第十六話 王太子のお説教
判断がつかないまま、クロードが口を開いた。
「聞かせてほしいことがある」
「……はい」
「誕生日パーティーで何かおかしなことがあった、と報告を受けていた。クッキーへの細工が見つかったと。——それを受けて、君は何か食べ物を口にしたか?」
「……パーティーの際に提供されたものは、何かしら食べたと思います」
「その中に、異変を感じるものは?」
「その場では感じませんでした。ただ……今回のことで振り返ると、果汁の飲み物が少し変な味だったような気はします」
「気がついた時点で、誰かに言ったか?」
「……言いませんでした」
クロードの声は穏やかなままだった。
けれど『穏やか』という単語が合っているのか、自信がない。
怒声でも詰問でもないのに、背中が冷える。静かで、低くて、逃げ場がない。
「なぜ言わなかった?」
「大したことではないと思ったので」
「大したことではない」
クロードが、同じ言葉を繰り返した。
その繰り返しが、叱責より重い。
「クッキーへの細工が見つかった後で、別の飲み物の味が変だと感じた。それを大したことではないと判断した理由は?」
「……確証がなかったので」
「確証がなくても、言えばよかった」
「でも——騒ぎになったら、セリアが——」
「マリアンナ嬢。騒ぎになることより、君が倒れる方が重大だ」
私の言い訳を、殿下が切った。静かで、でもはっきりとした声。
胸がきゅっと鳴った。言い返せない。
「君は今回、処置が間に合ったから助かった。間に合わなかった可能性が、なかったと思うか?」
「……ありました」
「そうだな。あった」
クロードの言葉に、唇を噛んだ。
「では聞こう。間に合わなかった場合を想定していたか?」
「……していませんでした」
「なぜ?」
「自分が死ぬとは思っていなかったので」
「なぜ思わなかった?」
「……自分が、そうなるはずがないと——なんとなく、思っていたかもしれません」
「根拠のない確信か」
「……はい」
少しだけ沈黙が流れる。
その沈黙が、私の心拍を拾うみたいに長い。
「マリアンナ嬢」
「はい」
「君は、自分が死にかけたことを理解しているか?」
その言葉の重さが、七歳の体に染み込んでくる。
熱が引いたはずなのに、今度は別の震えが来た。
「……理解しています」
「本当に?」
「はい」
クロードが私を見つめる。
あの揺れは、まだそこにある。整然と収めているのに、滲んでいる。
「ならば、ひとつだけ約束してほしい」
翡翠色の目が、まっすぐ私を射抜いた。
「次に何か変だと思ったことがあれば、必ず誰かに知らせてほしい。一人で抱えるな。気のせいかもしれなくても、確証がなくても、必ず言葉にして伝えろ」
「……はい」
「君の判断が正しかったから助かった。次も正しい判断ができるとは限らない。人間は一人では見えないことが多い。それを補うために、周囲に伝える必要がある」
感情的ではない。声を荒げてもいない。
ただ静かで——それがかえって、ずっしりと胸に落ちてくる。
「約束できるか?」
「……できます。約束します」
ブックマーク、★★★★★、リアクション
よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ




