第五十三話 妹の尋問タイム
「どうだった!?」
歓談の時間が終わってセリアに合流した瞬間、開口一番それだった。
さすが妹。
「どうって……」
「顔が赤い。うまくいったんだね!?」
「……うまくいった、かな」
「かな、じゃなくて!詳しく!」
「あとで話す!今は——」
「マリアンナ」
セリアが、急に真剣な声になった。
「幸せそう」
「……そうかな」
「うん。こんな顔のマリアンナ、見たことなかった」
「こんな顔って」
「照れてて、嬉しくて、でもまだ信じられない、みたいな顔。最高だよ」
セリアがぱあっと笑った。
「よかった!!本当によかった!!」
「……こっちが恥ずかしいから、そんな大声で言わないで」
「やだ!嬉しいんだもん!!」
セリアが私の腕を抱える。
ぎゅっとされて、やっと足が地面についた気がした。
さっきまで、ふわふわしていたから。
「ねえマリアンナ。私、正直に言うと——マリアンナが幸せになれるかどうか、少しだけ心配してたよ」
「心配?」
「マリアンナ、自分のことを後回しにしすぎるから。殿下が好きでも、私のためってずっと押し込めてたから。もしかして、殿下のことを受け取れないんじゃないかって」
「……」
「でも受け取れたんだね」
「……受け取れた」
「えらい」
「褒め方が子ども扱いだよ」
「子ども扱いじゃないよ。マリアンナはほんとに、えらいと思ってるから」
セリアの声が、少しだけ低くなる。真剣なまま。
「この十七年、ずっと私のことを考えてくれてた。それはわかってる。でも、その間ずっと自分の気持ちを封じてきたんでしょ。それは——簡単じゃなかったはずだよ」
「……うん」
「だから、えらい。ちゃんと向き合えて、えらい」
「……ありがとう」
「どういたしまして」
セリアが肩に頭を預けてきた。
子どもの頃みたいに軽いのに、今は『支え』の重さがある。
「これからどうなるの?殿下と」
「正式なお付き合いを、ということになった。いずれは——家同士の話し合いが必要になるけど、まずはお父様に報告を」
「お父様、びっくりするかな」
「びっくりすると思う」
「でも喜ぶよ。絶対」
「そうだといいけど……」
「喜ぶって。お父様、マリアンナのことを心配してたから」
「心配?」
「うん。『マリアンナはいつも人のためにばかりで、自分の幸せを後回しにしている』って。私に愚痴ってたよ」
「……お父様が」
「そう。殿下のことが好きなら、ちゃんと話してやれって」
「…………知ってたの!?お父様も!?」
「みんな知ってた。マリアンナだけが気づいてなかった」
「……みんなに知られてたのか私は……」
セリアがころころ笑った。
笑われると悔しいのに、怒れない。
「マリアンナ、いつも人のことはよく見えてるのに、自分のことは全然見えてないんだもん。しょうがないよ」
「……なんか、悔しい」
「でも、ちゃんと気づけたじゃない。それでいい」
「……うん」
セリアがふっと笑いを引っ込めて、少しだけ顔を近づけた。
「マリアンナ?」
「なに?」
「今、幸せ?」
私は少し考えた。
『幸せ』という言葉を、口の中で転がしてみる。
重くない。苦くない。ちゃんと甘い。
「……うん」
「うん、だけ?」
「うん、だよ」
「もっと言葉にして」
「なんで」
「聞きたいから」
私は観念して、息を吸った。
「……幸せだよ。セリアが隣にいて、殿下の気持ちを受け取れて——それで十分、幸せだよ」
「うん」
セリアが満足そうに頷いた。
「私も幸せ。マリアンナがそう言ってくれて、幸せ」
「……バカ姉妹だな、私たち」
「バカ姉妹で何が悪いの」
「別に悪くない」
式典の会場から、笑い声と歓談の声が続いていた。
その向こうで、翡翠色の目がこちらを見ていた。
目が合うと、クロードが軽く頷く。
それを見て、小さく頷き返した。
(……本当に、幸せだな)
今、セリアは私の隣で満面の笑みで笑ってくれている。
そうだ。私はセリアに笑っていてほしかったんだ。
そう思ったら——自分でも驚くほど、自然に笑えた。
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