第6話 清楚美人とテスト勉強
「この問題はこちらの公式を使うんですよ」
「そっちを使うのか!」
「引っ掛けなので注意して下さいね」
みっちりテスト勉強をした次の日の放課後も、俺は空き教室で杏奈とテスト勉強をしていた。
今日は俺の苦手な数学に付き合ってもらっているのだ。杏奈に教えて貰った通りにしてもう一度問題を解いてみる。
「おぉ!解けた!」
「よくできました」
そう言って杏奈は俺の頭を撫でてきた。恥ずかしくなった俺は思わず仰け反ってしまう。
「やめろよ!恥ずかしいだろ」
「別にいいじゃないですか」
「良くないよ。学校ではやめてくれ」
俺の言葉に杏奈は少し不満顔だ。別に頭を撫でられる事は俺も嫌いではない。しかし時と場所は選んで欲しい。いくら俺が周りを気にしないといっても照れや、羞恥心を捨て去ったわけではないのだ。しかしそんな俺の言葉を聞いた杏奈はとんでもない事を言い出した。
「学校でなければ良いんですね?」
「そういうつもりで言ったんじゃないよ!」
「私はそういうつもりで受け取りました」
そう言って杏奈は満面の笑みを浮かべている。
多分これは何を言っても無駄だな。諦めた俺はため息をつきながら
「ほどほどにお願いします」
そう言うしか無かったのである。そんな俺の言葉を聞いた杏奈は嬉しそうにしている。何がそんなに楽しいんだか分からないが俺の頭を撫でる位で機嫌が良くなるのならまぁ良いかと思いながら俺は問題集を解き始めるのだった。
その後は頭を撫でられる事もなく、しばらく問題を解いていたのだが
「そろそろ休憩にしましょうか?」
杏奈が声をかけてきた。俺は手を止めて時計に目をやると勉強を始めてからすでに2時間ほど経っていた。
「そうだなキリもいいし休憩するか」
俺はそう言いながら身体を伸ばす。パキパキッという音がなって自分が思っていたよりも集中していたのだと分かった。
「こちらをどうぞ」
そう言って杏奈はお茶を差し出してくれた。
俺はお礼を言いながらそれを受け取り飲むと、冷たいほうじ茶だった。ほうじ茶の冷たさが身体に染み渡るなぁなんて考えていると
「それにしても大輝くんがこんなにテスト勉強に前向きなのは意外でした」
杏奈が俺の方を見ながらそんな事を言い出した。
「そうか?」
「はい。中間テストの時もお誘いしたのにバイトを理由に断られましたから」
確かに俺は中間テストの時はバイトを減らす事もなかったし、それを理由に杏奈とテスト勉強も断ったのだ。今回バイトを減らしているのには理由がある。
「期末は赤点とると補習になるからさ。そうなるとせっかくの夏休みに学校に来ないといけないからな。流石にそれは避けたい」
俺の言葉を聞いた杏奈は感心したような顔をした後、急に俺の方に体を寄せ覗き込みながら
「理由はそれだけですか?」
伺う様に聞いてくる。俺をじっと見て来るその目に耐えきれずにソッポを向きながら
「それだけだよ。面倒事が嫌いだからな」
そう言って俺はこれ以上追求されないようにお茶を飲んだ。その様子を見た杏奈は
「そこは夏休みに私と遊ぶ時間が減るのが嫌だからと言って欲しかったです」
俺をからかう様に言ってくる。そんな杏奈に俺は何でも無いような顔をして
「たしかにそれもある!」
それだけ言ってまたお茶を飲んだ。杏奈は反撃されるとは思っていなかったようで
「肯定されるとそれはそれで…」
なんて言いながら耳まで真っ赤になってゴニョゴニョ言っている。それを見て俺は内心ほくそ笑んでいた。俺が毎回からかわれてばかりだと思うなよ!杏奈はまるで俺がみたいな口ぶりたったが前回テスト勉強の誘いを断った時に杏奈はめっちゃ悲しそうな顔をしていたのだ。あの顔をされたら流石に今回は断れなかった。その流れであんな事を言えば流石の俺でもちょっとした反撃くらいは出来る。そんな俺を見てからかわれたと分かった杏奈は頬を膨らませながら
「む〜大輝くんはイジワルです」
なんて可愛らしく言いながら俺の肩をポスっと軽く叩いてくる。あざといなぁなんて思いながらも杏奈が落ち着くまでされるがままになるのだった。
暫く俺の腕をサンドバッグにして落ち着いた杏奈は時計を見ながら
「そろそろ絵理も来る頃なんですが」
そう呟いた。そう言えば久慈川も今日は来るんだったな。
「あいつ何してんの?」
「友達に勉強を教えているそうですよ」
意外な返答が返ってきた。え?あいつが勉強を教えるの?教えて貰うんじゃなくて?
俺の困惑を見て杏奈は
「絵里はああ見えて勉強出来るんですよ。確か中間テストの順位も十番代のはずです」
驚愕の事実を教えてくれた。まじか!てっきりバカなのかと思っていたのに。何だろう、ちょっと裏切られた気分になってしまう。
「大輝くんの言いたい事は何となく分かりますが、それは絵里がかわいそうですよ」
杏奈は苦笑いしながら俺の困惑した顔から察したらしい。まじかぁあいつ意外と賢かったんだなぁ。そんな事を考えていると突然教室のドアが勢い良く開け放たれた。
「お待たせー!」
そうやって入って来たのは先ほど俺を裏切った久慈川であった。
「遅かったですね。何かありました?」
「いや〜意外と質問されちゃって。期末だから皆、結構気合入ってるみたいでさ」
どうやら杏奈が言っていた通り友達に勉強を教えていたようだ。まじかぁ!人は見かけによらないなぁ。俺は久慈川をちょっと見直した。
「あと勉強とは関係ない相談もされたし」
「絵里はよく相談されますもんね」
そう言いながら杏奈は久慈川にお茶を手渡す。
まぁ久慈川は友達多いし、意外と面倒見もいいもんな。なんか今日は久慈川の良い面が目立っている気がするな。感心する俺をよそに2人は話を続けていた。
「何か今日のは相談?てか教えてくれって頼まれたてきな?」
「どういう事ですか?」
「なんか麻由子に大輝の事を色々聞かれたんだよねぇ」
意味深にそう言って久慈川は俺をジト目で見てくるし、杏奈も凄い勢いでこっちに顔を向けてくる。何だか空気がピリッとした気がしたが、そんな2人とは対照的に俺は首をひねる。
「麻由子って誰だっけ?」
俺の言葉に2人は目を見開いたあとに大きなため息をついた。めっちゃシンクロしていてちょっと面白い。
「麻由子だよ!麻由子!」
久慈川が名前を連呼するが全くピンとこない。
すると杏奈が分かりやすく教えてくれた。
「姫川麻由子さんですよ。昨日話かけられたじゃないですか」
「あぁ!昨日のあの子か!」
へぇ麻由子って名前なんだな。ようやく答えが分かってスッキリしている俺を見て2人は呆れていた。お陰でさっきまでのピリッとした空気はなくなっていた。
「それでその姫川さんは俺の何を聞いてきたんだよ?」
俺は気になった事を久慈川に聞いてみた。
「何か大輝はどんな奴なのか?みたいな感じ。あとは杏奈と仲良いんだよね?とかそんなのを色々聞かれた」
俺と杏奈は思わず顔を見合わせてしまった。
何か昨日聞かれた事と似たような事を久慈川にも聞いていたようだ。
何故そんな事を聞くのか謎だけが残ってしまったのだった。




