第五十話 あなたをすぐに見つけてしまう
学院の大広間に、白と金の装飾が施されていた。
天井から垂れる布が光を柔らかく反射し、燭台の炎がその金をゆらゆら揺らす。
普段は厳格で少し冷たい場所が、今日だけは祝福の色に染まっていた。
学年末式典は毎年盛大に行われる。
三年間の学業を修了した生徒たちへの讃辞と、次年度への抱負を語る場。
来賓として王族や貴族の代表が招かれ、学院が『外の世界』と繋がっていることを示す式典でもある。
私とセリアは正装で臨んでいた。
セリアは相変わらず、正装をすると特別な輝きが出る。
銀色の髪が光を受けてきらきらして、菫色の瞳が澄んでいて——『聖女』として申し分ない美しさだ。
私はというと——今日は、いつもよりほんの少しだけ気合いを入れた。
普段は『目立たないように』を意識する。
でも今日は、『ちゃんと』しようと思った。
セリアが選んでくれた淡いブルーグレーのドレスを着て、髪も丁寧に整える。
鏡の前で、何度も深呼吸した。落ち着け。私はただ、向き合うだけ。
「マリアンナ、今日きれいだよ」
「いつもきれいじゃないみたいに言わないで」
「いつもきれいだけど、今日は特別にきれい。——殿下に見せたいって思った?」
「……少し」
「かわいい」
「やめて」
「かわいいって言って何が悪いの」
「だって、セリアの方がかわいいんだもん」
セリアが小さく笑う。
その笑い方が、背中を押してくれる。
私一人じゃない、と分かるから。
式典は粛々と進んだ。
来賓席の一角に、クロードがいるのをすぐに見つけてしまう。
王太子としての礼装をまとったクロードは、学院にいた頃より格段に威厳が増していた。
立ち姿が違う。視線の落とし方が違う。周囲の空気の締め方が違う。
それでも。
私を見つけた時の目だけは——学院にいた頃と同じだった。
静かで、優しくて、でもはっきりと向かってくるような、翡翠色の目。
(……好き)
自分でそう思って、もう否定しなかった。
好きだ。それだけの話だ。逃げない。
式典が進み、各学年の代表が壇上で言葉を述べる場面になった。
三年生の代表はランベルトだった。
「この三年間、学院で多くのことを学んだ。剣の技術だけでなく、仲間を信じること、正しいことのために立つこと——そして、生き続けることの意味を」
ランベルトの声は落ち着いていて、凛としていた。
あの日『自分を守ることも大切』と話したことを、彼が覚えてくれているかは分からない。
でも『生き続けることの意味』という言葉を聞いた時、胸の奥が少しだけ温かくなった。
きっと、どこかは伝わっていた。
(よかった)
式典が終わり、歓談の時間になる。
セリアと並んで輪に入りながら、ちらりとクロードを探した。
探す必要はなく、クロードはすでに私を見つけていた。
目が合い、クロードが小さく頷く。——呼ばれている。
(……来るんだな)
心臓が少しだけ速くなる。
セリアが私の背中をそっと押した。
「気づいてたの?」
「殿下がマリアンナを見てたから」
「……もう」
「頑張れ」
セリアがにこっとする。
深呼吸して、クロードの方へ歩いていった。
クロードと並んで歩き、廊下の少し静かな場所へ移動する。
式典の喧騒が遠くに滲む、人が少ない廊下の端。
窓から入る光が柔らかくて、足音まで小さく聞こえる。
「久しぶり。元気そうで良かった」
「……殿下も、お変わりなく」
「少し変わったよ」
「どこがですか?」
「マリアンナのことを考える時間が、前より長くなった」
「……それは、私も——」
「照れてる?」
「照れてない!!」
クロードが笑った。前に会った時と変わらない笑い方だ。
でも確かに、一年前より少しだけ大人びている。
『王太子の顔』が濃くなったのに、私の前ではまだ、少しだけ柔らかい。
「手紙の返事、『楽しみにしています』と書いてくれたね」
「……はい」
「嬉しかった。マリアンナが楽しみにしてくれているのが」
「……」
「手紙に『好きだ』と書いてから、ずっと考えていた。直接会って言うべきだったか、と」
「……手紙で先に言ってもらったおかげで、心の準備ができました」
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