第八話 推しの悲恋ルート、全力で潰す
計画が実行に移れたのは、五歳になった春のことだった。
年に一度の『聖祭』——王国最大の宗教行事。
その日だけは各地の高位神官たちが王宮に集まり、厳かな式典が執り行われる。
ヴェルナー家の当主であるお父様も当然出席する。
……そして今年は、そこに『子どもが一人増える』だけじゃなかった。
今年は特別に——双子の聖女として注目を集めていた私たちも、連れていってもらえることになったのだ。
といっても、注目の中心は私ではない。セリアだ。
四歳の段階で、セリアに聖女の素質があることがすでに明らかになっていた。
手のひらに灯る、微弱な聖属性の光。
暗い部屋でも、ふわりと白く滲むあの輝き。あれを見せられたら、誰だって騒ぐ。
ヴェルナー家にとっても王国にとっても、新しい聖女の誕生は重大な慶事だ。
お父様は意気揚々として、セリアを王宮に披露することを決めた。
私は?
聖女の素質がないことはすでに確認済みだったが、『双子を引き離すのはかわいそう』というお母様の言葉で、同伴が許された。
要するに、私は『おまけ』。
ありがたいおまけだ。今日はこの立場を全力で利用する。
「まりあんな、こわくない?」
馬車の中で、セリアがそっと私の手を握る。
革の匂い。車輪が石畳を叩く音。窓の外には王都の道がずっと続いていて、人の声と春の空気が混ざって流れ込んでくる。
私たちにとっては初めての王都への旅だった。
「怖くないよ。セリアは?」
「ちょっとだけ……どきどきする」
「大丈夫だよ。一緒にいるから」
「うん!」
ぱっと顔を輝かせるセリア。……この笑顔は守る。絶対。
同時に、私は胸の中で計画をもう一度なぞった。
今日の目的は二つ。
一つ、クロードとセリアを引き合わせること。
二つ、今日はあくまでセリアを売り込む日。私自身の顔を覚えてもらわないこと。
そう、二つ目がとくに重要だった。
私の目標は『セリアをクロードルートに乗せること』であって、私自身が目立つことではない。
今日の主役はセリア。私は影。笑っても小さく、喋るなら短く、視線は下げる。五歳児なりの『地味』を徹底する。
(頼む、うまくいって……!)
王宮は広大だった。
白い石造りの建物は、五歳の目には御伽噺の城そのもの。
巨大な柱と高い天井に、つい首が上を向く。
でも見上げている場合じゃない。
お父様の後ろにぴたりと張りつき、セリアの隣でおとなしく呼吸する。
式典会場の大広間には、すでに多くの神官や貴族たちが集まっていた。
視線が刺さる。双子、双子、と囁く声がする。
セリアの髪が光に透けて、菫色の瞳が一層目立つ。……やっぱり主役だ。
その時。
私はあえてゆっくり、広間の隅へ視線を滑らせた——。
(……いた)
金茶色の髪の、男の子。
年齢はおそらく六歳か七歳。
小柄なのに背筋がまっすぐで、周囲の大人たちに囲まれても表情が崩れない。
翡翠色の瞳が、静かに広間を見渡している。
誰かを探すみたいに、でも焦りはない。
間違いない。
クロードだ。
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