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聖女の双子の姉に転生しましたが攻略対象の様子がおかしい~妹のために動いたら、私が落とされました~  作者: 木風


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第十七話 王太子から渡された石

答えた瞬間、クロードの肩の力がほんの少しだけ抜けた気がした。

ほんの一瞬、子どもの顔が覗いたようにも見えた。


言い返したいわけじゃないのに、喉が乾いて、うまく息ができない。

熱は引いたはずなのに、背中に冷たい汗がにじんだ。


クロードの翡翠色の瞳の奥が、ほんのわずかに揺れる。

怒りを飲み込んだ後の、別の何か。——安堵、にも近い。


「よかった」


それだけ言って、クロードはお父様に向き直り、「今後の警備体制について相談させてほしい」と言った。

子どもの声のはずなのに、言葉の運びが大人みたいで、応接間の空気が一段締まる。

大人の話になり、私とセリアは部屋から出た。


——歩きながら、セリアが私の袖をちょん、と引いた。


「ね、マリアンナ」

「なに?」

「殿下、怒ってたよね」

「……うん」

「でも、すごく静かだったね」

「うん」

「あれって——怖かった?」


怖い、というより——あの静けさは、逃げられない重さだった。


「怖い、とは少し違う」

「じゃあ何?」

「……心配してくれてるんだな、って。すごく伝わってきた」


それが、怖さより先にあった。

八歳のクロードが、二度しか会っていない私のことを心配して、怒りを整えて言葉にしてくれた。


「次は必ず知らせろ」


責めるためじゃない。落とすためでもない。

——次は助けるため。

そういう温度が、言葉の底にあった。


「マリアンナ、顔が変だよ」

「変じゃない」

「なんか、ほわっとしてる」

「してない!!」

「くすっ。元気になったみたいで良かった」


セリアがくすくす笑った。

私は『してない』と言い張りながら、廊下に出た。

ほわっとしてなんかいない。……たぶん。

ただ、「次は必ず知らせろ」という声が、頭の中で何度も反芻されているだけだ。


その日の夕方、お父様が私を呼んだ。


「マリアンナ、クロード殿下からこれを預かった」


お父様が差し出したのは、小さな石だった。

親指の爪ほどの大きさの白い半透明。角が丸く研がれていて、表面に細かい文様が刻まれている。

光にかざすと、内側に淡い白が泳ぐように見えた。


「これは……」

「緊急連絡用の魔具だ。これを割ると、王宮の騎士が瞬間移動で現れる」

「瞬間移動!?」

「子どもでも使える。使う日が来ないのが一番だが、もしその瞬間が来たら——迷わぬように」


子どもでも、という言葉。

つまり——今回みたいなことが、また起きる前提で渡されたということだ。

お父様が私の手にそっと石を置いた。

冷たい。けれど、その冷たさが妙に現実的で、落ち着く。


「セリアにではなく?」

「殿下は、マリアンナに直接渡した方が使いやすいだろうと。——ヴェルナー家の当主である私にではなく、マリアンナ個人に、と言っておられた」

「私個人に……」

「よほど心配してくださってるようだよ。マリアンナ、大切にしなさい」

「……はい」


私は石を手のひらで包んだ。

小さくて軽いのに、ずっしりと重みがある気がする。


「殿下に、お礼を言わないといけないですね」

「今日は帰られたが、また聖祭でお会いできるだろう。その時に」

「はい」


お父様が部屋を出た後、私はしばらくその石を見ていた。

文様は魔術的な紋様で——見れば見るほど、王宮と繋がっている実感が増していく。

握ると、掌の温度を吸って、少しだけ柔らかくなった気がした。もちろん気のせいだ。


(次に何かある時は、必ず知らせろ)


クロードの低い声が、また頭の中で再生された。

感情的に怒鳴ったわけでも、責めたわけでもない。

ただ静かに、『知らせろ』と言った。


その言葉の裏にあるものを——七歳の私はまだ上手く言語化できない。

でも、なんとなくはわかる。


心配してくれている。

セリアのための心配じゃなくて、私個人への心配が、そこにある。


(…………まずい)


七歳にして、なぜかそう思った。

まずい、の理由はまだ説明できない。

でも、この石を握りしめたまま、胸の奥で小さな芽が動いた気がした。

後々になって、あの時から既に『そういう感情の種』があったのだと、私は何度も思い返すことになる。


今は、ただ石を大切に握った。


「次に何かあれば、知らせる」


声に出して言ってみた。

誰もいない部屋で、石に向かって。自分に言い聞かせるみたいに。


(私は死なない。まだここにいる。まだやることがある)


熱が引いた体で、私は窓の外を見た。

夏の夕日が庭を橙色に染めている。風が葉を揺らし、影がゆっくり動く。


生きている。

それが、今日いちばん確かなことだった。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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