今ここでは無理だ。とは言え残っている分は保管しておくに越したことは無いだろう。
「あの、こんな長話してて良いんですか?燃料とか食料も無いですよね?私、その、が、頑張って覚悟します、私が死んじゃったほうが良いですよね…。お父さんお母さん、最期に一目会いたかった…。」
深呼吸した後、密航者ちゃんはぎゅっと目をつぶってぽろぽろと涙を流した。
「え?なんで泣いてるの?」
「だって、燃料とか食料とかも無いのでしょう?つまりもう試験プラントへたどり着くことは出来ないじゃないですか、私たちこのまま宇宙の藻屑になって干からびていくしかないじゃないですか…。」
「予定を過ぎても試験プラントに到着しなかったら、宙域警備隊に捜索されると思うから藻屑や干からびたりする前には、何とか見つかるんじゃないかなあ?」
「なっ、何を呑気な事を言ってるんですか?捜索されるのはそうかもしれませんけど、見つけてもらうまでに食料や燃料が持たないんじゃないですか?その…私の所為で…。だからそんな呑気な事をのんびりしたことを言っていないで、もっと私の事を怒鳴ったり罵ったりして良いんですよ?その権利があなたにはあるはずですよ??」
「て言われてもなあ。さっき会ったばかりの子供にいきなり怒鳴ったりなんて、おいらには難易度高すぎな行動だしなあ。」
「でもっ!」
ちらりと密航者ちゃんをみて
「流石においらの船に勝手に乗り込んだ事は、怒られなきゃいけないけどだけどさ。感情に任せて当たり散らしたところでこの状況がどうにかなるわけでもないし。」
「…っ、…それはそう、そうですけど…。」
密航者ちゃんは口をぎゅっと閉じて俯いた。
「はぁ~、まあこうしていても事態が変わらないのは確かだから、やるしかないんだけどなあ~!」
おいらは立ち上がって大きく伸びをしながら体を少し動かして軽くストレッチを行い、とある覚悟を決めた。
「い、いったいどうしたんですか?」
おいらを見上げ問いかけてきた密航者ちゃんに、今座っている即席の長椅子から離れて船室の隅に移動するように頼むと、敷いたシーツをはぎ取って座面やマットを外し、その中に詰め込まれたカラフルな印刷がされているそれなりの大きさの箱たちを取り出した。
ドサッ、ドサッ、ドスン
「ああ…とうとうこの子達を開封しなきゃいけないんだよなあ~。」
「えっと、それは開けちゃダメな箱なんですか?」
ポップなカラーでかわいらしい推しちゃんのキュートなデザインが印刷された厚手の箱達の前で項垂れているおいらを見かねたのか、密航者ちゃんが恐る恐る声をかけてきた。
「ダメって言うか…開けたら印刷が破れちゃうでしょ!?特にこのテープの部分!テープに描かれた推しちゃんも、箱に印刷された推しちゃんのロゴも!」
厚手の専用箱を大きく彩る可愛いプリントの上に張り付けられた可愛いデフォルメイラストの梱包テープ部分を指さしながら、思わず強い口調で詰め寄ってしまった。
別においらは推しの限定グッズを使うのが嫌なんじゃない、推しを破くのがなんとなく嫌で…それに限定デザインはなるべく綺麗に保管しておきたいし。
…限定デザインのグッズ使用中に付いた傷?それはまた別の話だ。
こう…推しちゃんの可愛いプリントが確実に損なわれるのも嫌だし、自分から意図的に傷つけたような感じがして、今すぐ必要って訳じゃないのを良い事にずーっと開封を避けていたんだよね、限定販売のホームシアターとセットで買ったこの限定販売のポータブルバッテリーセット。
いや、どちらかというと定期的に発売される限定ポータブルバッテリーのセット商品である高級高額家電が今回はホームシアターセットだったと言った方が近いだろうか?
勿論セットで買うと特典として限定MV収録のデータが付いてくるって寸法さ!
前回はおまけが充電パネルだったし、その前は空調機器で…そうそう、最初のころは非常食のセット─レトルトや缶詰やパック食品とそれを温めるポータブルキット─や避難用キット一式─工具箱やランタン等の各種便利グッズの入った─だったのが、随分と成長したものだ。
「…アノ、ソレッテ既存品ニ限定プリントシタダケノ特別価格販売……。」
「ん?君、今なにかいった?」
「ブルブル!イイエ、ナンデモ…ナイデス。」
こんな風に推しちゃんは実用的なグッズばかりを出してくれる心優しさが素晴らしくってますます推せる!ってもんよ!
そんな心優しい推しちゃんの顔をたとえイラストであっても傷つける事なんてできなくて…でも背に腹は代えられないしおいらだけならともかく、密航してきたとはいえ子供が居るのだ。見捨てたりなんてできないし、したくない。
そもそもそんな見捨てるようなことなんてしたら推しちゃんに顔向けできない。
おいらだけだったら、推しちゃんのグッズと共に宇宙を漂うのも…って駄目だ、推しちゃんの新作ライブを見られなくなるじゃないか!だからそれは却下だ!
