第18話 こうして人は前に進む
中城先輩から驚きの話を聞くというサプライズはあったものの、特に大きな問題もなく遊園地を楽しんでいた。俺を除いて。
楽しそうにしている皆を見ながら俺はベンチでぐったりしていた。
何故そんな事になっているのかというと俺以外の全員がジェットコースターが好きで、尾上さんと姫川が特に好きだったのだ。さして何回も乗るハメになった結果がこれである。
「相変わらず高い所ダメなのね!小学校の頃から成長してないんじゃないの?」
そう言いながら尾上さんはニヤニヤしている。
この人はそれを知っていながら俺を何回もジェットコースターに乗せたのだ!
「そうなんだ!黒澤くん高い所ダメならちゃんと言わないと!」
言ったけど乗せられたんだが?てか姫川も俺が怖がる度に楽しそうにしてたよな?
しかし何も言うことが出来ない俺はただ皆が楽しそうにしているのを黙って見ていることしか出来ない。
「てか千代さんて黒澤くんの事、小さい頃から知ってるんですか?」
「小学校の頃から知ってるわよ。昔はもうちょい可愛げがあったんだけどねぇ」
そう言って尾上さんは俺の頭を乱暴に撫でる。てかいま頭を揺らすのはやめて!
恥ずかしさよりも気持ち悪さが勝ってしまう。
「それじゃあ……」
「あー!ゴリ彦とゴリ姫じゃん!」
姫川が何かを言いかけたのだが、久慈川が突然大声を出した事で全員が驚いてしまうが興奮している久慈川は止まらない。
「ほら!見てよ!ゴリ彦とゴリ姫がいるよ!」
「ほんとだ!めっちゃレアなんだよね?」
姫川まで一緒になって騒ぎ出した。
どうやらマスコットが近くにいるらしい。
「私が大輝くんを見ているので皆さんで行って来てください」
「ありがと!ほら行きましょうよ!」
杏奈がそう言うと久慈川は全員を連れて行ってしまった。
「大丈夫ですか?」
「何とか。ありがとう」
「気にしないで下さい」
杏奈は心配そうな顔をしながら飲み物を手渡してくれた。こんな情けない姿を晒すのは恥ずかしいが今の俺はそれどころではないしな。
「それで何かありましたか?」
俺は固まってしまった。え?気づかれたのか?
そんな俺を見て杏奈は笑っている。
「大輝くんは分かりやすいんですよ」
「まじかぁ」
「でも他の人は気付いて無いと思いますが」
項垂れる俺にフォローを入れてくれるが杏奈に気付かれている時点であまり変わらない様な気がしてしまう。
「話して貰える内容ですか?」
「今は無理かな。でも近いうちに話せると言うかむしろ聞いて貰うことになると思う」
「分かりました。では今は知らないフリをしておきますね」
杏奈はそう言うと俺の横に座ってほほ笑むと、それ以上何も聞いてこない。
俺もそれ以上何も言う事なくただ杏奈との心地の良い空間に身を委ねるのだった。
暫くするとマスコット達と戯れていた久慈川たちが戻って来た。その時のテンションが高すぎてちょっとウザかったりしたがそれ後は復活した俺も含めて全員で遊園地を楽しんだ。
「いやぁ!かなり楽しんだよね!」
「ね!めっちゃ楽しかったもん!」
「私は疲れたわよ。女子高生元気すぎでしょ」
「ふふっ、身体がなまってるんじゃないですか?」
尾上さんは久慈川と姫川にだいぶ連れ回されていたのでお疲れのようだ。杏奈が煽っているのが新鮮でちょっと面白い。
「あんた何わらってんのよ?」
尾上さんに睨まれてしまったので俺は慌てて目を逸らしたのだが
「あとで覚えときなさいよ!」
そう凄まれてしまった。それを見て久慈川と姫川がニヤニヤしている。くそ!今日だけでかなり尾上さんに懐いてやがる!
「最後だし観覧車乗ろうよ!」
「いいね!皆で乗りたい!」
久慈川の提案に姫川がのっかるのだが、
「私は疲れてるからパスで」
尾上さんがその提案を断った。その時にチラッと中城先輩の方を見ていた。
「俺も高い所はダメなのでパス!」
「え〜?前は乗ったじゃん!」
久慈川が文句を言ってくるがコレばっかりは譲れない。何て言えばいいか考えていると中城先輩が口を開いた。
「麻由子ちゃん!良かったら俺と2人でのらないか?」
その言葉に姫川だけでなく久慈川も固まってしまっている。その反応も仕方ないだろうな。
「で、でも」
それでも姫川は躊躇いがあるようだ。
すると久慈川がスッと姫川の背後に行って背中を押したのだ。
「せっかくだし行っておいでよ」
ウィンクしながらそんな事を言うのだ。
この短時間で色々と理解したのか?
そう思ったのだが杏奈がこちらを見て頷いているのが見えた。なるほど杏奈が何か言ってくれたんだろうな。
「俺と2人じゃいやか?」
「嫌じゃない!乗る!乗りたい!」
「なら行こうぜ!」
「うん!」
こうして中城先輩と姫川の2人で観覧車に乗ることになったのだ。姫川は顔を赤くしながらも嬉しそうにしている。
「さっ私たちは帰るわよ〜」
そんな2人を見送ると尾上さんがそう言って歩き出した。たぶん最初からこうするつもりだったんだろうな。
「え?帰るんですか?」
「そうよ!」
「で、でも」
急に帰ると言い出して久慈川が困惑している。
「ちゃんと向き合ってもらわないとね。
絵理ちゃんの出番はもうちょい後よ」
しかし尾上さんのその言葉を聞いた久慈川は
目を見開いたあとに納得したような表情になっていた。
「わかりました。その時にはいっぱい話をききます!」
「そうしてあげて。杏奈と大輝もよ」
そう言った時の尾上さんの表情はとても優しげでいて少し申し訳なさそうだった。
こうして俺達は2人を残して遊園地を後にしたのだ。2人のこれからの事を願って。




