第三十五話 絵師に直接課金したい
一年生の冬——それは、クロードが完全に変わった季節だった、と私は後に断言することになる。
きっかけは、クリスマス前夜の学院の舞踏会。
学院では毎年冬に、フォーマルな舞踏会が開かれる。
上級生下級生を問わず全学年が参加する行事で、ゲームのクロードルートでも重要イベントとして登場していた。
設定ではこの舞踏会で、クロードがセリアをダンスに誘い、距離が縮まる——はず。
「よし、ここだ」
私はわくわくしながら、セリアの準備を手伝っていた。
落ち着け、私。今日は本編の山場。成功させる。
「マリアンナって、本当にこういうのが好きだね」
「好きというか……セリアが綺麗にしてるのを見るのが好き」
「変なお姉ちゃん」
「最推しが綺麗でいるのを見て嬉しいのは普通では?」
「さい……なに?」
「なんでもない!」
危ない。現世の言葉が漏れる。
私は誤魔化すように笑って、セリアの銀色の髪に淡い花飾りを留めた。
鏡の中で、菫色の瞳がきらりと光る。……反則。可愛い。
胸がどきどきする。
ゲームのセリアがこのドレス姿でクロードに『きれいだ』と言われるシーンは、お気に入りイベントの一つだった。
あの美麗なスチルは今でも、目を閉じると瞼の裏に浮かんでくる。
絵師に直接課金したいと、どれほど思っただろう。
「よし、完璧」
「本当に大丈夫?」
「完璧にきれいだよ。行こう」
ホールに入ると、すでに多くの生徒が集まっていた。
ドレスと礼装に着飾った男女が談笑しながら、中央のフロアを囲んでいる。
シャンデリアの光が揺れて、布地のきらめきが波みたいに広がっていた。
私はセリアと並んで会場に入り——さりげなく、セリアをクロードが見えやすい位置へ誘導した。
クロードは上級生たちと話していたが、私たちが入ってきた瞬間、すぐに視線を向けた。
(来た来た!クロードがセリアを見た!!)
ゲームのイベント通りだ。
次はクロードがセリアに近づいてきて、煌めくシャンデリアに照らされて——。
わかる!わかる!!このセリアに見とれない人間なんていないってことくらい!!
「マリアンナ」
呼ばれて、私は固まった。
クロードがまっすぐに私へ向かってきたのだ。
(え!!私に??)
距離が詰まる。
近い。礼装の布の擦れる音が、やけに大きく聞こえる。
「今夜は……きれいだね」
「……え?」
「ドレス、似合ってる」
クロードは、私を見て、そう言った。
私だけを見て。逃げ道を塞ぐみたいに、真っ直ぐに。
「あ……ありがとう……ございます……」
舌がうまく回らない。
私は反射でセリアを見た。
セリアのほうが圧倒的にきれいだ。
なぜ私に言う?イベント、ここじゃないでしょ?
「あ、あの!セリアも!セリアもきれいですよね!?」
「うん、セリア嬢もきれいだよ」
「でしょう!!すごくきれいですよね!!こんなにきれいな妹、世界中探してもいないと思いません!?」
「……マリアンナ」
「はい!?」
「きれいと言われたら、素直に受け取ることも覚えた方がいいよ」
「それは……」
「セリア嬢を前に出そうとするのはわかる。でも、今夜は僕がマリアンナに話しかけてるんだ。ちゃんと受け取って」
——ちゃんと受け取って。
その一言が、胸にドスンと熱を持って重く落ちて、私はしばらく、言葉を失った。
「……では、ありがとうございます」
「うん。あと」
クロードが手を差し出した。
「ダンス、お願いできる?」
「……え?」
「舞踏会だから、ダンスを踊りたい。マリアンナと」
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