「ああ…こういう梱包材ってどうして綺麗に剥がれないんだろうなあ…。特に梱包テープなんて箱もテープ自体もビリビリになってしまうんだよなあ。」
心は決まっている、決まっている…けど!少しくらい躊躇ったって良いじゃないか。
「あの、この船ってドライヤーとかないんですか?そういうのがあれば綺麗に剥がせますよ?」
え?
「えっ!??」
「えっ。」
「「えっ?」」
「き、き、君。いま何て!??」
「こういうテープって糊をドライヤーとかで温めてあげれば割と綺麗に剥がせますよ?もし糊の跡が残るなら消しゴムとかで優しくに擦ってあげてもいいし…。」
「ドライヤーも消しゴムもこの船には無い…。」
「消しゴムなら持ってますよ。持ち込んだ荷物の中に筆記用具があるのでその中に。ドライヤーが無くても…温風…そうですね、温められるものとかがあれば。」
「温められるもの…ポータブルカイロならある…!あと、限定グッズの非常食セットにパウチ食を温める為のポータブルヒーターが入っていたはず!なんならそのためのポータブル電源セットだし…先にその箱から開ければいいのか!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
ペリッ、ペリペリ、ペリッ、ピッ!
「ふう、これで専用箱の梱包テープは全部綺麗に剥がせました!」
「お、おお。全部綺麗に剥がれた…。箱は勿論の事、組み合わせ柄風の梱包テープも破れたりしわくちゃになったりしていない…。」
全ての専用箱のテープが綺麗に剥がされ、剥がしたテープをクリップボードに仮止めしたおいらは、密航者ちゃんの手際の良さに関心して感嘆の声を上げた。
クリップボードに仮止めしたテープの粘着力は弱まってしまっただろうけど、鑑賞専用にするから問題はない。
「えへん!これでも両親からのプレゼントは、箱もリボンも包み紙もシールも全部ぜーんぶ綺麗に取っていたんですよ!両親は仕事でとても忙しい人だから…でも、毎月毎月ちゃんと手紙やプレゼントを贈ってくれて…。」
「ふんふん。それでこういう特技が培われたのか、すごいなあ。」
「…でも、そうやって保管していたものは全部燃やされちゃって…。そんなゴミを大事にしてるなんておかしいって言われて捨てられて…。」
密航者ちゃんの眼に再び涙が滲んできた。
しまった。そうだった。イヤな事を思い出させてしまった。何か慰めないと。
「これからまた、いくらでも集めれば良いじゃないか。」
「でもきっと、怒られてもう両親からも嫌われてしまうかも…。」
「そんな…」
そんなことない、と言おうと思ったけれど、落ち込んでいる密航者ちゃんが欲しいのはそんな言葉じゃないだろう。
もし落ち込んでいるのが自分だったらと考えると、余計に不安をこじらせるような言葉は帰って逆効果だ。となれば…
「…もし、もしそんなことになったとしても、君のご両親がどんなことを言ってきたってどんな事を思ったって、そして君のいた学院の人たちが何を言おうとも、君のおかげで推しのグッズを、心置きなく!買ったものが使えるんだか、おいらは本当にとても助かったよ!」
おいらは深呼吸して、呆気にとられた顔の密航者ちゃんに向かって、さらに続けて言った
「君のおかげで、おいらは救われたんだよ!おいらの長年の悩みを解決してくれて、君は推しちゃんが遣わせてくれた女神様みたいなものだって君のご両親に伝えるから。もし嫌われたりしても遠慮なくおいらに言ってくれて良いからね!」
「め、女神様って、私が?…ですか?でもあの、推し…のアイドルさんがあなたにとっての女神様じゃないんですか?」
おいらの剣幕に、すっとんきょうな…これがいわゆる“鳩が豆鉄砲を食ったよう”な顔なのだろうか、恥ずかしそうな顔で驚き困惑しつつも言葉を返してくる密航者ちゃんに少しほっとしながら話をつづけた、
「推しちゃんはねえ、女神様というよりもそんなに遠い存在じゃなくて、もっともっと身近に居てくれているんだよ。そう…例えば、灯りとか空気とか水とか…生きるにはあって当たり前っていうか…ありふれた存在なんだよ。」
「…ぷっ。なんですか、それ。特別な人ならもっとすごく大切なものに例えてあげてくださいよ!」
推しちゃんの素晴らしさをうっとりとした言葉て続けているおいらに、合いの手?を入れてきた密航者ちゃんはなんだか肩の力が抜けたようで声色も随分落ち着いたものになっていた。
「いやあ、でも人間って空気や水が存在してくれないと生きていけないじゃないか?それと一緒だよ!、推しちゃんはただ存在してくれるだけでいい!その上歌ったり踊ったりしてくれておいら達をさらに幸せにしてくれているんだからそれだけで奇跡!奇跡的な出来事にさらに効果を求めちゃいけない!」
おいらは推しちゃんが描かれた箱を丁寧に畳みながら、どうにかして綺麗に飾れないかを思案しながら答えた。
そんなおいらの姿を、密航者ちゃんは涙の引っ込んだ真っ赤な目でなんだか晴れやかな笑顔をして見ている。
