第16話 ギャルとご褒美と夏の約束
「今日はありがとね。ケーキ美味しかった」
コインランドリーで洗濯物を洗濯・乾燥機に入れながら杏奈が俺にお礼を言ってきた。放課後にご褒美として俺がケーキを奢った事に対してである。
「どういたしまして。まぁあれだけ喜んでもらえたら奢りがいもあるよ」
「絵里なんかだいぶはしゃいでたし」
そう言って久慈川の事を思い出したのか杏奈はクスクスと笑っている。あのあと久慈川が選んだケーキ屋さんに行ったのだが、そこそこ値段のするケーキ屋を選んだのだ。さすが久慈川!こういう時に遠慮などしない奴だ。しかしお値段がするだけあって、甘い物がそんなに好きじゃない俺ですら美味しいと思うほどだった。
「はしゃぎ過ぎて3個も頼むのはやり過ぎだと思うけどな」
杏奈と姫川は1個だったのに久慈川だけ3個も頼んだのだ。2個目までは順調だったなに3個目はさすがにキツかった様で杏奈と姫川も食べるのを手伝っていた。いくら奢りだといってもやりすぎだ。
「それくらい嬉しかったんじゃない?」
「まぁ勉強がんばってたみたいだしな」
それに4位となれば多少浮かれても仕方いなかもしれないな。俺が1人納得していると
「それだけじゃないと思うけどねぇ」
何故か杏奈はジト目で俺を見てくる。何か知らんが久々に発動したようだ。しかしそんな目で見られても俺にはさっぱり分からない。成績が良かった事と俺に奢られた事くらいしか思いつかないんだが?
「大輝が甘やかすからじゃん」
「甘やかしてないけど?」
首をひねっていた俺に杏奈は突然答えを突きつけてきたのだが、甘やかしているとかそんな勘違いやめて欲しい!
「だってあっさりケーキ奢ったじゃん」
「久慈川だけじゃないだろ?杏奈と姫川もいたから奢ったんだよ!」
「ほんとかなぁ。なんだかんだ絵里に甘い気がするんですけど」
絶対にそんな事ないからそのジト目で見てくるのほんとやめて!ここはしっかりと言っておかねば!
「学校でも言ったけど妹に似てるんだよ。だからあの後、ヘソ曲げて面倒くさくなるのが嫌だったからだよ」
「それを甘やかすって言うんじゃない?やっぱり大輝はシスコンだよ」
え〜誤解を解くどころか新しい疑惑が追加されたちゃったよ。久慈川を甘やかすシスコンとか嫌すぎるんだが。チラッと杏奈を見ると分かりやすく不機嫌そうに頬を膨らませている。久慈川のへそを曲げないようにしたら杏奈のへそが曲がってしまったようだ。ここまで杏奈が不機嫌丸出しにしているのは久しぶりな気がする。
まぁでも多分本気で不機嫌なわけじゃないんだろうなと思った俺は、機嫌治して貰うために決意をして杏奈の頭に手を置いた。
「別に久慈川の事を特別甘やかしてるわけじゃないからさ」
そう言って杏奈の頭をなでるとちょっとずつ頬がしぼんでいく。それを見て思わず笑いそうになってしまうが、また不機嫌になられても困るので我慢する。
「むーん、何か頭撫でとけばオッケーとか思ってない?」
「思ってない!どんだけ恥ずかしいの我慢してると思ってるんだよ」
「恥ずかしいいんだ」
ちょっと嬉しそうにしている杏奈を見ながら、前にもこんな事あったなぁ何て思い出しす。
「恥ずかしいので、そろそろ機嫌を直してくれませんかね?」
「何それ!まぁ絵里に甘いのは大輝がシスコンだからって事で納得しようかな」
「シスコンでもないからね!」
杏奈はクスクス笑いながらとんでも無い事を言い出した。誤解が解けないどころか深まってしまったんだが。そんな俺に杏奈は続ける。
