第四十一話 封印し続けてきた気持ち
セリアの声が、静かだけれどまっすぐに胸に届く。
責めているんじゃない。願っている。
だから余計に、逃げられない。
「マリアンナが自分を後回しにして、私をどこかに送り届けようとする——それを見るのがつらい。私は、マリアンナの幸せが見たい。それが私の一番の望みだよ」
「でも、セリアには——悲しいことが待っていて……」
思わず言いかけて、口をつぐんだ。
「悲しいこと?」
「……なんでも」
「マリアンナ」
セリアが、私の手を取った。
指先が温かい。いつもと同じ温度なのに、今はそれだけで落ち着けない。
「私のこと、心配してくれてるの、わかってる。でも大丈夫だよ。私には、私なりの考えがある」
「セリア……?」
「まずは——マリアンナ自身の気持ちに、ちゃんと向き合ってほしい。殿下のことを、本当はどう思ってる?」
私はしばらく黙った。
言葉にしたら、戻れない気がした。
でも、セリアの目は逸らさない。逃がしてくれない。優しく。
(……本当は)
「好き」
声に出すつもりはなかったのに、出ていた。
自分の声が、思ったより小さくて、思ったより真っ直ぐで、そんな自分に驚いた。
「ほらね。だから、ちゃんと向き合って」
セリアが少しだけ勝ち誇ったように、でも温かく笑った。
私は握られた自分の手を見つめていた。
爪の形が、なぜか滲んで見える。
(好き、か……)
赤ちゃんの頃からずっと封印し続けてきた気持ちが、初めて言葉になった。
嬉しいような、怖いような。
胸の奥がほどけるのに、同時に、何かを失いそうで——ふぅ……と息を吐いた。
「でも、セリアのハッピーエンドのために——」
「私のハッピーエンドは、マリアンナが幸せになることも含まれてるよ」
セリアが笑った。
いつもの笑顔なのに、今はやけに強い。
「それを忘れないでね、お姉ちゃん」
「……お姉ちゃんって、たまに言うよね」
「特別な時だけね」
セリアの言葉に少しだけ、泣きそうになった。
なんで妹に、こんなふうに支えられているんだろう。
嬉しいのに、悔しい。
「……ありがとう、セリア」
「うん。どういたしまして」
セリアが私の肩に頭を預けた。
髪の匂いがする。ミルクじゃない、今のセリアの匂い。成長した妹の匂い。
「ねえマリアンナ。私、最近すごく楽しいよ。学院の勉強も面白いし、友達もできたし、みんなと一緒にいるのが嬉しくて」
「……うん」
「マリアンナがいるから、何も怖くない」
「それはこっちのセリフだけど」
「どっちでもいい。一緒にいるんだから」
窓の外で、夜の空に星が瞬いていた。
(向き合う、か……)
まだ怖い。
でも、セリアが『大丈夫だ』と言ってくれるなら——少しだけ、信じてみてもいいのかもしれない。
次の日、私はクロードへの返書を書き直した。
『個人的な頼み、受け取りました。
次からは、一人で突っ込む前に連絡します。
——殿下も、無茶はしないでください。
私が、心配しますので』
最後の一文を書いて、消そうか迷ったけど、残した。
送ってから後悔して、机の上で何度も指を組み替えた。
翌日、返書が来た。
『わかった。気をつける。
マリアンナが心配してくれるなら、僕も気を付けなければならないね。
——それと、『心配する』と書いてくれたことを、すごく嬉しく思っている』
それを読んで、しばらく手紙を持ったまま固まった。
胸の奥が、きゅっと鳴って、熱が集まる。
セリアが覗き込んできて、隠すように抱えた。
「どうしたの?」
「……なんでもない」
「また変な顔してる」
「してない!!」
「なんで認めないかなぁ」
セリアがからからと笑う。
(『嬉しい』と書いてあった。私が心配すると言ったら、『嬉しい』と)
封印が、少し溶けてきた。
でもまだ——もう少しだけ、確かめなければならないことがある。
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