第二十一話 二年ぶりの再会
十二歳になった春の聖祭で、私たちは久しぶりにクロードと顔を合わせた。
二年ぶり。
二年前はまだ子どもっぽさが残っていたクロードも、今は十三歳になり、ぐっと少年らしい面立ちになっていた。
背が伸び、肩のラインも少しだけ広くなっている。
表情も以前より落ち着いていて、王太子として『見られる』ことに慣れた気配があった。
(……背が伸びた)
などとぼんやり思っていたら、ほんの一瞬、視線が合った。
翡翠色の瞳がこちらを捉えて——逃がさない。
「マリアンナ」
「お久しぶりです、クロード殿下」
迷いなく私の名前を呼ばれたことに、心臓が小さく跳ねた。
……いや、落ち着け。今日は聖祭。目的はセリア。私は影。影だ。
「二年ぶりだね。元気だった?」
「はい。殿下は?」
「まあ……色々あったけど、元気だよ」
その『色々』がなんなのか、喉まで出かけた。
けれど今は、それを聞く番じゃない。
私は笑顔を作り直して、横にいるセリアの肩をそっと押した。
「殿下、こちらセリアです。三年でずいぶん大きくなったでしょう?今年から聖女としての正式な修業も始めて、力もかなりついてきたんですよ」
「マリアンナ!」
セリアが恥ずかしそうに私の袖を引く。相変わらずの照れ屋だ。
クロードはセリアを見て、軽く微笑んだ、あの、少しだけ温度のある笑い方。
「元気そうで良かった、セリア嬢」
「はい、ありがとうございます。殿下も、お元気そうで」
礼儀正しく答えるセリアを横目で確認して、私は内心にっこり。
(よし、自然な交流ができてる)
この調子で、少しずつ距離を——と思った、その直後。
クロードが私に視線を戻して、静かに言った。
「マリアンナ、少し話せる?」
「え?私ですか?」
「うん。……セリア嬢も一緒で構わないけど」
セリアがきょとんと目を丸くする。
私は『大丈夫』と囁くふりをして、二人でついていった。
クロードは私たちを廊下の隅へ導き、人の少ない場所で立ち止まった。
大広間のざわめきが壁一枚ぶん遠のき、声が少しだけ素になる。
「聞きたいことがあるんだけど」
「……なんでしょう?」
「『影の教団』のことを、マリアンナは知ってる?」
一瞬、体が固まるのを感じた。
名前を呼ばれた時より、ずっと冷たい緊張が背中を走る。
「……影の、教団?」
「聖女の力を狙う、非合法の組織だよ。去年、ヴェルナー家にそこから使者が来たと報告を受けた。マリアンナが疑いに気づいたおかげで事なきを得たと聞いたが——その後、何か連絡は来ていない?」
(なるほど、王宮でも情報を掴んででいるのか)
「直接的な連絡は来ていません」
「そうか」
クロードの声音が少しだけ低くなる。
十三歳のはずなのに、その一言が妙に大人びて聞こえて、私は息を整えた。
「でも、警戒はしていた方がいいと思います。彼らは諦めないと思うので」
「同感だ」
クロードは真剣な目で私を見た。
その目が、まるで『信じている』と言っているみたいで、胸の奥がむず痒い。
「何かあったら、すぐに王宮に連絡してほしい。僕のところに直接、報告してくれていい」
「……殿下が直接、ですか?」
「そのほうが早い。書状よりも確実な伝達手段を用意する。いざとなれば、騎士を手配できる」
「それは……ありがたいですが、殿下のお立場で、私たちのためにそこまでしていただかなくても」
「セリア嬢は国の聖女だ。その保護は王家の義務でもある」
「……そうですね。ありがとうございます」
私はもっともな言葉に頷いた。
頷いたはずなのに、クロードが最後にそっと付け加えた一言が、微妙に引っかかった。
「セリア嬢のためだけじゃなく、マリアンナのためでもあるから」
「……え?」
「マリアンナも、守られるべき人間だ」
言い切ったあと、クロードは視線を逸らす。
まるで、それ以上は言うつもりがないみたいに。
だから余計に、心臓だけが変な跳ね方をしてしまう。
(……なんで今、私の名前が出てきたんだろう)
隣でセリアが、なんだか微笑ましいものを見るような目で私とクロードを見ていたが、私はそれに気づかなかった。
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