第十八話 カロリーナ対策
八歳になったある日、私たちは初めてカロリーナ・ボルドー公爵令嬢と対面した。
ボルドー家は王国の四大公爵家の一つで、カロリーナはその一人娘だ。
同じ八歳とは思えないほど洗練された立ち居振る舞い。
華やかな、赤みがかった金色の巻き毛。刺繍の細かいドレスさえ、私たちのものより格上に見える。
その美しさのせいで、余計に目立つ。
——目立つ、というのは。彼女が『相手を見下す』ことに慣れている、という意味でもあった。
そしてゲームの中でのカロリーナは——セリアの最大の敵対者だ。
クロードに執着し、クロードとセリアの仲を邪魔しようとする令嬢。
本人が悪役というより、歪んだ家庭環境と『王太子妃の座こそが自分の幸せ』という刷り込みが、彼女をそうさせていた。
クロードルート以外だと、彼女の嫌がらせがセリアを追い詰める場面が何度もある。
小さな悪意が積み重なって、逃げ道を塞いでいく、あの感じだ。
「あなたたちが噂の双子の聖女?ふうん……」
カロリーナは私とセリアを値踏みするような目で見た。
まず髪、次に目、最後に服。品定めの順番まで堂々としている。
……なるほど、これが公爵令嬢。
「セリアのほうが聖女なの。私は違うわ」
私が先手を打って言うと、カロリーナは私を一瞥した。
興味がない、というより『分類が終わった』目だ。
「あなたは聖女じゃないのに、なぜここに?」
「双子だから」
「……ふん」
鼻を鳴らして、今度はセリアを見る。
セリアは私の影に半分隠れるようにして、ぎゅっと指先を握っている。怖がってる。でも、逃げない。偉い。
「あなたが聖女なら、クロード殿下のお近くに置いてもらえるかもしれないわね。でも、知っておくべきことがあるわ。クロード殿下の隣に立てる人間は、それ相応の地位と教養と——」
「カロリーナ様」
私は静かに割り込んだ。声を荒げると、相手の土俵になる。
カロリーナが目を細める。
「なに?」
「クロード殿下のご意向は、殿下ご自身が決めることではないでしょうか。私たちのような子どもが、今から結論を出すには……まだ早い気がします」
「……あなた、意外と生意気ね」
「失礼しました。ただ、妹を傷つけるようなことを言う人には、少しだけ反論したくなってしまうので」
一歩も引かない、とは言わない。
ただ、セリアの前では引きたくない。
ここで黙ったら、未来で同じことが何度も繰り返される。
カロリーナは私をじっと見つめた。睫毛の影が揺れない。
子どもなのに、視線だけは大人みたいに冷たい。
やがて、口元だけで笑う。
「覚えておくわ、マリアンナ・ヴェルナー」
それだけ言って、颯爽と歩き去っていく。
ドレスの裾が床をさらりと撫でる音が、やけに印象に残った。
セリアが私の袖をきゅっと掴んで小声で囁く。
「ありがとう、マリアンナ」
「別に。セリアが悲しむのは嫌だから」
「でも……カロリーナ様を怒らせたかも」
「大丈夫。私がついてるから。嫌なこと言われたら、ちゃんと止める」
セリアはちょっとだけ心配そうな顔をしてから、それでも笑ってくれた。
その笑顔が見えた瞬間、胸の奥の硬いものが少しだけほどける。
内心では——私はカロリーナとの関係について、ゲームの知識を参照しつつ対策を立て始めていた。
ゲームの中でカロリーナはセリアにとって脅威だったが、実は本人は『悪い人間』ではなかった。
歪んだ状況に置かれて、歪んだ行動をとるようになった少女だ。
追い詰められ方が、最初から間違っていた。
正面からぶつかるより、彼女の歪みを生じさせている根本原因に働きかけたほうが、長期的には効果的だと、プレイ経験が教えてくれている。
敵として潰すんじゃない。爆発する前に、火種を取り除く。
(カロリーナとは、いつか腹を割って話す必要があるかもしれない)
その時が来たら、全力で動こう。
今は、まだ準備の時期だ。
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