第四十七話 百年だって待てる
翌日の夜——お互い授業中は何度もこっくりこっくりしたが——セリアがもう少し詳しく話してくれた。
魔王ルシファーについて。
「続編の世界では、ルシファーはこの国の北方にある古い魔族の土地の王なんだけど、本編の時系列では封印されてる。で、続編の時代——本編から二十年後に封印が解けて、ヒロインと出会う」
「二十年後……つまり、今から二十年くらい後の話?」
「そう。だからルシファーは今の時代にはまだ封印されてる。どれだけ探しても、今はいない」
「いない……」
「うん。でも、封印が解けるイベントの条件はわかってる。続編のオープニングで語られてたから。その条件が整った時に——解放される」
「それはいつ?」
「続編のヒロインが十六歳になる時。つまり、本編のセリアが王妃になってから十六年後くらい」
セリアがにこっとした。
軽い笑顔なのに、言っていることは重い。未来の設計図だ。
「マリアンナがクロード殿下と結婚して、子供が生まれて——十六年待てば、ルシファーに会える」
「……ちょっと待って、セリア?今さらっと『十六年待てば』って言ったけど」
「うん」
「セリアには好きな人がいるって言ってたけど、それはルシファーでしょ?でも会えるのは十六年後で——」
「待つよ」
セリアがあっさり言った。
迷いがない。笑いもない。ただ、当たり前みたいに。
「十六年?」
「十六年くらい余裕。ルシファーのためなら百年だって待てる」
「……それは本気?」
「本気。この世界に転生したって気が付いたときに、絶対にルシファーと結ばれるって決めたの」
セリアの目に、真剣な光があった。
冗談じゃない。夢でもない。これは彼女の『選択』だ。
「でも、十六年の間、セリアはどうするつもりなの?誰かと結婚するわけじゃないなら——」
「王家の聖女として、国に尽くすよ。王妃になったマリアンナを補佐して、聖女としての役割を果たして——その間に、ルシファーが目覚めた時のための準備もしておく」
「準備?」
「続編では、封印が解けた時に魔族と王国の関係が一気に緊張するの。ヒロインが間に立つんだけど、下地がなければもっと大変だった。だから、その下地を今から少しずつ作っておこうと思って」
言い終えたセリアは、少しだけ肩をすくめた。
やってみせる、と言わんばかりに。
「……セリア」
「なに?」
「それって——すごく大変じゃない?無理やり続編のヒロインになるんだよね?」
「マリアンナが私のために十七年間頑張ってきたんだよ?私が十六年くらい頑張れないわけがない」
「……でも」
「それに」
セリアが笑った。
「私は本当に待てると思ってる。ルシファーはそれだけかける価値があるの。そう思えるくらい、大好きな人なの」
その確信に満ちた顔を見て、私は何も言えなかった。
方向性が違うだけで、情熱の質は同じだ。……いや、セリアの方が強いかもしれない。
(廃人……セリアも立派な廃人だった……)
「でも、ルシファーが実際に会った時、セリアの期待通りの人かどうかはわからないよ?ゲームと現実は違うし——」
「もちろんわかってる。でも、わからなくても会いたい。それだけだよ」
セリアの声は穏やかで、揺るぎなかった。
でも……確かに、前世の私はセリア一点突破で、クロードになんてミリも惹かれてなかった。
「……わかった。私も協力する」
「ありがとう!」
「まあ、まず学年末を乗り越えないといけないけど……」
「殿下に会いに行くんでしょ?」
「……うん」
「絶対うまくいくよ」
「根拠は?」
「感じ」
「感じって、廃人プレイヤーの勘ってこと?」
「そう。廃人の勘は当たる」
「……そうだといいけど」
セリアが立ち上がって、ぐっと伸びをした。
「ねえマリアンナ、一つ聞いていい?」
「なに?」
「前世の私——ゲームのセリアは、マリアンナの最推しだったんだよね」
「うん」
「今の、私のことは?」
私は少し考えた。
答えは、もう決まっているのに、言葉だけが追いつかない。
「最推し、でもあるし——かけがえのない妹だよ。それ以上の言葉がない」
セリアが、ふわっと笑った。
「それが聞きたかった。ありがとう、マリアンナ」
「……どういたしまして」
「さあ、明日からちゃんと寝ようね。二日連続徹夜はさすがに十代の体でもキツイ」
「そうだね……」
「おやすみ、マリアンナ」
「おやすみ、セリア」
電灯が消えて、部屋が暗くなる。
暗くなったのに、不思議と胸は軽かった。
静かに天井を見る。
(セリアも転生者だった。セリアは自分の未来を自分で決めていた)
(そして私の幸せも、ずっと願っていた……ありがとう、セリア)
心の中で言った言葉は、声にはならなかった。
でも、きっと伝わっている。
双子だから。
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