「妹ちゃんに似てるからついつい甘やかしてるんじゃないの?」
「ぞもそも妹を甘やかしてないし、似てるのも面倒なとこばっかりなんだぞ。頼むからシスコンとは他の人の前で言わないでくれよ」
「はーい!私の中だけにとどめておきます!」
「消し去って欲しいんだよなぁ」
俺が情けなく言うと杏奈は楽しそうに笑出だした。どうやら機嫌は戻ったみたいで一安心だ。俺のシスコン疑惑は晴れてないけどね……
機嫌がも直ったので頭から手を離そうとしたら杏奈が頭を押し付けてきた。
「私も頑張ったんだからもうちょい甘やかしてほしいな」
杏奈は唇を尖らせながら上目遣いでそんな事を言ってくるのだ。
「頑張ったな。偉いよ杏奈は」
「うん。頑張ったんだよ」
俺は迷わずその要求を受け入れる。毎回成績上位にいるからと言って努力してないわけじゃないもんな。これで少しでも労いになるなら俺が恥ずかしいくらい安いもんである。
しばらく頭を撫でたあとはいつも通り洗濯物を畳んでから杏奈の家まで送って行くのだが、俺はちょっとだけ緊張していた。今さら2人で道を歩くことに緊張などしないし、甘やかしの一環として手をつないでいるのが理由でもない。これから杏奈にある事を伝えようとしているのが緊張の理由である。そこまで対した事を言うつもりはないのだが、いつ言おうかとタイミングを伺っているうちにちょっと緊張してしまったのだ。
「今日も送ってくれてありがとね」
そうこうしてるうちに杏奈の家に着いてしまった。まぁある意味いまが1番良いタイミングかもしれないな。
「あのさテストのお礼何がいい?」
「お礼?」
「そう。前に約束しただろ?俺の成績が上がってたら杏奈にお礼するって」
「覚えててくれたんだ」
「忘れるわけないだろ。俺から言い出したことなんだしさ」
俺がいつ言おうかとタイミングを見計らっていたのはこの事なのだ。今日ケーキを奢ったのはあくまでご褒美なのだ。しかも杏奈だけでは無く久慈川と姫川も一緒だった。なら杏奈には別でお礼という形で何かするつもりだったのだ。
「でも本当にいいの?」
杏奈はちょっと遠慮したように俺を見てくる。
「良いに決まってるだろ。約束したし遠慮しなくていいよ」
「ありがと!めっちゃ嬉しい」
まだお礼の内容も決まっていないのに杏奈はとても嬉しそうにしている。それを見て俺はちゃんと伝えて良かったなと思う。まぁ杏奈のお陰でだいぶ成績も上がったし多少の無茶は聞くつもりだから何を要求されても問題ない。
「じゃあさ。2人で遊びに行きたい!」
「それで良いのか?」
思ったより普通のお礼でちょっと拍子抜けしてしまった。そんな俺に杏奈は
「大輝と2人で遊びに行ったことないし、その、デートしたいなって」
全然普通のお礼じゃなかった!いま杏奈は何て言った?顔を赤らめながら上目遣いでとんでも無い事を言われた気がする。
「デートか?」
「うん!大輝とデートしたい」
聞き間違いじゃなかった。やっぱりデートって言ったぞ!デートって男女が一緒に遊びにいくアレだよな。思わぬ要求に固まっている俺に杏奈はちょっと不安そうに聞いてくる。
「私とデートはいや?」
「嫌なわけないだろ」
「じゃあデートしようね」
俺の返事を聞いた杏奈は顔を赤くしながらも嬉しそうにはにかんでいる。
「じゃあ日にちとかはまた決めようね!楽しみにしてるから」
そう言って杏奈はマンションに入って行ってしまった。まさかのデートのお誘いに俺はしばらくその場から動く事ができなかったのだ。




