第六話 まずは生存フラグを折る
三歳になると、かなりしっかり話せるようになった。
お母様のクレアは「マリアンナは言葉を覚えるのが早いのね」と嬉しそうに笑ったが、そりゃそうだ。
前世の記憶があって、大人の脳みそで子どもの言語を習得しているのだから、普通の子より早いのは当然——。……と言いたいところだけど。
私はわざと『少し早い程度』になるよう調整した。
あまりに早すぎると怪しまれる可能性があるし、なにより——セリアに不思議がられたくなかった。
「まりあんな!なんでそんないっぱいことば、しってるの?」
その一言が、胸に刺さる。
刺さるけど、可愛いから困る。いや、困ってる場合じゃない。
「えっ、えとね……」
「かしこいって、いってたよ、おかあさまが。まりあんなは ものおぼえがいいって」
「……そうなの、かな」
「うん!まりあんなは、すごいんだよ!」
ぱあっと咲いたみたいな笑顔。
その顔を見た瞬間、私はまた心の中で絶叫した。
(かわいい!!!!)
守りたい!その笑顔!!!
前世でゲームをプレイしていた時も、セリアのことが大好きだった。
攻略対象のヒーローたちより、ずっと好きだった。
ヒロインなのに最推しキャラというのも変な話だが、そういうことがあるのだ。あるったらある。
セリアの真っ直ぐで純粋な心。
誰かの痛みを自分のことみたいに感じてしまう、その優しさ。
どんな状況でも笑顔を見せようとする、その強さ。
ゲームで見ていた時から、私はずっと彼女が好きだった。
そして今、実際に双子の姉として隣にいて——もっと好きになった。たちが悪い。
「まりあんな、どうしてわらってるの?」
「んー……りりあなのこと、すきだなって、おもって」
「わたしも!まりあんなのこと だいすき!」
元気よく言って、セリアが私に抱きついてきた。
小さくて、柔らかくて、ふわっとミルクみたいな匂いがする。腕の中があったかい。
今の私は、推しの幸せが最優先だ。
クロードが地味でも、いい人でも、関係ない。
セリアが笑って終われる。それがすべて。
では、そのために何をすべきか。
まず一番重要なのは、セリアとクロードが出会う機会を作ること。
ゲームでは学院入学後に出会うが、私たちはヴェルナー家の娘だ。
神官の娘として、王宮の行事に参加する機会もある。
幼いうちから接触を持てれば、それだけ有利になる。
幼少期の『印象』は、案外、後まで残る。そこを育てる。
次に重要なのは、セリアの邪魔をする敵対キャラたちへの対策だ。
ゲームには『セリアを陥れようとする令嬢キャラ』が複数登場する。
あの手の嫌がらせは、最初は小さい。小さいからこそ見逃される。見逃されるからエスカレートする。
筆頭はカロリーナ・ボルドー公爵令嬢。
クロードに熱烈に求婚していた彼女は、クロードがセリアに近づくにつれてセリアへの嫌がらせをエスカレートさせる。
ゲームではその嫌がらせが、時に危険なレベルに達することもあった。
転ばせる、閉じ込める、噂を流す——『事故』のふりをした悪意。笑えない。
(カロリーナは危険だ……)
他にも、聖女の力を狙う闇属性の魔術師集団『影の教団』。
隣国の思惑に巻き込まれる政治的陰謀。
セリアの行く手には、可愛い顔をした障害も、剥き出しの刃も、いくつも待ち受けている。
(全部、先手を打ったうえで……守る)
改めて、心に刻む。
この子の悲恋の運命を、絶対に変えてみせる。
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