第二十話 聖女を崇敬する者たち
十一歳の秋、『影の教団』が再び動いた。
今回は、より直接的な形で——セリアを『聖女として迎え入れる』という『使者』を、ヴェルナー家に送り込んできたのだ。
もちろん相手は『教団』とは名乗らない。
表向きは『王国の聖女を篤く崇敬する者たち』という体裁で、高価な贈り物を携え、丁寧な言葉で頭を下げる。
そして、やけに綺麗な笑顔で言うのだ。
『セリア様を我々のもとで修行させていただけないか』と。
甘い。
甘すぎる。
そして、嫌な予感がするほど『整いすぎて』いた。
ゲームの設定では、この申し出はセリアが十二歳か十三歳のころに来るはずだった。
一年ほど早い。
(前回の七歳の誕生日事件で警戒を強めた?)
もし動向が前倒しになっているのだとしたら、こちらも前倒しで対処しないといけない。
『本編まで時間がある』なんて余裕は、もうないのかもしれない。
お父様はその申し出を丁重に断った。
それでも、使者はしつこく食い下がった。
言葉遣いは柔らかいのに、引かない。引けない事情があるみたいに。
お父様と使者が応接間で話している間、私はセリアの手を引いて廊下の反対側へ移動した。
この距離でも、あの笑顔が背中に貼りついてくる気がしたから。
「マリアンナ、あの人たち、なんか怖かった」
「うん。私も同じ気がした」
「あの申し出、お父様は断ってくれるよね?」
「断ってくれると思う。でも……念のため、お父様に伝えておいたほうがいいことがある」
「なに?」
私は少し考えてから、言葉を選んだ。
『知っている』とは言えない。言った瞬間に全部が崩れる。
だから、いつも通り——直感にする。
「あの人たちが本当に信用できる人かどうか、調べてもらったほうがいいかもしれない。なんとなく、そう感じたから」
「根拠は?」
「直感」
「わかった。一緒にお父様に伝えよう」
セリアが迷わず言ってくれたのが、ありがたかった。
彼女が一緒だと、私の『勘』は説得力を持つ。皮肉な話だ。
お父様への報告は功を奏した。
使者の背景を調査したところ、教団に繋がる疑わしい人物関係が浮かび上がり、お父様は完全に縁を切った。
贈り物も返し、以後の接触を禁じ、穏やかな口調のまま、対応だけは容赦がなかった。
「またマリアンナの勘が当たったな」
(直感じゃなくて、ゲームの知識なんですが……)
お父様の言葉に、私は曖昧に笑うけど、言えるわけがない。
この一件で、お父様は私たちの周囲に専属の護衛をつけてくれた。
歩くたびに足音が増える。安心と緊張が、同時に背中に乗った。
また一つ、セリアへの脅威を排除できた。
けれど、根本的な解決にはなっていない。
『影の教団』は学院入学後も動き続けるはずだ。
(学院に入るまでに、できるだけ多くの手を打っておかないと……)
部屋に戻りながら、私は計画を練り直した。
一手、前倒し。なら、こちらももう一手。次は何を潰す?
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