第四十八話 書き換えられた悲恋の運命
三年生の春から夏にかけては、意外と穏やかだった。
『影の教団』はほぼ掃討され、カロリーナとの関係も落ち着き、攻略対象たちとの『フラグ牽制』も、だいぶ必要がなくなってきていた。
あれだけ常に警戒していたのに、今は日常がちゃんと日常として流れている。
静かすぎて逆に落ち着かない、なんて贅沢なことまで思ってしまう。
ランベルトは騎士科で頭角を現し、『いずれ騎士団長になる逸材』として評判になっていた。
セリアへの想いも、どうやら『友人として大切に思っている』という落ち着いた形に収まっている。
あの人は本当に、ちゃんと強くなる道を選び始めた。
エリオットは魔術の研究に邁進し、禁忌魔術への関心は——少なくとも表面上は影を潜めていた。
正攻法の研究でも十分な成果が出ているのが大きい。
焦りが減れば、禁忌は遠ざかる。今のところ、その仮説は当たっている。
アレクシスは政略結婚の話が進んでいるけれど、本人は比較的納得しているようで、セリアへの特別な感情は持っていないようだった。
最初に釘を刺したあの日が、無駄じゃなかったのだと思う。
(ゲームと随分変わった……)
私はその変化に安堵していた。
この三年間で、私が行動してきたことは無駄ではなかった。
ゲームの『悲恋の運命』は、少しずつ、でも確かに書き換えられていたのだ。
そして——。
「マリアンナ、あと一ヶ月だよ」
「学年末?」
「殿下が来る学年末式典。私たちが三年生を修了する式典でもあるし、殿下も来賓として来るはず」
「……そうだね」
「緊張してる?」
「……少し」
「うそ。顔がもうがっつり緊張してる」
「してない!!」
「してるってば。でも大丈夫だよ」
セリアが私の背中をぽんぽんと叩いた。
その手が、子どもの頃みたいに軽くて、でもちゃんと頼もしい。
「応援してるから」
「……ありがとう」
「あと、一つだけ言っておく」
「なに?」
「殿下は、マリアンナに対して本気だよ。ゲームの設定のクロードじゃなくて、この世界で実際に育ってきたクロード殿下が、本気でマリアンナのことを好きだって——それは私が三年生でのやりとりを見ていてわかる」
言葉を失った。
否定もできない。肯定するのも怖い。だから、黙るしかない。
「だから、自信を持って」
セリアの目が真剣だった。
「マリアンナは、誰かに好きになってもらえないような人間じゃない。殿下が選んだことには、ちゃんと理由がある。その理由を、マリアンナ自身がちゃんと受け取って」
「……難しい」
「難しいけど、できるよ。マリアンナは難しいことをいっぱいやり遂げてきたんだから」
その言葉が、胸の奥でじわじわ効いてくる。
「……セリア」
「うん?」
「私は前世から、ずっとセリアのことが好きだったけど——今のセリアが、ゲームのセリアより何倍も好き」
言った瞬間、セリアが目を丸くして、次の瞬間には頬を赤くした。
照れるんだ。……可愛い。
「……それを言うのは反則だよ」
「なんで」
「恥ずかしいから!!」
「なんで!セリアが私に言うのは平気なのに、逆は恥ずかしいの?」
「平気じゃないよ!マリアンナがそういうこと言う時はいつも心臓に悪い!!」
セリアが照れているのを見て、なんとなく嬉しくなった。
子供の時、あんなに照れ屋だったセリアのまま。
それだけで安心してしまうのは、我ながら意味が分からないけど。
「……よかった」
「何が?」
「セリアも照れるんだって、安心した」
「当たり前でしょ!!」
セリアがぷうっとした顔で、笑いながら私を叩いてくる。
「もう!変なお姉ちゃん!!」
「変なお姉ちゃんで悪かったね」
「悪いと思ってないでしょ」
でも、セリアはまだ笑っていた。
その笑顔を見て——私は心が決まった。
(学年末、ちゃんと向き合う。全力で)
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