第12話 母親とお礼の品と昔のこと
「ほらお兄ちゃん急いで!」
海水浴に行った次の日だというのに桃子は疲れるどころか元気があり余っているようだ。
走って行った先から俺を呼んでいる。
「そんな走ると危ないぞ!」
「だって時間なくなっちゃう!」
「いや時間に余裕はあるからな」
俺は思わずため息をついてしまう。
「安心したわ!ちゃんとお兄ちゃんしてるじゃない」
そんな俺達のやり取りを見て嬉しそうにしているの女性に俺は思わず悪態をついてしまう。
「どこを見てそう思ったんだよ」
「どこって全部だけど?」
「何か違うものが見えてんじゃない?」
「そんな事ないわよ!ちゃんとあんたと桃子が見えてるんだから!」
しかしそれもサラッと流されてしまう。流石だなぁ何て思っていると桃子がさっきより大きな声で呼んでくる。
「お兄ちゃん!お母さん!早く〜!」
そう桃子が呼びかけた通り俺の横には母親がいるのだ。今日は桃子と母さんの3人でショッピングモールに来ているのである。
母さんは桃子を迎えにきたのだが、その時に海に行った話を聞いて
「その親御さんに何かお礼をしないと!」
そう言って俺と桃子を連れて買い物に来たというわけだ。海で遊んだ翌日だし夕方からバイトもあるので行きたく無かったのだが、
「あんたがお世話になったんだから自分でちゃんと選びなさい!」
そう言われてしまった。言っている事は至極真っ当なので俺は渋々ながらも了承したというわけだ。
「それにしてもあんたが友達と海に行くなんてねぇ。それも女の子だって言うじゃない」
「何だよ?悪いかよ」
「悪い何て言ってないでしょ」
そう言いながらもニヤニヤしている。
もちろん俺は女子しかいなかったことなど話していない。桃子が全て話してしまったのだ。
「それに桃子もお世話になったみたいだし」
「まぁそれはそうだけど」
桃子は本当に楽しかったようでそれは嬉しそうに話していた。嬉しすぎてタックルした事も話してしまい母さんにも怒られてたくらいだ。
「送り迎えしてくれた親御さんだけじゃなくてお友達にもお礼しないとね」
黙って桃子を俺の所に送り込んだりと若干突飛なところもあったりするが礼節には厳しい人なのである。礼節に厳しいのなら突飛な事はやめてもらいたいのだが。
「そっちは別で何か考えるよ」
「そう?なら任せるわ」
母さんに言われたからではないが確かに桃子の面倒を見てもらったりもしたのだ。お礼はしたほうがいいよな。
「それで?誰が本命なの?」
「ゴホッ!ゲホッ!」
何かとんでもない事を言われた気がする!
俺は咽ながらもジト目で睨みつけた。
「そんなに睨まなくてもいいじゃない!
ちょっとした冗談なんだから」
しかし涼しい顔で受け流されてしまう。
何が冗談なんだよ!割と本気で聞いて来たクセに!ほんと母親だから余計にタチが悪い!
「そういうのは聞かないでくれよ」
「そうね。年頃だものね」
「そうじゃないけど」
「お母さん!お兄ちゃん!何してるの!早く来てよ!」
「桃子が呼んでるからここまでね」
母さんはそう言うと桃子の方に歩いて行ってしまった。俺は話が続かなくてホッとした。
だって本命がいるのだから。そんなの母親に知られたくなどないからな!
「きちんとお礼を伝えて渡してちょうだいね」
「分かってるよ」
そう言って母親が差し出してきた紙袋を俺は受け取る。あれから姫川の親御さんに渡すお礼の品を無事に購入した俺達は昼食を食べてから一旦家に帰ってきているのだ。
「私のもちゃんと渡してよ!」
桃子もそう言って母さんと同じように俺に紙袋を渡してくるが3人分なので結構な量である。
お礼の品を選んでいる時に自分も渡したいと出だしたのだ。
「わかってるよ。今度会う時にちゃんと渡すから安心してくれ」
「絶対だからね!」
3人分のお礼の品を購入したのだが今日帰るので渡すのは俺の役目なのである。
まぁどうせ会うのでその時にでも渡せばよいのでこれ位は頼まれても問題ない。
「それじゃ私たちは帰るけどあんまり自堕落な生活をしないように!」
「大丈夫だよ。その辺は気を付けてるから」
「まぁ掃除もしてるし大丈夫みたいね」
「お兄ちゃんまたねー!」
玄関で2人を見送っていると母さんが何かを思い出したようだ。
「そうそう!あんずちゃんだけど」
俺はその名前を聞いて一瞬動揺してしまう。
母さんは気付いていないのか話を続ける。
「まだこの街にいるみたいよ」
「そうなんだ」
「なに?素っ気ないわね」
別に素っ気なくしたつもりは無かったのだ。
この街にいると言われてもやっぱりなとしか思わなかったのである。
「あんずちゃんて誰?」
そんな俺達の会話を聞いていた桃子が首を傾げながら会話に入ってきた。
「お兄ちゃんの昔のお友達よ」
「へぇ〜!お兄ちゃん友達いたんだ!」
「アハハハッ!今もお友達いるじゃない」
「杏奈ちゃんと絵理ちゃんと麻由ちゃんは私のお友達だもん!」
どうやら桃子の中ではあの3人は自分の友達になっているらしい。じゃあ俺は何だと思ってるんだろうか?やっぱりこいつはノリだけで生きてやがる!
「あんたのお友達は女の子ばっかりね」
「あんずちゃんも女の子?」
「そうよ。可愛い子なのよ!」
「私も会いたい!」
「だってよ大輝!」
母さんはニヤニヤしながら俺を見てくる。
母親にこういうノリで絡まれるのはなかなかキツイものがある。俺が黙っていると
「まぁあんたの事だからアレコレ言わないけど、1つだけ教えてあげる。あんずちゃんの家の場所昔と変わってないわよ」
それだけ言うと母さんは満足そうにしている。
「じゃ今度こそ帰るわね」
「お兄ちゃんバイバーイ!」
2人は嵐のように去って行った。1人残された俺は静かになった玄関で
「そうか家の場所変わってないんだな」
母さんに言われた言葉を呟くのだった。




