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エピローグ

俺は夜道を1人で歩いている。まだそこまで遅い時間ではないので人通りも多くザワザワと騒がしい。最近少し日が長くなった気がするが、もう6月も終わりなので夏が近づいているということだ。人通りの多い道から路地裏に入れば先ほどの喧騒が嘘の様に、静かになった。まるでここに自分しかいない様だ。


そんな路地裏の道を進んでいくと目的地に到着した。夜の中でここだけが明るく光っているその店はもちろんコインランドリーである。

春休み初日に洗濯機が故障してから通い続けてすでに3ヶ月が経とうとしている。その間も変わらず俺はここに通い続けているのだ。


俺好みのレトロな店構えを十分に堪能したあとに店内に入って行く。すると外よりも暖かく、少し乾燥していていい匂いがする空間が出迎えてくれた。初めてここを訪れた時から俺はこの空間の虜になっているのだ。洗濯という日常の行為を行う場所なのにどこか非日常を感じさせるこのコインランドリーに魅力されている。

立派なコインランドリー中毒である。しかし今はそれだけがここに通う理由ではない。


「いつまで黄昏てんの?」


不意にかけられた声のする方を見ると1人のギャルがベンチに座ってこちらを見ていた。

頬杖をつきながら不満そうな顔で俺を見ているのはコインランドリーで仲良くなったギャルである白瀬杏奈だ。今はギャルだが学校では真逆の清楚美人で俺と同じクラスなだけではななく席まで隣というオマケ付きなのだ。


「いいだろ。ここの店に入った時の感じが何か好きなんだからさ」


俺はそう言いながら洗濯・乾燥機の方に近づいていく。それを見た杏奈も持ってきた洗濯物を手に取りパタパタと俺の後をついてくる。


「それは分かるけど、私がいるのに無視されたみたいで何かイヤ!」


どうやら杏奈に声かけしなかったのがご不満のようだ。彼女は頬を膨らませて不機嫌アピールをしている。


「無視なんてしていないので機嫌を直してくれませんかね」

「じゃあ今日の帰りにアレやってよ!洗濯物も少ないし、いいでしょ?」


杏奈は機嫌を直す条件を俺に突きつけてきた。勝手に無視された気になって俺の責任にして要求してくるとか何て理不尽なんだろうか。

因みに杏奈が言うアレとは手を繋ぐ事である。

前に送る際に手を繋いでからというもの度々、要求してくるのである。ただ俺は何だか小っ恥ずかしくてその要求を断るのだ。その度に杏奈はアレコレ理由を付けては手を繋ごうとしてくるのである。今のところ勝負は五分五分といったところだ。嘘です8割位が俺の負けです。

そして今日も俺の負けなのである。


「わかったよ。するから機嫌を直して下さい」

「なら機嫌を直そう!」


そう言って嬉しそうにしながら俺が洗濯物を入れていた、洗濯・乾燥機に自分の洗濯物を入れ出した。杏奈と一緒に洗濯するのも当たり前になっている。いまだに思う事はあるけどね。


無事に洗濯を終わらせたあと俺達は同じ方に向けて歩き出す。こうやって杏奈を家まで送って行くのも今では慣れたものである。最初はあんなに緊張したのにそれが今や手を繋いでいるのだから本当に何があるのか分からない。

手を繋いだ杏奈はご機嫌で鼻歌を歌っている。少し前に色々あったが最近は落ち着いていて、特に大きな出来事は起こっていない。たまに杏奈と久慈川が言い合いしたり、俺と久慈川が言い合いしているくらいだ。このまま何事もなく夏休みを迎えれれば良いな何て思っていると


「あれ〜?大輝じゃん!」


突然、声をかけられたのだ。俺は声がする方を振り向くとそこには1人の女性が立っていた。

その女性を見た瞬間、俺は固まってしまった。


「あんた、こんなところで何してんの?」


女性はそう言ってこちらに近づいてくる。どうやら影になっていて杏奈に気付いておらず俺が1人だと思っているようだ。もちろん杏奈は女性に気付いており、何故か繋いでいる手に力を込める。怖がっているのではない。だって明らかに俺の手を握りつぶしに来ているからだ。

しかし今の俺は痛みを感じる暇などなかった。

俺はこの状況をどうにかする事で頭がいっぱいになっていたのである。頼む!これ以上こっちに来ないでくれ!しかしそんな願いも虚しく、女性は俺達の前に来てしまった。


「あんた何無視してんのよ?」


不機嫌そうにそう言ったあと女性はようやく杏奈に気付いたようで


「ん?何、1人じゃなかったの?」


そう言って俺の後ろを覗き込んできた。すると杏奈は俺と手を繋いだままスッと前に出て


「初めまして。あなたの言う通り大輝は1人じゃないん…」


途中で話をやめてしまった。杏奈は女性を見てそして何故か固まってしまったのだ。俺はそれを見て困惑してしまった。絶対に壮絶な睨み合いでも始まるかと思ったからだ。そんな俺達を見た女性は


「へぇ、あんたが大輝の言ってたギャルなんだ」


そう言ってニヤニヤし始めたのだ。俺はその顔を見た瞬間に全てを諦めた。


()()()()()。私は大輝のバイト先の先輩で、尾上って言うのよ」


そう俺に声をかけた女性は尾上さんだったのである。今、絶対に合わせてはいけない2人が出会ってしまったのだ。


「あなたの名前を教えてもらえないかな?

ねぇ()()()()()!」


そう言って悪魔のような笑顔を浮かべる尾上さんを見て先ほど俺が願った何事もなく夏休みを迎えることは無理なのだと悟るのであった。

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