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殺戮のハイウェイ

「お~。ずいぶん高く飛んだわね~」


 銃弾の雨を全身で受けながら、ルナミアは空中でもがく紅一の姿を面白そうに眺めている。彼女の服は降り注ぐ銃撃ですでにボロボロの布切れになってしまっていたが、その間から露出した白い肌は銃創一つない綺麗な肌のままであった。


「あの女、効いてないのか⁉」


「奴はサイバーリュストだ! 黙って撃ち続けろ!」


 バリケードの奥から顔を覗かせる警備隊員達は動揺しながらもその攻撃の手を緩めない。何度やっても無駄なことをと、鋼鉄の身体に弾かれる弾丸の衝撃を感じながらルナミアは呆れた様子で息を吐く。

 しかし強化人間の彼女も無敵という訳ではない。


「熱烈なラブコールは嬉しいんだけど――」


 煩わしい雨を一身に受けながら、ルナミアは穴だらけのジャケットについている両ポケットに手を入れる。

 唯一全ての銃弾を防いでいたそのポケットに入っている小さな指輪。両手の人差し指につけた指輪のその先からは幾本もの細く白い糸がついている。


「悪乗りするオーディエンスには退場願おうかしら?」


 紅一には見えない凶悪な笑顔を浮かべたルナミアはなおもそのバイクのスピードを上げ続ける。

 簡易的ながらも強固なバリケードはすぐ目の前まで迫っており、警備隊員たちもとうとう攻撃を中止せざるを得なくなった。



「勢い落ちません!」


「総員退避! 退避!」


 衝突すれば大きな被害は免れない。

 一瞬の判断で速度を保ったまま直進するバイクを左右に躱す警備隊員達。

 その直後、大きな衝突音とともにバイクは鋼鉄のバリケードに突っ込んだ。

 宙を舞う赤のホバーバイク。しかしその車体を追う警備隊の視界にはルナミアの姿が映らない。そして彼等は宙を舞う彼女の姿を見ることもなく、また一切の痛覚を感じることなく細切れの肉片に変り果てる。


「一丁上がり!」


 空中で華麗な前転を決め、無数の銀糸に切り裂かれた車両と隊員の血の海を僅か一秒で飛び越える。

 バイクはすでに大破してしまっているが問題ない。衝突の直前に起動させておいたホバースケートで綺麗な着地を披露すると、スケートリンクを滑るように颯爽と走りだす。

 車一つ無い高速を走るルナミアの向かう先はただ一つ。自分が放り投げた紅一の着地地点である。 


「死ぬううううう!」 


 女性とは思えぬ怪力で投げ飛ばされて、十数秒も空中を舞った紅一は徐々に迫りくる地面を前に絶望の叫びをあげていた。

 もうダメだ。そう思い目をつぶる紅一。

 しかしその身体はコンクリートの地面とではなく、滑り込んできたルナミアの柔らかい腕で優しく受け止められた。


「空中散歩は楽しかった?」


 蒼くなった顔と生気の抜けた表情を浮かべる紅一を見れば楽しいわけがないのは一目瞭然である。しかしルナミアはその彼を見てなお挑発的な笑顔で問いかける。


「......最悪な気分だよ」


「なら次からはもっと楽しくなれるわよ」


「その前にせめてリュスト手術を受けさせてくれ......」


「受けたところで度胸もないアンタじゃまた泣きわめきそうだけど」


「うるせぇ!」


 気が付けば、追跡のために飛んでいたヘリもいつの間にかいなくなっている。

 みるみるうちに遠ざかるサイレンは遂に紅一の耳にも届かなくなり、ホバーの小さな駆動音のみが高速道路に響き渡る。


「でもまあ......悪くはなかったよ」


 紅一は恥ずかしそうにぽつりと呟く。突然の言葉に驚いたのか、抱きかかえられた少年の顔を覗き込んだエレニアは彼の顔を無言で見つめる。


「......なんだよ」


「......アンタも文句以外いうことってあるのね」


「お前ぶっ飛ばすぞ」


「ははは、ジョーダンジョーダン!」


 楽しそうな笑い声を響かせながら、二人は夜の街へと消えていった。



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