第十話 王太子ルートの前倒し作戦
そこからの数年は、私にとって『布石の期間』だった。
五歳の春に、聖祭の大広間でクロードと接触して以来——年に数回、お父様の随行で王宮に上がる機会があるたび、私は同じ作戦を繰り返した。
とにかく、セリアを前へ。私は後ろへ。主役は妹、私は影。
なのに、肝心の『影』がなかなか薄くならないのが悩みどころだった。
「クロード殿下!セリアが先日、孤児院の子どもたちに読み聞かせをして喜ばれたんですよ」
「クロード殿下、セリアの作った花かんむり、すごくきれいでしょう?才能があると思いませんか?」
「クロード殿下、今日のセリアのドレスはお母様が選んだのですが、セリアに本当によく似合っていると思いませんか?」
私は会うたびに、ありったけの材料を並べた。
読み聞かせ。花かんむり。礼儀正しい挨拶。小さな気遣い。泣いている子にそっと手を伸ばす癖。
セリアの良さは放っておいても伝わる。
分かっている。分かっているのに、私は『言葉にして届けたくなる』のだ。勝手に。
セリアの美点を全力でアピールする私を、クロードはいつも少し困ったような、でも面白がるような顔で見ていた。
その横でセリアは、決まって私の袖をつまんで小さく震える。
恥ずかしがり屋の極み。可愛い。
「マリアンナは、妹のことが本当に好きなんだね」
「はい。世界一かわいい妹なので」
「ふっ。前も言っていたね…………」
クロードは何か言いかけて、そこでやめた。
言葉の端が、喉の奥で引っかかったみたいに消える。
私はそのたびに胸の奥がざわついた。理由は分からない。
分からないから、やっぱり気になる。
「そうだね、セリア嬢はかわいいね」
「でしょう!?クロード殿下もそう思いますよね!?絶対に素敵な方だと思いませんか!?性格もよくて、優しくて、心が綺麗で、それに加えてあんなにかわいいなんて、本当に素晴らしいと思いませんか!?」
「……マリアンナ」
クロードの翡翠色の目が、静かに私を見る。
声は穏やかなのに、目だけが妙に真っ直ぐで、逃げ場がない。
「そんなに必死に妹を売り込まなくても、セリア嬢の良さはわかってるよ」
「……本当ですか!?」
「うん。でも——」
クロードは言葉を区切って、どこか考えるような顔をした。
ほんの一瞬、遠くを見る目になる。それが子どもらしくなくて、私は息を飲む。
そこから先が聞きたいのに、いつも聞けない。
「……なんでもない。また来年、聖祭で会えるといいね」
「はい!その時もセリアを連れてきます!」
私が元気よく言うと、クロードはまた少し困ったような顔をした。
その微妙な表情の意味を、その頃の私はまだ理解していなかった。
ただ一つだけは分かっていた。
彼は、セリアのことを『知らないまま』にはならない。少しずつでも、確実に。
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