第十四話 最推の強制的な呪文
次に意識が戻った時には、昼だった。
窓の外が眩しい。部屋の空気が、薬草の煮出した匂いで湿っている。
額には冷たい布。喉の奥がからからで、舌の上に苦い味が残っていた。
ベッドの脇に、座っているお母様の目の下に薄い影がある。
反対側にはセリアもいて、私の顔を覗き込むように身を乗り出している。
「…………」
「マリアンナ!?目が覚めた!?」
飛び起きたセリアの声が裏返って、次の瞬間には涙がこぼれている。
「うん……」
「よかった、よかった……!!」
セリアは私の手を両手で握りしめて、ぼろぼろ泣いた。
小さな手が震えていて、熱いのは私のせいなのに、握られると落ち着いてしまうのが不思議だった。
「怖かった……!!マリアンナ、全然起きなくて、ずっと熱くて……!!」
「……泣かないで」
「泣くよ!!」
お母様がセリアの背中をさすりながら、私に言った。
声は落ち着いているのに、指先が忙しなく動いている。ずっと気を張っていたのがわかる。
「マリアンナ。あなたの言った通りだったわ。パーティーで出た果汁の飲み物に、遅効性の薬草が使われていたの。クッキーへの細工は『見せ餌』で——本命はそちらだったみたい」
「……やっぱり」
「お父様が調べてくださって、王宮にも連絡を入れてくれたわ。——それで、王宮から医師が来てくれているのよ」
「王宮から……?」
「クロード殿下が手配してくださったの」
「殿下が——」
「ヴェルナー家で子どもが倒れたという報告が届いた途端、宮廷の医師を二人、すぐに寄越してくださって。薬と、解毒の術式まで」
私は少し驚いた。
七歳の聖祭で会ったばかりで、まだ二度しか顔を合わせていない相手だ。
それなのに、状況を聞いた瞬間に動いてくれた。
(殿下は、本当に行動が早い人だな……)
……セリアへのフラグが想像より早く立ったから、かもしれない。
でもそれだけじゃない気もして、考えようとして頭がじんと痛んだ。
「医師に診てもらったら、解毒の処置をしていただけたわ。あとは安静にして、熱が下がるのを待てばいいって」
「……そう、ですか。よかった」
「よかった、じゃないの!!」
お母様が眉を下げて、泣き笑いのような顔をした。
私の額の布を取り替えながら、声を落とす。
「あなたが『遅効性の毒かもしれない』と言ってくれなかったら、ただの夏風邪だと思って安静にさせるだけだったわ。処置が遅れていたら……」
お母様は言葉を止めた。
その先は言わなかったが、私にはわかった。
(遅れていたら、死んでいた)
転生前のマリアンナが死んだのは、やっぱりこのせいだったのかもしれない。
体調不良だと思われて、気づかれずに解毒が間に合わなかった。
「マリアンナは、なぜわかったの?」
セリアが涙を拭きながら聞いた。
目が赤い。たぶん、ずっと泣いていた。
「……なんとなく」
「なんとなくって、そんな」
「直感。でも当たった」
「……マリアンナの直感は、ほんとうに変なとこで鋭いよ」
「変なとことはなんだ」
「ほめてるよ」
セリアがまた少し泣いた。
泣きながら、私の手を離さない。
「怖かったんだよ、ほんとに。次に目が覚めなかったらどうしようって……」
「……死なないよ、私は。セリアより先には」
「縁起でもないこと言わないで!!」
「本当のことだよ」
「私より先に死ぬなんてこと、絶対に許さないんだから」
セリアが、ぎゅっと私の手を握りしめた。
痛いくらいの力。必死なのが伝わってくる。
最推しに許さない。と言われたら、それはもう強制的な呪文に匹敵する。
「約束して」
「……約束する」
「絶対だよ」
「絶対」
セリアが泣きながら、でも少し笑った。
その顔を見ながら——私は、心の奥から思った。
(ここで死ななくて良かった)
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