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第10話 本当に鈍いのは?

「アハハハッ!その子見る目あるじゃない」

「笑い事じゃないですよ!」


俺は不機嫌を隠しもしないで爆笑する尾上さんをジト目で睨み付けた。バイト終わりの休憩室で尾上さんに喫茶店での事を全て吐かされた挙句に爆笑されているというわけだ。


結局あれから女子陣は姫川麻由子が好きだという友達が少ない鈍感な年上の幼馴染にどうやって異性として意識もらうかで盛り上がっていたのである。俺は途中で帰ったので最終的にどういう話になったのかまでは知らない。途中で帰ったのはバイトがあったからで、決して恋愛相談の戦力にならなかった訳ではない。


「それにしても鈍感な幼馴染とか、その子もほんと大変よねぇ」

「何か全然気付いてもらえないらしいですよ」


アプローチはしているみたいだからそれで気付かないとか本当に大変だろうな。俺が1人で納得していると、尾上さんが凄い顔で俺の事を見ていた。え?なんでそんな顔してんの?急な事に俺が戸惑っていると


「お前が言うなって事だよ」


さっきまで黙って話を聞いていた中城先輩が呆れた様にため息をつきながら話に入ってきた。


「だって本人がそう言ってたんですよ?」


不思議そうにする俺に向かって中城先輩だけでなく尾上さんも残念な子を見る様な目を向けてくる。事実を話してるだけじゃないですか!だからその目で俺を見るのをやめて下さい!


「まっその辺はどうにかするだろうから大丈夫でしょ」

「ふーん。そんなもんなのか」


タバコの煙を吐き出しながら言う尾上さんの言葉に中城先輩は納得したようで自分もタバコを吸いに灰皿のあるほうに移動した。俺はただ相談にのっただけなのに酷い扱いである。俺がプリプリしていると


「てか今日も行くんじゃないの?」


尾上さんがタバコを消しながら聞いてくるのはもちろんコインランドリーへ行く事である。


「行きますよ!ただ今日はいつもより遅めで大丈夫なんですよ」


杏奈からは用事があるから少し遅めの集合でと連絡があった。そのためこうやって休憩室で時間を潰しているというわけだ。


「相変わらず仲のいいことで」


尾上さんはそう言いながらニヤニヤしてくる。

この人と杏奈はすでに会っている上に従姉妹同士なのだ。例の初遭遇してから2人が一緒にいる所を見たことはないが、恐らく色んな事が筒抜けなんだろうなと思う。


「何だ?今日もコインランドリー行くのか。久々に飯でも誘おうかと思ったんだけどな」


中城先輩がそんな事を言ってくる。尾上さんではなく俺をご飯に誘うとか珍しいこともあるもんだ。そんな俺の疑問を尾上さんが代わりに聞いてくれる。


「あんたが私じゃなくて大輝に声をかけるなんて珍しいじゃない」

「いやさ知り合いを飯に連れて行かないといけなくなったんだよ。近所に住んでんだけど、そいつ高校生だからちょうど良いかと思って」

「あんた意外と面倒見いいわよね」


中城先輩にしては思ったよりきちんとした理由でビックリしたが、尾上さんが言う様にこの人はこう見えて面倒見はいいんだよな。


「残念ですが今日はコインランドリーに行かないといけないので」


しかし俺はせっかくの誘いを断った。もちろんコインランドリーに行くから当たり前なのだが、多分コインランドリーに行かなくても断っていた。だって知らない人とご飯とか勘弁してもらいたい。てか同じ高校生だからって俺に声をかけるのがそもそも間違っていると思う。

初対面の人間と俺が楽しく食事など出来るはずがないのだ。


「よかったらオガも来るか?」


俺に断られた中城先輩は尾上さんを誘うのだがソワソワしていてちょっと気持ち悪い。誘われた尾上さんは


「私もパス!今日は家でゆっくりしたいのよ」


あっさりとその誘いを断った。断られた中城先輩は少し寂しそうだ。それを見てちょっと可哀想になってくるが、そもそも知らない人がいるのに誘う中城先輩が悪いと思う。流石の俺でもその位は分かる。ほんとこういう所が尊敬出来ないところなのだ。


