第5話 清楚美人と新たな疑問
放課後の教室で俺はボーっとしていた。
杏奈に喫茶店に呼び出されてから数日たったが特に大きな問題もなく過ごせている。1番恐れていた尾上さんからのイジりもほとんどなかったのだ。唯一あったことといえば久しぶりに千代姉って呼べと強要されて中城先輩の顔が物凄い事になったくらいである。それ以外は至って平和で少し肩透かしを食らった。
そして気づけば学期末のテスト期間に突入したのだ。テスト期間中は部活動も活動休止となるので放課後はテスト勉強の為に普段より教室に残る生徒も増えるのだが、特にバイトを減らしたりしなかった俺は放課後に学校に残るとはなかった。しかし今回は珍しくバイトに入る回数を減らしている。杏奈から一緒にテスト勉強をしようと誘われたからだ。いつも空き教室で勉強会をする予定なのだが俺は今も自分の教室でいる。杏奈はクラスメイトからテストに関して質問されているので俺はそれが終わるのを待っているからだ。先に行こうとしたのだが杏奈からは一緒に行くから待っていてと言われたので大人しく待っている。
クラスメイトの質問に答えている杏奈を見ながら、そういや普段は優等生だもんなぁなんて考えていると突然声をかけられた。
「黒澤くんは帰らないの?」
そちらの方を見るとそこには1人の女生徒が立っていた。それを見て俺が思ったのは誰だっけこの人?だった。最近よく声をかけてくれるクラスメイトではなく初めて声をかけてくる女生徒だったのだ。教室で見たことはあるがこの時期に名前が分からないとは流石に言えないので俺は素知らぬ顔で答える。
「テスト勉強しようと思ってね」
「そうなんだ!黒澤くんが放課後残ってるとか珍しいから声かけちゃった」
そう言ってきた彼女は全体的に可愛らしい感じの子だった。大きな目に小さな鼻で少し丸みのある顔は愛嬌があり背の低さも相まっていかにも女の子という感じである。そして目を引くのは大きな胸である。可愛らしい容姿に不釣り合いなそれはとても人目を引き、見ないようにしなければ自然と視線が向いてしまうほどの存在感であった。
「杏奈を待ってるの?」
そう言って杏奈の方を見ながら視線誘導に耐えている俺に女生徒は話しかけてきた。俺も釣られて杏奈の方を見ながら答える。
「そうだな。一緒に勉強しようって誘われてるからさ」
「やっぱりそうなんだ。2人って仲良さそうだもんね。全然隠してないし」
可愛らしい女生徒はニコニコしながらそんな事を言ってくるのだ。
「まぁ別に隠す様なことでもないしな。それに隠したところで今さらだし」
本当に今更なのだ。杏奈激怒事件もあって仲が良いのはクラスの全員が知っているしそれがなくても最初から隠す気はなかったのだ。
「それもそうだよね」
俺の返答を聞いた女生徒は納得している様な返事をしたが、表情はどこか冴えない感じに見えた。どうした?何かあるのか?俺が不思議に思っていると
「すみません。お待たせしました」
クラスメイトの質問に答え終わった杏奈が俺達の元にやってきた。女生徒は杏奈の方を見ながらニコニコ顔で
「おっ杏奈ちゃんが来たみたいだから私は行くね!黒澤くん相手してくれてありがとね」
そう言って手を振りながら俺達から離れて言った。さっきも見た表情は気の所為だったのか?
「それでは大輝くん行きましょうか」
気になる事はあったが杏奈にそう言われたので俺は立ち上がって教室をあとにした。空き教室への向かう途中に杏奈が話しかけてくる。
「姫川さんと話しているとか珍しいですね」
「彼女、姫川って言うのか?」
俺の言葉に杏奈は残念な子を見る目で見てくる。分かったからその目はやめて下さい。
俺でも流石にどうかと思っているので。
「まさか名前を知らないとは思いませんでした。それで何を話していたのです?」
「名前は本当に申し訳ないと思うよ。何か放課後に俺がいるのが珍しかったみたいだけど、
杏奈待ってるって行ったら納得されたよ」
俺が姫川と呼ばれる女生徒との会話内容を伝えると杏奈は
「そうなんですね」
そう言いながら口をもにょもにょさせている。
たまに見せる表情である。何か嬉しそうなのは気の所為だろうか?そんは嬉しくなる様な部分などあったっけな?そんな口をもにょもにょさせている杏奈に話しかけた。
「その姫川さんとは仲良いのか?」
もにょもにょしていた杏奈は俺に話しかけられたことで元のお澄まし顔に戻って答えてくれる。
「普通ですかね。特別仲が良いというわけではないですが他の方より話す機会は多いですよ」
「なるほどねぇ」
「何か気になることでも?」
そう言って俺をジト目で見てくる。
やめて!そんなんじゃないから!
俺は弁明も兼ねて杏奈に先ほどの事を聞いてもらった。気のせいかもしれないがあの時の表情を見た時に俺に何かを聞きたかったんじゃないかと思ったのだ
「なるほど。確かに気になりますね。大輝くんは今日初めて話したんですよね?」
「そうだな初めて話したはずだ」
俺の話を聞いた杏奈も疑問を持ってくれた様だで同時に疑惑も晴れたみたいで一安心である。
ただ2人で考えてもしっくりくる答えはでなかったのだ。
「結局よく分かりませんんでしたね」
「まぁ気のせいかもしれないしな。ちょっと気になったって程度だから」
「もし何か分かればお伝えしますね」
「ありがとな」
「では、今からはテスト勉強に集中して下さいね」
どうやらいつの間にか空き教室に着いた様だ。
こうして杏奈とみっちりテスト勉強をした俺は先ほどまでの話題の事などすっかり忘れてしまったのである。




