第18話 夏休みの始まり
みっちりデートについて尾上さんから教わったおかげで俺の心はだいぶ落ち着きを取り戻し、そして気がつけば終業式の日を迎えていた。
そう!明日から夏休みに入るのだ!
「休みの間、気を抜き過ぎるなよ!」
担任が夏休みの注意事項を伝えているが、教室全体がソワソワしていてそれどころではない感じである。皆それぞれの夏休みの過ごし方に思いを馳せているんだろうな。俺も多少は浮かれているが、杏奈とデートに行く以外はバイトしか予定を入れていないので他のクラスメイトほど浮かれてはいない。
「それじゃあ夏休み明け元気に登校して来るように!」
小学生に言うみたいな事を言い残して担任が教室から出ていった瞬間、クラスメイトたちは一気に解放されたように騒がしくなった。いよいよ夏休みの幕開けだなぁ何て考えていると
「大輝くんは夏休みはどう過ごすんですか?」
隣の席に座っている杏奈が話しかけてきた。
「特にこれといって予定は無いかな。いつもよりバイトを多めに入れてるくらいだよ」
「春休みみたいに全部バイト何て事はないですよね?」
「さすがにないよ!店長からも、春休みみたいな事はやめろって言われてるしさ」
「確かにあれは働き過ぎでしたからね」
そう言って杏奈は笑っている。春休み毎日出勤したことで店長からは夏休みはシフトをそこそこにすると宣言されてしまっているのだ。単純に俺の体調を心配してくれているのかと思ったのだが、他にも色々と理由はあるらしい。詳しくは知らないけどバイトを働かせすぎると良くないらいしのだ。なので夏休みは毎日バイトってことにはならない。杏奈の予定はどうなんだろうと気になって聞こうとすると
「よいよい夏休みが始まるよ!」
騒がしい教室に負けない位のデカい声が聞こえてきた。声の主はもちろん久慈川である。
「夏休み楽しみだよね!」
久慈川と一緒に姫川も俺達の方にやって来た。
テストが終わってから学校ではこの4人でいる事が多くなっている。最初はクラスメイトも不思議がっていたが今では誰も気にしなくてなっている。ほんと慣れって怖いものである。
「なんの話してたの?」
「大輝くんに夏休み、どう過ごすのか聞いていたんですよ」
「おぉ!ちょうどいいじゃん!」
「ちょうどいい?」
話についていけない俺と杏奈は2人して首を傾げてしまう。そんな俺たちに久慈川は続ける。
「さっき麻由子と夏休み何しようかって話をしてたんだよね」
「そうそう!せっかくだからさ一緒に予定立てようよ!」
姫川がちょっと興奮気味にそんな事を言い出した。確かにこの3人は最近、仲がいいもんな。夏休みも一緒に遊んだりしたいだろう。いいことじゃないか。
「何か俺には関係無いって顔してるけど、大輝も入ってるからね」
「そうだよ!黒澤くんだけ仲間外れにしないから安心してね!」
まさかの俺も入っていた。まじかぁ!出来れば仲間外れでも良かったんだけどな。俺がちょっと嫌そうにしたのを見逃さなかったのは杏奈だった。
「いいじゃないですか。私は夏休みも大輝くんと遊べるのは嬉しいですよ」
「ほらほら!杏奈もこう言ってるじゃん!」
久慈川に言われるまでもない。杏奈にそう言われるのならば仕方がない。
「バイトがなけりゃ付き合うよ」
しかし俺の答えでは満足しなかったようで久慈川と姫川は
「そんなの今言われても分かんないじゃん!」
「そうだよ!だから今から一緒に予定を立てるんだよ!」
ドヤ顔でそんな事を言い出した。久慈川だけでも大変なのに姫川も混ざると手が付けられなくってくる。それなのに杏奈まで乗っかりだしたのだ。
「いいですね!ではお茶でもしながら予定を立てましょうか」
「さすが杏奈!分かってる!」
「いいね!行こう行こう!」
もはや俺の意見など聞く気もない3人は今から何処に行くのかを話し出した。早くも俺の予定が1つ埋まってしまったようだ。キャッキャッしている3人を眺めている間にどこの店に行くか決まったようで俺は3人に教室から連れ去られてしまった。そうして4人で廊下を歩いているとふと去年の事を思い出して何故か笑ってしまった。
「どうかしましたか?」
杏奈が不思議そうに聞いてくる。
「いや去年は1人で帰ってたなぁと思ってさ」
「なるほど、そういうことですか」
ほんと前も思ったが1年前と比べて随分と騒がしくなったのだ。夏休みの始まりに誰かと一緒に帰ったり、ましてや予定を立てようなど思ってもいなかった。まぁこういうのも案外悪くないと思ってしまう。
「楽しい夏休みにしましょうね」
そう言って微笑んでくれる杏奈を見ていると自然とそう思える。
「そうだな。騒がしい夏休みになりそうだよ」
俺は照れ隠しにちょっとだけ捻くれた言い方をしてしまうのだが杏奈にはバレバレなようでクスクスと笑いながら
「仕方のない人ですね」
何て言われてしまう。先を歩いていた久慈川と姫川がこちらに振り向きながら手を振っているのをみて思わず杏奈と顔を見合わせて笑ってしまう。こうして俺達の夏休みが始まったのだ。