「まさか、こんなこと…贈り物の包装を丁寧に集めているなんてって学院じゃ先生にもクラスメイト達にもバカにされていたのに、これほど喜んでくれる人がいるなんて。」
「本当にね!誰かから見ればつまらない無駄な事でも他の誰かにとっては大切で重要な事だってあるってことさ。どんな事でもそうなる訳じゃないけれど、そうしたことの積み重ねが勉強って奴じゃないかなあ。」
おいらは一呼吸おいてから、密航者ちゃんを励ませるように頑張って続けた。
「失敗だって人生の経験さ。ってやつ。」
「失敗だって経験…。」
密航者ちゃんはおいらの言葉を繰り返しながら、何か考え込むような顔で俯いている。
「さあ、こんなものかな。」
おいらは推しちゃんの描かれた化粧箱を納得のいく場所へと飾れたので、バッテリー機器の配線の準備に取り掛かった。
ボックス椅子の用は済んだし、密航者ちゃんにそこへ座るように促した。
遠慮がちに座ると両手を両ひざの上で握り締めて何かをじっと考え込んでいる。彼女なりに色々と考えているんだろう。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「よいせっと…こっちはバッテリーも充電パネルも接続できたし動作も順調で問題ないな。後は…。」
おいらは密航者ちゃんをじっと見据えて言った。
「後は、怒られる準備はOKかい?」
「は、はい! あ、あの、もし…、もし……。」
密航者ちゃんはボックス椅子から立ち上がり、少し俯きながら体をもじもじとさせ、何かを言おうとして…でも中々言いだせないのか言葉を詰まらせた。
多分だけど、おいらに聞きたいのはこれだよなあ。
「もし怒られて、ご両親から嫌われたりしたら、また専用箱を開けにきてよ。今回の配達が終わったら、新しい限定グッズが届く予定なんだ。これからもね。」
「…! はいっ、お願いします!」
密航者ちゃんはそう言うと、おいらに向かってぴょこんと勢いよく頭を下げた。
そうしておいらは操舵室へ向かい、緊急システムの起動…つまり救難信号を発信した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
結局、救難信号を発して直ぐに宙域警備隊がおいらの船を保護しにやって来た。
直ぐにと言っても宇宙感覚でいうところのって奴で、実際には3-4日程度かかっている。
おいらがとっておきの限定グッズを使わなくても、燃料はギリギリ丁度間に合った事になる計算だ。
けれど、未開封の大事な限定グッズを使った事が無駄だとは思わない。
だって試験プラントにたどり着いて下船したばかりのおいらの目の前には両親と抱きしめあう密航者ちゃんの姿がある。
宙域警備隊の到着が早かったのは、まあそのやはりあの兄弟が“なぜかおいらの貨物船にとんでもない事が起きる”と密かに大々的に自慢していたことを小耳にはさんだ人が通報してくれていたからだ。
その為、警備隊の1隻がいつもの巡行ルートを変更し、おいらの船を追って来ていたのだそう。
出港早々に自動運転に任せずに手動で操舵をしていたら追って来ていた警備隊の船に気付いたかもしれないけど、もし手動で操舵をしていたら携帯スナックに入れられていた薬のせいでそのまま眠り落ちてしまい、予定の航路をそれるだけでなく最悪な事態だと船の動作が停止していたかもしれない。
密航者ちゃんの証言やパリピ兄弟から渡された飲食物─携帯スナックやパウチ飲料─といった証拠品を元に、彼らが密航に深くかかわっているとして宙域警備隊が厳しく捜査してくれるとの事で一安心していいだろう。
涙の再会はまだまだ終わらない様だ。
密航者ちゃんの─勿論おいらもだが─ひと月近くも着た切り雀なボロい宇宙服を気にすることなく抱きしめて離さないご両親の姿に、おいらの出番はもうないだろうと確信したのでその場を離れようとした時、ご両親と目が合い軽く会釈しておいらは踵を返し、その場を後にした。
おいらは宇宙を駆けるトラック野郎。
乗せた荷物の無事到着を確認したら、おいらの仕事はそこで完了。
次の荷物がおいらを待ってる。
受け取り拒否は簡便な!
◇◇◇◇◇◇◇◇
♪~♪♪~♪♪~♪~
「最近は推しちゃんの曲が色んな配信番組で流れて来るな、やっと世間も推しちゃんの魅力に気付いたみたいだ。」
おいらは、その配信番組を流しっぱなしにして、貨物庫へと荷物の整理に向かう。
聴きもしないのに、聞こえもしないのになぜつけてるかって?
そんなの推しちゃんの曲をぶった切るだなんてもったいないことできるもんか!してたまるか!
心の中でそう叫び、おいらは扉を勢いよく開閉した。
ガチャッ、バタン。
♪~♪♪~♪♪~♪~
─本日のゲスト、試験プラントで活躍中の博士夫妻が最近よくお聞きになっているという楽曲をお届けしました!─
─何でも同居中のお嬢様の影響だそうですよ。親子で仲良く同じアーティストの楽曲を楽しむ…素敵ですね!─
─それではまた次回、お会いしましょう!─
END
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