第22話 大輝の初恋と伝えたいこと
「まぁきっかけは良くある事だと思うよ」
そう、あんずちゃんの事を好きになったきっかけは何か劇的な事があったわけではない。
でも気付いたら好きになっていたと言うわけではないのだ。
「ある日公園に行ったらさ、あんずちゃんが泣いてたんだ」
彼女が泣いているのを見たのは花を渡したとき以来だった。あの時は泥団子の事を謝りたいって事しか考えてなくて何で泣いているのかまで
考えてなかったけど、その時は何で泣いているのかすごい気になったんだ。
「彼女に何で泣いてるか聞いたんだけど全然理由を教えてくれなくてさ。ほっといてくれって言われたんだよな」
「優しくしてくれたのに酷い子だよね」
「まぁ俺がしつこく聞きすぎたのも悪かったんだと思う」
「大輝は相変わらず優しすぎるんじゃない?」
「そうでもないぞ。実際は泣いてる女の子を怒らしたんだからな」
そう考えるとこの頃からデリカシーというものがなかったのかもしれない。今もデリカシーがないとかあの頃から何にも成長してないな。
「泣いてるあんずちゃんを逆に怒らして、どうして良いか分からなくなった俺は何故か泣いたんだよな」
どのくらい泣いたかというとあんずちゃんがビックリして泣き止むくらいの見事なギャン泣きだったのだ。
「あの時はあんずちゃんに怒られた事よりも、何にも出来ない自分が嫌ででもどうしようも出来なくて泣いたんだよ」
だからってギャン泣きしたのは本当に意味が分からん。当時の心境を杏奈に話した俺は恥ずかしすぎて思わずそっぽを向いてしまった。
そんな俺を見て杏奈はクスクス笑っている。
「あの時のあんずちゃんもそうやって笑ってくれたんだよな」
そういきなり泣き出した俺を見てあんずちゃんは呆気に取られていたが余りにも俺が焼き続けるので
『なんで大輝が泣いてるのよ?』
そう言って笑ってくれたのだ。その笑顔を見て初めて彼女を可愛いと思ったんだよな。そしてこれからも彼女を笑顔をにしていたい、幼ないながらにそう思ったのだ。
正直当時の記憶を鮮明に覚えているわけではないし、話した内容も所々曖昧なところが多い。会話の内容なんて鮮明に覚えてないしな。
それでもこうやって当時の話をすると色々と思い出せるから不思議なもである。
「これが俺があんずちゃんを好きになった、初恋の話だよ。そんなたいしたものじゃなかっただろ?」
たいしたことは無いなんて言ったが、泣いてた子を慰めようとして失敗したあげく自分が泣き出したのだ。どちらかといえば残念過ぎる初恋な気もするがこれが俺の初恋なのだから仕方がないじゃないか。
「全然そんなことない!何だか大輝らしなって思ったよ」
しかし杏奈はそんな俺の残念な初恋を俺らしいと言って笑ってくれるので、何だか照れくさくなってくる。
「まぁだからってそれから何かが変わったって事は無かったんだけどな」
俺は照れくささを誤魔化す様にそう言ったが、その言葉通り特に何もなかったのだ。
初恋だとハッキリと自覚したわけでもないし、自覚していたとしても幼稚園児でできることなど限られていただろうしな。
「それにハッキリと自覚する前に俺が引っ越したからさ」
そう幼稚園を卒業したすぐ後に俺は引っ越してしまった。だから好きだという気持ちを伝える機会すらなかったのだ。
「それにあんずちゃんの気持ちがどうだったのかも分からんしな」
あの時のあんずちゃんが俺の事をどう思っていたのかなんて俺は知らない。仲が良かったのは確かだが同じような感情を持っていたのかまでは分からないからな。
「もし、もしだよ!今その子に会えたら大輝はどうするの?」
俺の話を聞いていた杏奈が聞いてくるが俺の顔を見ようとはしない。
「まずは謝るかな」
「あやまるの?」
俺の答えを聞いた杏奈は俺の顔を見ないまま聞き返してくる。それを見て俺は思っていた事を伝える決心がついた。
「そう。今まで気づかなくてごめんなって」
杏奈が勢いよくこちらを見るその顔は驚きで
大きく目を見開いている。
「杏奈があんずちゃんなんだろ?」
俺はそんな杏奈に笑いかけながらずっと気になっていた事を伝えたのだった。




