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第14話 面倒事は連鎖する

「何かあったらすぐに連絡下さいね」


俺は目の前の光景を見ながら、放課後の別れ際に杏奈からかけられた言葉を思い出していた。まじで今すぐに連絡してぇ!心の底からそう思ったのだが出来るはずもなかった。なぜならここはバイトの休憩室で目の前では中城先輩が机に突っ伏しているからだ。ピクリとも動かない中城先輩から視線を外すと不機嫌そうに尾上さんがタバコを吸っているのが目に入った。控えめに言って休憩室の雰囲気は最悪なのである。

俺は居た堪れなくなり中城先輩に声をかけた。


「中城先輩、大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃない」


力なく答える中城先輩を見ていると不憫で仕方がない。なぜこんな状態になっているのかと言うと、バイト中に尾上さんが中城先輩を無視していたからなのだ。それはもう徹底していて雑談だけではなく仕事の伝達ですら俺を経由するほどだった。俺には普通に話しかけていることから明らかに自分だけが無視しされている事に気付いてからも、中城先輩は頑張って話しかけていたのだが最終的に心が折れてしまいこの通り生きる屍となったのである。


「俺、何かしたのかなぁ」


机に突っ伏したまま呟いた中城先輩を見ながら俺は思ったのだ、何かしたからこうなってるんだよ。中城先輩からしたら何の前触れもなく、いきなり無視しされた感じなんだろうけど、全てを知っている俺からしたら無視される様な事しかしてないないんだよなこの人は。しかしそれを言う事は出来ないので俺は当たり障りない返答を返してあげる。


「何か心当たりはないんですか?」

「全くないんだよなぁ」


この人まじで心当たりないんだな。主な原因はあんたが姫川とご飯に行ったからだろ!そりゃ姫川から鈍いと言われるわけだよ。俺が呆れていると


「なぁどうすりゃ良いと思う?」


中城先輩はようやく顔を上げて縋るような目をして俺に意見を聞いてくる。いま俺に意見を聞いてくるのやめて!姫川と会うのやめたら良いんですよ!なんて言えるわけないだろ!てか姫川と会うのをやめた所で尾上さんの機嫌が治るかは知らんけどさ。


「いや、俺には分からないですね。時間が解決してくれるんじゃないですか?」


取り敢えず俺は先延ばしにする事を選んだのだが中城先輩はご不満な様で


「もうちょい真面目に考えてくれよ!」


勢いよく身体を起こして俺に真面目に考えろと要求してくるのだ。真面目に答えると色々と面倒くさい事にしかならないので俺は曖昧に答えるしかできない。


「いやぁ俺もほら!そんな女心に詳しいほうじゃないんで」

「確かにお前みたいな鈍いやつに聞いたのが間違いだったのかもな」


まじで、あんたが言うな状態なんだが!少なくともこの件に関しては中城先輩よりも知っているのにも関わらず俺の事を鈍いとかどの口が言ってんだよ!ほんとに残念すぎるんだが!


「そうだ!真由子に相談するか」

「それはやめといた方が良いと思います!」


突然良いことを思い付いた!みたいに言い出した中城先輩の言葉を俺は即座に否定した!

そんな姫川に対して死刑宣告みたいな事はやめてあげて!ほんとこれ以上ややこしくするのをやめて欲しいんだが!そんな俺に対して中城先輩は不思議そうな顔をしている。


「なんでだよ?」

「いや、それはあれじゃないですか」

「あれってなんだよ?はっきり言えよ」


どうしても姫川に相談するのをやめさせたい俺ではあるが、理由を言うわけにもいかず返答も曖昧な感じなってしまう。そんな俺に対して中城先輩は不信感を持ち始めたのかしだいに不機嫌になってきている。詰め寄られた俺は別にこのまま姫川に相談しても良いのでは?何て思ってしまう。そうすりゃ色々と面倒くさい事から解放される気もする。いややっぱりダメだ!

絶対色んな人を巻き込んでもっと面倒くさい事になる!やっぱりとめるべきだが本当の事は言えないから中城先輩を納得させれない!でも何て言えばいいのかやっぱり分からなくて困っていると


「なに後輩を困らせるてんのよ」


さっきまで不機嫌そうにタバコを吸っていた尾上さんが話に入ってきたのだ。突然話しかけられた事で中城先輩はフリーズしている。尾上さんはそんな中城先輩を見ながら大きなため息をついて口を開く。


「ほんと自分の事で他の人に迷惑かけるのやめて欲しいんだけど」

「だってオガが無視するから」

「もう無視しないから誰にも相談すんな!」


そう言いながら尾上さんは中城先輩にデコピンをした後、俺の方を見て苦笑いを浮かべる。

どうやら色々と察し俺を助けてくれたようだ。まじでありがとうございます!俺が心の中で尾上さんに感謝していると、デコピンされた中城先輩はオデコを押さえながら


「何で急に無視なんてしたんだよ?」


当然の疑問を口にする。そりゃ中城先輩からしたら理由をしりたいだろうし、俺も知りたい。原因はわかるけど理由は分からないからだ。


「別に対した理由なんてないわよ。ちょっと機嫌がわるかっただけだから」


しかし尾上さんは曖昧な感じで理由を話してくれなかった。無視された理由を教えてもらえ無かった中城先輩はちょっと不満そうにしながら


「理由が分からないとまた無視されるかもしれないだろ。ほんとキツかったんだから!」


まっとうな反論をしていた。まぁ中城先輩からしたら突然の出来事なんだものな。


「ほんと悪かったわよ。無視するとか私もちょっと大人気なかったし、もう無視しないから」

「でも…」

「それ以上しつく聞くなら一生無視しても良いんだけど?」

「もう聞きません!」


しつこく食い下がる中城先輩を尾上さんは力技でねじ伏せたのだ。なんだろ言い方はあれかめしれないが、よく飼い慣らされているなぁと思ってしまう。それでもお陰で俺は何とか危機を脱出する事に成功したのだ。


「安心したらトイレ行きたくなってきた」


しばらく尾上さんと話していた中城先輩はよく分からない理由を言い残してトイレに行ってしまった。その姿を見てもう大丈夫そうだと安心していると尾上さんが近づいてくる。


「助かりました。あのままだと面倒くさいことになりそうだったので」


俺は素直に感謝を伝えた。尾上さん無視をやめた事でほんとに助かったのだ。


「あのまま、あいつが相談しても私は良かったんだけどね」

「怖いこと言わないでください!」


この人ならやりかねないからな。そうならなくて本当に良かったよ。


「まぁあんたを困らせると後で何言われるか分からないからね」


そう言ってため息をつく尾上さんを見ながら俺は思わず首をひねってしまう。確かに俺は文句は言うが、俺なんかが文句を言ったところで逆に言い負かされると思うんだが?


「まぁあんたを助けた事には代わりないか」


そう言って尾上さんは俺の頭を乱暴に撫でると顔を近づけて耳元で囁いてきた。


「これで借し一つね」


俺は思わず身体を仰け反らせてしまった。そんな俺を見て尾上さんはそれはそれは良い笑顔を浮かべている。それを見て俺はとんでもなく大きな借りをとんでもない人に作ってしまった事にようやく気付いたのだった。

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