第十九話 これは恋じゃない
十歳になったころ、私はあることに気づき始めた。
クロードの様子が、少しおかしい。
おかしいというのは変な意味ではなく——なんというか、王宮で顔を合わせるたび、視線がこちらを追っている気がするのだ。
歩きながらでも、会話していても、ふっと気配だけが引っかかる。
背中の後ろに、細い糸が結ばれているみたいに。
「気がついた?セリア」
「えっ?なにが?」
「クロード殿下が、なんかこっちをよく見てるな、って」
「そうかなあ……うん、確かによく見てるかも」
(やっぱりそうか!)
狙い通りの展開に、思わず心の中でガッツポーズをする。
私の必死のアピールが、ついに実を結んだ。
意図したとおり、クロードはセリアに惹かれているに違いない!
だってそうじゃなきゃ、わざわざ私たちのほうを見る理由がない。……たぶん。
「セリアは殿下のこと、どう思ってるの?」
「んー……優しそうで、賢そうで、話しやすい人だなって思う。でも恋愛とかそういうのは、全然……」
「……えっ?」
これは盲点だった。
セリアがぽりぽりと頬をかく。
その仕草が子どもっぽくて、かわいいのに、今は笑えない。
(あ、まだ早すぎたのかも……)
十歳だ。ゲームでセリアがクロードを好きになるのは十六歳以降。
今から恋愛感情が芽生えるはずがない。
分かってる。分かってるのに、私は勝手に『いい感じ!』と浮かれていたらしい。恥ずかしい。
「でも、マリアンナはいつも私のことを褒めてくれてるじゃない。それは嬉しいんだけど」
セリアがにこにこして言う。
その笑顔のまま、さらっと核心に触れてくるのが怖い。
「うれしいのはありがとう。でも……クロード殿下にアピールするのは、私じゃなくてセリアがすべきで」
「アピール?別に、私は殿下にアピールしたいとか思ってないけど」
正論だった。ぐうの音も出ない。
私の頭の中では、十六歳の学院入学がカウントダウンの中心にあるのに、セリアはまだ「今日のおやつ、何かな」くらいのテンションで生きている。でも、健全。
(焦りすぎた……でも布石は必要なのは変わらない……はず)
「そっか。まあ、いずれわかるよ」
「なにが?」
「クロード殿下がどれだけいい人か、ということが」
「マリアンナはそんなにクロード殿下が好きなの?」
「え!?」
言い方ぁ!
私は喉に空気が詰まって、変な声が出そうになるのを必死で飲み込んだ。
「好きって、そういう意味じゃなくて……『いい人だ』って思ってるんでしょ?」
「……あ、うん。そう。いい人だと思う。だから、セリアにもいい人だって知ってほしくて」
「ふうん」
セリアは私をじっと見てから、ちょっとだけ不思議そうな顔をした。
その目が、妙に鋭い。聖女の能力とかって、こういうことにも働くの?
「マリアンナ、なんか顔赤くない?」
「……暑いから」
「今日、そんなに暑くないけどね」
ぐさり。
私はそっと扇で頬を隠すふりをして、話題を変えることにした。
自分でも分かる。言い訳が下手すぎる。
うん、クロードはいい人だと思う。
セリアを任せるのに相応しい。
それに、イケメン。
それだけだ。
それ以上ではない。絶対に。
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