第11話 嬉し恥ずかしい海の思い出
「ゆっくりでいいよ〜!私たちの事は気にしなくていいから!」
久慈川にそう言われて送り出された俺と杏奈は海の家に向かって歩いていた。昼食を買いに行った時と同じ様な状況ではあるが、あの時とは違って変な緊張感がある。久慈川がニヤニヤしていた事もあるけどさっきまで俺が杏奈にジト目で睨まれていた事の方が大きい。その証拠にまだちょっと唇が尖っている。
何か話しかけた方が良いのかな?そんな事を考えていると杏奈が先に口を開いた。
「大輝くんは絵理みたいなスタイルが良い女性が好きなんですか?」
俺は目を見開いて固まってしまった。内容もそうだが少し不安そうに上目遣いでそんな事を言われてしまったのだ。俺は自分の馬鹿さ加減が嫌になってくる。
「別に久慈川だから見たいんじゃないよ。男はあぁいう時にどうしても見てしまう生き物なんだよ。それに……俺は杏奈の方が良いスタイルだと思ってる」
俺は言い訳せずに正直に答える事にした。正直過ぎて途中で恥ずかしくなったのだが何とか言い切った。まぁ尻すぼみになってしまったのは仕方がないと思う。むしろ言い切った自分を褒めたいくらいだ。そんな俺の言葉を聞いた杏奈は目をパチクリとさせると
「そうですか。大輝くんは私の事をそんなふうに見ていたんですね。やっぱり男の子ですね」
嬉しそうに言いながら笑顔で俺を見てくる。
俺は恥ずかしさから思わず顔を逸らそうとしたのだが、杏奈が俺の腕を掴んで自分の方に引き寄せるので顔を逸らすことが出来なかった。
「そんなに恥ずかしがらなくても良いじゃないですか!私は嬉しかったですよ」
腕を引き寄せた杏奈はそう言いながら俺の顔を覗き込んでくる。その際にまたもや柔らかい物が俺の腕を挟むので俺の視線は思わずそこに向かってしまう。そしてこれだけ至近距離にいるのだから当然、杏奈に気づかれてしまう。
「やっぱり気になるんですね」
杏奈はそう呟くと俺の耳元に顔を寄せて
「今度こそ見ますか?水着」
そう言ってから顔を離すと可愛らしく小首を傾げるのだ。しかもちょっと顔を赤らめているのである。そんなのを見せられたら俺は頷く事しかできなかった。
そこからの記憶は曖昧である。気が付いたら俺はレジャーシートに座ってかき氷片手にビーチボールで遊んでいる女性陣を眺めていたのだ。
手に持っているかき氷は殆んど溶けてただの液体となっているのが、俺があまりにもぼーっとし過ぎているのを表していた。
「そっち行きましたよ!」
「はーい!」
「ちょっと絵理どこ向けてんのよ!」
「ごめーん!」
「麻由ちゃんのちゃんと取らないと!」
「私なの!?」
女性陣の楽しそうにはしゃいでいる声によってようやく俺の意識はハッキリしてきた。
そして笑っている杏奈を見て先ほどの光景を思い出してしまい声にならない声をあげる。
杏奈は俺が選んだ黒色のビキニを身に着けていたのだが凄かった。ほんとに凄かったのだ!
ただでさえ美少女である杏奈の水着姿を見せてもらうというのだけでも凄いのに、好きな人と2人っきりとういう付加価値が付いたのだ。
しかもその水着は俺が選んでいる。
俺の思考回路がショートするのも仕方ないと思うんだよな。いや!そうならない方が逆に失礼なんじゃないか?
そんな下らない事を考えていると俺の方にボールが転がって来たので立ち上がって拾う。
「おっ!どうやら復活したみたいじゃん!」
ボールを追って来た久慈川が俺に気付いてニヤニヤ笑っている。呆けていた自覚がある俺は恥ずかしさから目を逸らすのだが
「ほらっ!せっかくだし大輝もやろうよ!」
そう言って俺の手を取ると皆の所に引っ張って行く。
「お、おい!急に引っ張るなよ」
「いいじゃん!海なんだから!」
俺は急に引っ張られたのでコケそうになり思わず声を出したのだが、久慈川は笑いながらよく分からない理論を口にする。
「お兄ちゃん元に戻ってる!」
「黒澤くん変だったもんね。何があったんだろうねぇ?」
「うん!変だった!いつも変だけど!」
「アハハハッ!言われてんじゃん!」
久慈川に連れられて皆の所に行くと早速ぼーっとしていた事をイジられる。それにしても変とか言わないでくれ!傷つくだろうが!
「もう大丈夫みたいですね」
杏奈が話かけてくるが俺はまた水着の事を思い出してしまい自分でも分かるくらい顔が赤くなってしまう。そんな俺を見て何故か杏奈も顔を赤くしてモジモジしてしまう。
「ほらほら!2人の世界に入らないの!」
「そうだよ!私たちもいるんだからね!」
そんな空気を壊したのは久慈川と姫川だった。
いつもはからかわれるとイラッとするのだが今はそれがありがたい。
「お兄ちゃんだけズルい!皆で遊ぼうよ!」
桃子が頬を膨らませて不機嫌そうにしているので俺と杏奈は顔を見合わせると苦笑いする。
「そうですね皆で遊びましょう!」
「それじゃ行くぞ〜!」
杏奈の言葉を合図に俺は手に持っていたボールを高く打ち上げる。
「お兄ちゃん高すぎ!」
桃子はそう言いながらボールの落下点に入ると上手いこと両手でボールを弾く。
「麻由子行ったよー!」
「え〜?私なの?」
「麻由子なら取れますよ!」
こうやって遊んでいると久慈川が『海だから』と言うのが何となく分かった様な気がする。
俺達は日が暮れるまで遊び倒して海を満喫したのだった。