そんな感じで休憩室でグダグダしていると良い時間になったので俺は帰ることにした。


「じゃあ俺はそろそろ帰りますね」

「私も帰ろうかな」

「俺も出る時間だわ」


俺達は3人で休憩室を後にした。こうして3人が一緒のタイミングで帰るのは実は珍しいのだ。だいたい俺が先に帰るからである。俺は前を歩く2人を見てちょっとだけテンションが上がってしまう。3人でワイワイ言いながら裏口を出た所で俺達は突然、声をかけられた。


「あっ!やっと出てきた!」


どうやら女性が誰かを待っていたようなのだが、俺はその声に聞き覚えがあった。まさかと思いながら女性を見て俺は固まってしまった。

そんな俺には気付かず中城先輩が話しかける。


「なんだよ。迎えに行くって言っただろ」

「せっかくだから待ってようと思って……」


中城先輩に話しかけられた女性は嬉しそうにしていたが途中で離すのをやめてしまった。どうやら向こうも俺に気付いたようだ。女性の顔は何でいるんだとでも言いたげだったが、俺も言いたい。何で姫川麻由子がいるんだよ!

まさか過ぎてお互いに顔を見合わせたまま動けなくなってしまった。そんな俺達を見て中城先輩が不思議そうに聞いてくる。


「何だ?お前ら知り合いか?」

「ううん。1人だと思ってたのに、他の人がいたから驚いただけ」

「何だよ。そんな人見知りするタイプでもないだろ?」


どうやら姫川は俺と知り合いだということを隠す事にしたようだ。言葉だけでなく目でも余計な事を言うなと言っている気がする。OKOK!それなら俺もそのスタンスでいこう!というか、そっちの方が俺にとっても色々と都合がよさそうである。


「さっき話してた近所に住んでる子だよ」

「初めまして。いつもともくんがお世話になっています」


中城先輩が紹介してくれるが俺はボロを出さないように「どうも」とだけ言って軽く頭を下げる。そんな俺に中城先輩は「愛想がないな」何て言ってくるが今の状況で愛想が振り撒けるほどのコミュニケーション能力など俺は持ち合わせていないので勘弁して欲しい。というか中城先輩は『ともくん』と呼ばれてるのか。


「それより早くいこうよ!お腹空いちゃった」


姫川は強引ではあるがこの場から離れようと中城先輩の腕をグイグイ引っ張っている。それが功を奏したのか


「分かったからそんな引っ張っるなよ。それじゃ2人ともまたな!」


中城先輩はそう言って姫川と歩き出した。その後ろ姿を見て俺は大きく息を吐いた。どうやら中城先輩には俺と姫川が知り合いだとはバレなかったようだ。


「今日あんたが話してたのはあの子の事なんでしょ?」


その言葉に俺は尾上さんがいる事をようやく思い出した。恐る恐る尾上さんの方を見ると俺に笑顔を向けてくるが目が全く笑っていない。

あぁこの顔を俺は知っている。だって杏奈がたまに見せる顔なのだから。


「確か友達が少なくて鈍感な年上の幼馴染だったよね?」


やっぱり尾上さんは全てに気付いているのだ。

姫川の好きな人が中城先輩なのだという事を。

俺だって気付いた位なのだから尾上さんが気付かないではずなど無かった。何も言わない俺に尾上さんは続ける。


「私も一緒にコインランドリーに行くから。

別にかまわないわよね?」


本当に会わせてはいけなかったのは杏奈ではなく姫川麻由子だったなんて思いもしなかった。

笑っていない目のまま俺を見てくる尾上さんに俺は無言で頷くしかなったのである。

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