第四十九話 前日、手紙が心臓に悪い
学年末式典の前日、クロードから一通の手紙が届いた。
『明日、会えることを楽しみにしている。
式典の後、少し時間をもらえるか?二人で話したい』
短い文章。
でも、読んだだけで心臓がうるさくなる。
たった数行なのに、呼吸の位置がずれる。指先まで落ち着かない。
「来たね」
セリアが隣から覗き込んで、にやりとした。
「返事は書いた?」
「『はい』って書いた」
「それだけ?」
「それだけ」
「マリアンナ……せめてもう少し——」
「それ以上書けなかった!!」
セリアがころころ笑った。
だって仕方がない。前世では乙女ゲームばかりで、リアルの男性と付き合ったこともない。
まして本気で好きになったこともなかった。
『攻略』の手順は知ってるのに、『向き合う』の作法が分からない。
「まあいいよ。明日、実際に話せるんだから」
「……そうだね」
「緊張してる?」
「めちゃくちゃ」
「正直でよろしい」
「うるさい」
そう言い返しながら、セリアが笑っているせいで、つられて笑ってしまう。
胸の奥の固さが、少しだけほどけた。
「……セリア」
「うん?」
「あのね、今更だけど——ありがとう」
「なにが?」
「色々。転生してから、ずっと一緒にいてくれて。教えてくれて。応援してくれて」
セリアが私を見た。
「それはこちらのセリフだよ。マリアンナがいなかったら、私もこんなに安心して学院生活を送れなかった。『影の教団』の件でも、何度も助けてもらったし——」
「でも、セリアも転生者だったんだから、一人でも——」
「一人じゃやだ」
セリアが、すぱっと迷いなく言い切る。
「一人でもできたかもしれない。でも、マリアンナと一緒がよかった。双子に生まれてきて、本当によかった」
「……私も」
「ね」
「ね」
二人でくすくす笑った。
笑いながら、なんだか少しだけ泣きそうになるのが困る。
「明日、頑張って」
「うん」
「私、式典の間、全力で応援してるから」
「式典中は応援しなくていい。普通にしてて」
「式典の後ね。聖女の力フルで使っちゃう」
「それっていいの……?」
「普通より強いかもしれないよ」
「根拠がない」
「でも信じて」
「……信じるよ」
その夜はセリアのベッドで、二人で寄り添って眠った。
転生した時と、同じように。
不思議と、しっかり眠れた。
胸のざわつきが、毛布の下で静かになる。
ぐっすりと、深く——翌朝まで。
生まれる前からお母様のお腹の中で一緒だったんだから、当然かもしれない。
妹の言葉で安心できるのは、それだけ信頼があるということだ。
(明日、ちゃんと話す)
眠る前に、心に刻んだ。
ブックマーク、★★★★★、リアクション
よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ




