第四十四話 夜中の二時
クロードからの手紙——
『マリアンナのことが好きだ』
——この言葉を受け取ってから、三日が経った。
三日間、私は平静を装い続けた。
授業では真面目にノートを取った。
食堂ではセリアといつも通りに会話した。
笑うところで笑って、頷くところで頷いて、『普通』を積み重ねた。
夜も、普通に就寝しようとした。
普通に就寝——は、できなかった。
布団に入って目を閉じる。
呼吸を整える。
……なのに、瞼の裏に文字が浮かぶ。
『マリアンナのことが好きだ』
たった一行。たったそれだけ。
なのに、何度でも浮かんでくる。
読んだはずなのに、また読む。読んだのに、また胸が鳴る。
「……マリアンナ、また起きてる?」
夜中の二時ごろ。
セリアが薄目を開けて、眠そうな声で言った。
「起きてない」
「天井を見ながら目がぱっちり開いてるのに?」
「……寝ようとしてる」
「考えごとしてる顔だよ」
セリアが寝返りを打って、こちらを向くと、暗いのに、目だけはちゃんと私を捉える。
「殿下のこと?」
「……」
「そっか。まあ、仕方ないね」
「仕方ないってなに」
「好きな人に好きって言われたら、眠れないのは普通じゃないの」
「……」
私は天井を見つめた。
言い返したいのに、言い返せない。たぶん正しいから。
「セリア」
「うん?」
「……殿下が、本気だと思う?」
「どういう意味で?」
「手紙に書いてきたのは、その場の勢いじゃないかとか……私への気遣いが、そういう形になっただけじゃないかとか……」
言いながら、自分でも苦しい。
否定したいわけじゃない。むしろ逆だ。肯定が怖い。
「マリアンナ」
セリアが小さくため息をついた。
「殿下があなたを見てきた三年間を思い返して、それでまだ『本気じゃないかも』って言える?」
「……三年間」
「毎月の手紙。学院に視察に来た時の行動。舞踏会の時のこと。誘拐事件の夜のこと。——全部、マリアンナ自身が経験してきたことでしょ」
「……でも」
「でも、なに?」
私は言葉を探して、息を吸って——やっと、小さく吐いた。
「……怖いの」
「何が?」
「受け取って、向き合って、もしうまくいかなかったら……それが怖い」
自分の声が、思ったより幼く聞こえて、私は少しだけ腹が立った。
でも、この気持ちは嘘じゃない。
「前世では——」
そう続けようとして、私はそこで自分の舌にブレーキをかけた。遅かった。
「前世?」
セリアが、私を見る。
暗い部屋なのに、視線の輪郭がはっきり分かる。
私は固まった。
「……いや、なんでもない。忘れて」
「マリアンナ」
セリアが静かに言った。静かなのに、逃げ道を塞ぐ声。
「前世って言った。聞き間違いじゃないよね?」
「……」
「私も、言わなきゃいけないことがある」
セリアは体を起こした。
闇の中で、その瞳だけが真剣に光っている。
「今、ちゃんと話そう。二人で」
「……セリア?」
その目の真剣さに、私も体を起こす。
そうして、夜中の二時から——私たちは長い話を始めた。
「まず、私から言う」
セリアが静かに切り出した。
暗い部屋の中で、声だけがやけにはっきり響く。
「私も、前世の記憶があるよ」
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