第十三話 マリアンナの死因
きっと、クッキー以外の何かにも細工がされていた。
そして今、それが私に出ている。
(……私の体だけ?セリアは?)
慌てて振り返ると、セリアはすでに廊下に出ていた。
元気よく走っている。少なくとも今この瞬間は倒れていない。
胸の奥が少しだけ安堵した、のに。
次の瞬間、頭痛と眩暈が強くなって、思考がぐしゃりと崩れた。
考えようとするほど、熱が内側からせり上がってくる。
(ゲームの中で……七歳で死んだのは……)
マリアンナが早くに亡くなった、という設定。
ゲームは原因を明確にしていなかった。
公式の設定集にも『幼いうちに夭折した』とあるだけで、経緯は語られない。
でも——。
(これだ。これが、理由だったんだ)
転生前のマリアンナが死んだのは、このせいだ。
『影の教団』が『聖女を手中に収めようとした』最初の失敗——クッキーだと思われていた。
けれど本当の罠は、別にあった。
七歳のマリアンナは転生者でもなく、ゲームの知識もなく、この事件の存在すら知らないまま——気づかずに『それ”を口にして、数日後に高熱で倒れた。
そのまま、助からなかった。
(だからマリアンナは『早くに亡くなった』んだ……)
朦朧とした頭で、ぼんやり理解する。
ゲームという『お話の都合』で消えたわけじゃない。
実際にこういう事件があって、巻き込まれて、死んだ。
その『現実』が、今ようやく私の体で証明されようとしている。
(でも今の私は、ゲームの知識を持っている。だから気づける)
——気づける。
でも、気づけたところで、今の私は立てない。熱が高い。呼吸も浅い。
七歳の体では、それだけで危うい。
「マリアンナ!!」
飛び込んできたお母様の後ろに、セリアがくっついている。
お母様の顔色が、見る見るうちに青ざめていく。
「どうしたの、マリアンナ!?熱が——これは、すごい熱!!」
「お母様……」
「誰かを呼ばなきゃ。医師を——」
(違う。医師だけじゃない。原因を——)
「あの、お母様……」
私は精いっぱい声を絞り出した。舌が重い。息が熱い。
「クッキーの件を、もう一度調べてほしいんです。クッキー以外の食べ物にも、細工があったかもしれない。誕生日パーティーで出たものを——全部」
「え?」
「私の症状は、遅効性の毒のせいかもしれない。だから……最初の調査で見落としたものがある可能性を、お父様に伝えてほしいんです」
「遅効性の毒って——マリアンナ、なぜそれを——」
「直感です。でも……お願いします」
言い終えた途端、視界がぐらりと傾くと、天井が遠のき、音が水の中みたいに鈍くなる。
私はそのまま、ベッドに倒れ込んだ。
セリアが何か叫んでいる。お母様が私の額に手を当てている。
でも、その声も、手の温度も、少しずつ遠い。
(まずい。これは思ったより……)
(セリア、ごめん……)
意識が霞んでいく——その直前に、なぜかゲームの画面が頭に浮かんだ。
マリアンナが早くに亡くなった、という一行の設定。
誰もその死に触れず、セリアにとっても『幼い頃に別れた双子の姉』という、遠い記憶の中の存在。
(私はここで死なない。まだセリアを幸せにしていないから。絶対に死なない)
熱で焼けるような頭の中で、それだけをはっきりと思った。
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