第三十四話 直感が鋭いだけ
入学から九ヶ月が経った秋の終わり、『影の教団』が本格的に動き始めた。
きっかけは、学院の魔術棟で発生した『聖属性の魔力暴走』事件だった。
聖属性の魔力が突然暴走し、魔術棟の一部が激しい光に包まれた。
白い光が壁を舐め、床に反射して、目を開けていられないほど眩しい。
怪我人が出たが、幸い重傷者はいない——それでも、学院全体が一気にざわついた。
「聖女がいるから危ないのでは」
そんな囁きが、火種みたいに広がっていく。
暴走の原因を調査すると——仕掛けられた『増幅魔具』が見つかった。
増幅魔具は、近くにいる聖属性の持ち主の力を強制的に引き出して暴走させる器具だ。
つまり、偶然じゃない。事故でもない。
そして、その時魔術棟の近くにいたのは——セリアだった。
「つまり、これはセリアを狙った罠だ」
クロードが状況を整理して言った。
緊急で集まった私とセリア、学院長、そして騎士団の前。
彼の声音は落ち着いているのに、空気だけが張り詰めていく。
「セリア嬢の力を暴走させて学院への不信感を煽り、ヴェルナー家からセリア嬢を連れ出そうとした可能性がある」
「つまり、『学院は危険だ。こちらへ来い』という口実を作ろうとした、と?」
私が言うと、クロードが頷いた。
「増幅魔具を仕掛けた者を今夜中に特定する。マリアンナ、心当たりは?」
「……フォスター助教を調べてみてください」
「助教が?」
「確証はありません。ただ、最近の動きを見ていると気になる点がいくつかあって」
私はゲームの記憶から引き出せる情報を、慎重に選んで差し出した。
確証はないが怪しい。そこに留めながら、クロードが動ける程度に、必要な角度だけを渡す。
言い切れない。言い切った瞬間、私の説明は『直感』ではなくなるから。
クロードはその夜、フォスター助教の調査を指示すると、翌朝にはフォスターの部屋から、教団との連絡に使っていた魔具が見つかった。
彼は即座に拘束され、学院から追放された。
流れが早い。王太子の権限と、準備していた手の速さが噛み合った結果だった。
一連の報告を聞いたセリアが、私を見て言った。
「マリアンナ、フォスター先生のことを事前に知ってたの?」
「知ってたわけじゃないよ。怪しいと思っただけ」
「でも……当たりすぎてるよ。今回だけじゃなくて、ずっと。マリアンナはいつも、何かが起きる前に気づく」
セリアの目が、真剣だった。
責めているわけじゃない。ただ、逃がさない目。
「……マリアンナ、何か隠してることがある?」
私は少し迷った。
喉の奥が乾く。
(言うべきか……?)
でも、前世でこの世界のゲームをやり込んでいたから知っていると言って、信じてもらえるだろうか。
信じる以前に、セリアが混乱するかもしれない。怖がるかもしれない。
それは、今じゃない。
「……直感が鋭いだけ。信じてほしい」
「……わかった。信じる。でも、いつかちゃんと教えてね」
「うん。……いつか」
私の答えに、セリアが頷く。
その『いつか』が来ることを、この時の私はまだ遠い話だと思っていた。
後にセリアが爆弾を落としてくることを、まだ知らなかったから。
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