第二十九話 騎士は惚れっぽい
図書館の事件から一週間後、ランベルトが話しかけてきた。
昼休み、廊下の窓際。
人の流れが少し途切れたところで、彼は私の前に立って、気まずそうに喉を鳴らした。
「マリアンナ嬢、あの時は大変だったね。背中はもう大丈夫?」
「はい、おかげさまで」
「……よかった」
その短い一言に、素直な安心が滲んでいる。
「ランベルト殿も気にかけてくださっていたんですか?」
「そりゃあ、同じ学年だし……あ、いや、セリア嬢も心配してたし」
若干口ごもりながら言うランベルト。
視線が一瞬だけ泳いで、でもすぐ戻ってくる。
正直すぎて分かりやすい。
(ああ、もうフラグ立ってる)
ゲームではランベルトは、セリアへの想いを自覚するのが比較的早い。
入学後の最初の一、二ヶ月で『気になる』状態になる。
騎士のくせに、惚れっぽすぎる。いや、騎士だから惚れっぽいのか?知らない。
(でも、そちらのルートには行かせない)
私は笑顔の形を崩さないまま、会話の舵を切った。
「ランベルト殿は騎士科でしたね。剣の腕はもうかなりのものだと伺いましたが」
「ああ、まあ……お父様の薫陶のおかげで、多少は」
「素晴らしい。王国の騎士団を担う存在として、大きな未来がありますね」
私が微笑むと、ランベルトは照れたように首の後ろを掻いた。
褒められ慣れていない反応。
真面目で、真っ直ぐで——だからこそ、ルートが怖い。
「まあ、夢はあるよ。いつか騎士団長になって、王国を守りたい」
「きっとなれます。あなたには、その素質がある」
「……マリアンナ嬢は、なんかその……話しやすいね」
「ありがとうございます」
「セリア嬢も、感じのいい人だけど……ちょっと、どう話しかけたらいいかわからなくて」
(やっぱりそっちに意識が向いてる……)
私は心の中でだけため息をついて、さらに話題をずらした。
『セリアにどう近づくか』の相談に乗ったら、私が私を殴りたい。
「ランベルト殿には、思い描く騎士像があるんですね。どんな騎士になりたいですか?」
「強いだけじゃなくて、守るべきものをちゃんと見極めて……王国全体を守れるような。個人を守るより、国を守ることが本懐だと思ってる」
「なるほど」
(その『見極める対象』を、セリア一人に囚われすぎないように。今から意識づけを……)
これは些細な会話に見えて、実は重要だ。
ゲームのランベルトルートで彼が最後に命を落とすのは、セリア個人を守るために自分を捨てたから。
『国全体ではなく、目の前の一人に命を賭けてしまう』——その危うさが、彼の最大の弱点でもあった。
今この段階から『国全体を守ること』への意識を強く持たせ続ければ、未来の分岐を少しだけずらせるかもしれない。
少なくとも、『捨て身が美徳』になってしまう癖を、早めに矯正できる。
「立派な志ですね。ランベルト殿ならきっと、多くの人を守れる。そのためにも、自分自身を守ることも大切ですよ」
「自分を守る?」
「国を守るためには、守り手が生き続けなければなりません。捨て身の覚悟は時に必要ですが、それが目的になってはいけない——そう思います」
ランベルトは、私の言葉にじっと耳を傾けてくれた。
目が真剣で、嘲笑も反発もない。真面目な人だ。だから救いたい。
「……なんか、マリアンナ嬢、年上みたいなこと言うな」
「よく言われます」
「でも……なるほどなって、思った。覚えておく」
(少しでも伝わってくれれば……)
ランベルトが自滅エンドを迎えないためにも、この会話の積み重ねが大事だ。
彼はいい人間だ。死なせたくない。
セリアのためだけでなく、ランベルト自身のためにも。
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