第四十六話 大切な、たった一人の
胸の奥が、きゅっとした。
言われて初めて気づく。
私はどこかで、ずっと『守らなきゃ』の視点で見ていた。
「マリアンナは私のことが大好きで、絶対に守ろうとしてくれてるなって、転生した直後からわかってた。実際その通りだったし」
セリアは一度だけ笑って、すぐに真面目な顔に戻る。
「でも私は——マリアンナに『守られる存在』としてじゃなく、『普通の姉妹』でいてほしかった」
その言葉が、胸に刺さった。
痛い。でも、正しい。
「だから、黙ってた。でも——いつかは言おうと思ってた。マリアンナが自分の気持ちにちゃんと向き合えた時に」
「それが、今夜?」
「マリアンナが『前世』って言ったから」
セリアが私の手を取った。
握り方が、強い。逃がさない握り方。
「教えてくれてよかった。やっと、全部話せる」
「……ごめんね、セリア」
「何が?」
「ずっと、セリアのことを『守るべき存在』として見てた。対等に見れてなかったかもしれない」
「マリアンナのこと、怒ってないよ」
「でも——」
「ただ」
セリアが少しだけ真剣な顔をした。
そこで初めて、ほんの少しだけ頬を膨らませる。
可愛いのに、怖い。
「私の気持ちを無視して、クロードルートに向かわせようとしてたのは、ちょっとイラッとした」
「……それは、ごめん」
私は素直に頭を下げた。
言い訳できない。言い訳したくもない。
「これからは、一緒に考えよう。私の未来も、マリアンナの未来も。二人で」
「……うん」
「私はマリアンナの最推しかもしれないけど、マリアンナは私の——お姉ちゃんだよ。大切な、たった一人の」
その言葉で、喉の奥が熱くなり、目の奥が、じわっと滲む。
泣くのは違う、と思うのに、止められない。
「……泣かないから」
「泣いていいよ」
「泣かない!!」
「泣き虫お姉ちゃん」
「泣いてない!!」
でも声が少し震えていた。
セリアが私の肩に頭を預ける。
髪が頬に触れて、くすぐったいのに落ち着く。
「今夜は長くなるね」
「うん」
「全部、話そう。マリアンナの前世のことも、私の前世のことも」
「……うん」
そうして夜は更けていった。
私たちはお互いの『前世』を話した。
似ているところ、違うところ。
どちらも日本で、ゲームが好きで、でも立っていた場所は少し違う。
私の前世は社会人のゲームオタクで、本編を廃人と言われるほどやり込んでいた。
セリアの前世は大学生のゲームオタクで、続編まで楽しんでいた。
時代は近いのに、微妙にずれている。
だから知っている情報量も、噛み合い方も違う。
セリアの口ぶりから……私と違って、前世ではちゃんと恋愛もしてきたのがわかる。
どおりで恋愛に関して、あんなに積極的なわけだ。
「転生のタイミングが違うから、知ってる情報量が違うね」
「私は続編の知識があるから、魔王のことがわかる。マリアンナは本編を隅々まで知ってるから、細かいイベントやフラグを把握してる」
「そうか……そういう意味では、二人で補い合えるね」
「そう!だからこれからは二人で連携しよう」
セリアのその言葉だけで、胸の奥が少し楽になる。
ずっと一人で抱えていた『地図』を、やっと共有できたみたいで。
「でも、セリアはそもそも『悲恋の運命』に乗らないつもりでいたんだね。最初から」
「当然!ゲームのセリアが可哀そうすぎて、私はそっちには絶対行かないと決めてた」
「じゃあ、クロードルートへの誘導も——私が勝手にやろうとしていただけで、セリアは必要としていなかった?」
「誘導は必要なかったよ。私、殿下とは普通に仲良くしてたし。でも恋愛対象として見るつもりはなかった」
そこでセリアが少しだけ目を細める。
「……まあ、マリアンナが最終的に好きになるとは思ってたけど」
「思ってた!?」
「だって——マリアンナ、初対面の頃から殿下の話をする時だけ目の輝きが違ったよ」
「初対面の頃から!!?」
「うん。私的には、マリアンナと殿下がくっつくのが自然だろうと思ってた」
私はしばらく絶句した。
あれだけ必死に隠していたつもりの感情が、最初から見抜かれていたのかと思うと、恥ずかしさで枕に顔を埋めたくなる。
「……じゃあ、ずっと」
「ずっと待ってた。マリアンナが自分で気づくのを」
セリアがにこっと笑った。
「やっと気づいてくれたね」
「……遅くてごめん」
「全然。これが最高のタイミングだよ」
どこかで鳥が鳴いた。
気づくと窓の外が、うっすら明るくなり始めていた。
夜明け前の青い光が、カーテンの隙間から部屋に滲んでくる。
「……徹夜したね」
「したね」
「今日の授業、居眠りしちゃうかも」
「眠いけど——なんか、すっきりした」
「うん」
セリアが大きく伸びをした。
「マリアンナ、学年末には殿下に会うんでしょ?」
「……手紙でそう書いた」
「ちゃんと向き合ってね」
「……うん」
「応援してる。全力で」
「ありがとう、セリア」
「どういたしまして、お姉ちゃん」
夜明けの光が、部屋に差し込み始め、二人で寄り添って朝を迎えた。
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