第七話 じゃない方の役割
四歳になって、私はある程度複雑な思考を外に出せるようになってきた。
……といっても、『外に出す』のはかなり限定的だ。
大人みたいに理路整然と喋れるわけじゃないし、そもそも子どもが急に賢すぎる言葉を使えば、目立つ。危ない。
だから私は、表向きは『四歳の子ども』そのままに、セリアと二人で遊んでいるふりをしながら、頭の中だけで将来のことを組み立てていった。
セリアが昼寝をしている時。
みんなの足音が遠のいて、部屋がしんと静まる時。
そんな一人になれる隙間に、私はゲームの記憶を引っぱり出して、丁寧に並べ直した。
忘れたら終わりだ。思い出せるうちに、できるだけ正確に。
まずは、基本設定の確認。
舞台は『アルカリア王国』。
聖属性の魔法が発達した世界で、聖女は国の守護者として重要視されている。
祈りと魔法が直結していて、神官の言葉一つで空気が変わる——そんな雰囲気の国だ。
ヒロインのセリアは、双子の姉である私が聖女の資質を持たなかったのに対し、突出した聖女の資質を持って生まれた特別な存在。
『選ばれた子』。そう呼ばれてもおかしくないくらい、最初から『役目』を背負わされる子だ。
セリアは十六歳で王立学院に入学し、そこで攻略対象の男性キャラたちと出会う。
攻略対象は全部で四人。
私は頭の中で指を折った。……よし、覚えてる。
一人目、王太子クロード・ヴァレンシア。
金茶色の髪に翡翠色の瞳を持つ、王国の次期国王。
知性的で公正な人物だが、どこか孤独な影がある。
唯一のハッピーエンド担当。ここだけは、絶対に落とせない。
二人目、騎士団長の息子ランベルト・アシュリー。
赤みがかった黒髪に黒い瞳を持つ、実直な青年。
セリアを守ることを誓うが、ある事件で命を落とすバッドエンドが待っている。
守ってくれる人ほど先にいなくなる、あの理不尽ルート。
三人目、宮廷魔術師見習いのエリオット・ファルケン。
白金色の髪に紫の瞳を持つ天才。
セリアを愛するが、禁忌の魔法に手を出し、悲劇的な結末を迎える。
『やめて』と言っても止まらないタイプ。プレイヤーの胃が死ぬ。
四人目、隣国の王子アレクシス・ルヴォワール。
黒髪に金の瞳を持つ、傲岸不遜な王子様。
セリアに出会って変わろうとするが、政略結婚の犠牲になる。
変わり始めたところで折られるのが、いちばん残酷だった。
(とりあえず、大切なのはクロード)
私はそこで、深呼吸する。
欲張って全ルートを救おうとしたら、たぶん全部失敗する。
まずは、唯一の『救い』を確実に掴む。順番を間違えない。
クロードルートのストーリーを思い返す。
セリアは学院でクロードと出会い、最初はすれ違いが多いものの、徐々に距離が縮まっていく。
クロードはセリアの純粋な心に惹かれ、セリアはクロードの孤独に気づいて寄り添う。
様々な事件や妨害を乗り越えて二人は深く結ばれ、クロードが王位を継ぐとともに、セリアは王妃となる——。
あのエンドだけは、最後に涙が『嬉し涙』になる。私はそれを知っている。
ゲームをプレイしていた時、私はクロードルートを「感動的だけどヒーローがちょっと地味かな」と思っていた。
攻略対象の中ではクロードが一番『いい人』ではあるのだが、キャラとしての魅力は他の四人のほうが際立っていて、クロードルートは『ハッピーエンド目的』でプレイする人が多かった。
(……でも、それで十分だ)
私は計画を立て始めた。
まず近いうちにやるべきことは——王宮でクロードに会う機会を探すことだ。
ヴェルナー家の当主であるお父様は、年に数度、王宮での式典に出席する。
幼い子どもを連れていくことは通常ないが……。
(お母様に甘えよう)
『行きたい』とねだるのは、四歳の特権だ。
無邪気に見せかけて、狙いは一本。ここで会えれば、未来が変わる。
四歳の私は、密かに計画を固めながら、表向きは無邪気な子どもとしてセリアと庭で花を摘む日々を過ごしていた。
花びらを髪に乗せて笑うセリアを見ながら、私は心の中だけで何度も確認する。
——この子を、泣かせない。そのための準備を、今から始める。
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