父親
「――以上が、被害の報告になります」
都市中枢、雲に届くほどの高層ビルの一角で、男は副官の女性に手渡された端末を呆れた様子で机に投げ捨てる。
「たかが女一人に八人か......警備隊の奴らもずいぶん弱くなったもんだな」
「相手は高額賞金首ですし仕方ありません。寧ろたった八人で良く挑んだ方です」
「結果が無ければただのゴミだ」
都市警備局長水島修次郎は冷酷に吐き捨てる。結果がすべてというモットーを持つ彼にとっては、その過程などどうでもいい。重要なのは、目的を達成できたか否かのみである。
「それで? まさか被害報告だけを伝えに来たのではないだろう?」
修次郎は彼女が報告に来た真の目的があることを知っていた。もしそうでなければ彼女はこの気難しい男の副官などになっていない。
「こちらの画像をどうぞ」
女性は先程とは違う端末を静かに差し出す。その画面に映し出された写真を見た修次郎は、思わず目を見開くと食い入るようにそれを眺めている。
「先程送られてきたヘリからの映像です。虐殺犯である女性の後ろにしがみつく少年が――」
「バカ息子が......」
ドスの利いた低い声が室内に響く。久しく聞かなかった修次郎の静かな怒声に、副官は思わず身震いした。
「......まだ本人だと決まったわけでは――」
「見ればわかる」
たった一人の息子の顔を間違えるはずもない。嫌いな女との間にできた子供だからこそ、その顔を見ればひと目でわかる。
自信の怒る心を落ち着かせながら、修次郎は暫く押し黙って黙考する。
「いかが致しますか? もし捕まえろというのであれば――」
「特別行動兵団を召集しろ」
修次郎の言葉に副官は眉をひそめる。彼らを召集するということは、選択肢は一つしか残らないのだ。
「......殺せと?」
しかし修次郎は首を横に振る。
「連れてこさせろ。ただし、生死は問わない」
先程とは違い落ち着いた声でそう伝えると、彼は副官に手で出ていくよう伝える。
短く敬礼した副官が居なくなると、彼は右手に握る息子の写真を再び眺める。
ヘルメットもつけず、運転手の女性にしがみつく紅一の顔は恐怖と緊張で強張っている。しかしその顔は彼が家で見せたことのない、楽しそうな笑顔と混ざっていた。
「......どれだけ行っても、結局はあの女の息子か」
忌まわしい女の笑顔は、別れてから一〇年以上たった今でも忘れることはない。しかし修次郎は自分の目指す覇道のためならばすべてを切り捨ててきた。それがたとえ最愛の人間であったとしても。
覚悟を決めねばならないか。
そうポツリとこぼし、彼は写真をぐしゃりと握り潰した。




