第20話 清楚美人と変わっていく日常を
「少し距離が近すぎるんじゃありませんか?」
「え〜?そんな事ないと思うけど」
「近いですよ。離れて下さい」
「別にいいじゃん」
例の杏奈激怒事件から数日たったがこれと言って問題もなく学校生活を送れている。俺が杏奈と久慈川と仲が良いのはクラスの全員が知ることとなったが俺達3人は変わらず校舎の端っこにある空き教室で昼休みを過ごしていた。これに関しては杏奈が強く希望したからだ。別にクラスの雰囲気が特に変わったからではなない。というか今までの雰囲気を覚えていないので比較が出来ないのが本当のところなのだが、別におかしな雰囲気にはなっていないのだ。杏奈も久慈川も普通にクラスメイトと話しているように見える。それでも俺もここで昼休みを過ごす事に特に異論は無かった。ここはすでに俺の日常の1つになっているからだ。
「そっちこそ腕組んでたじゃん」
「あれは不可抗力です」
「でも組んでたでしょ?なら私もよくない?」
「何でそうなるんですか!」
「え〜いいじゃん!私も組みたい」
「駄目です!絶対に駄目です!」
「けち〜!」
クラスの雰囲気は変わっていないと言ったが変わった事がいくつかある。まずは俺に絡んできた男子生徒が謝罪してきた事である。しかも彼だけでなく彼の友人達も一緒にだ。俺の所に来て謝罪したあと、杏奈と久慈川の所へも謝罪しに行っていた。これにはかなり驚いた。正直、彼らから話しかけくるとは思っていなかった。自分達で考えたのか、それとも誰かに言われたからなのかは分からないが、彼らの口ぶりから本当に悪い事をしたと思っている様だったので俺はその謝罪を受け入れた。もちろん杏奈と久慈川も謝罪を受け入れていた。
2つ目はクラスメイトが俺に話かけてくるようになった事である。まだ友人と呼べるほどの付き合いではないが大きな変化である。1年の頃を考えればありがたいことである。しかしどういう訳か男子生徒よりも女子生徒から話しかけられることが多いのだ。どうやら俺が杏奈と久慈川特に仲が良いのが理由らしい。久慈川曰く「変な勘違いをされる心配がないから」との事であるが俺にはよく分からなかった。あとこの女子生徒に話しかけられる様になったのも空き教室で昼休みを過ごす理由の1つだと久慈川がこっそり教えてくれた。
「そんな怖い顔してると嫌われちゃうよ〜」
「こ、怖い顔などしていないです!」
「ほらほら怒っちゃダメだって」
「怒ってません!」
「アハハハハッ!可愛いなぁも〜」
そして3つ目はクラスの中で共通認識が出来上がった事だ。それは『白瀬杏奈を怒らせてはいけない!』という事である。これまで誰に対しても物事し柔らかく接していたのがあんな怒った姿を見せたのだ。ある意味納得である。
しかしそれは腫れ物を扱う様な感じではない。
むしろ女子生徒からの人気が上がっている様に感じている。おかしな事にならなかったのは良かったが、何で女子生徒から人気が上がるのか分からない。そんな俺に対して久慈川から
「やっぱり大輝は女心がわかってないね」
と残念な子を見る目で見られてしまった。
余計に分からなくなったのは内緒である。
「さっきから自分は関係ないみたいな顔をしていますが、あなたの事なのですよ」
「そうだぞ!」
「だいたい貴方がしっかりしないからこうなっているんですよ?」
「わかってんのか〜?」
色んな事を考えていて2人の会話を聞いていなかったのだが、どうやらこちらに矛先が向いてしまったようだ。俺はスッと目をそらした。
「何で目をそらすんですか?ちゃんとこちらを見て下さい」
そう言って杏奈が顔をグイッと寄せてくる。
近い近い近い!いい匂いもするし!
「ずるーい!私も見てよ!」
何故か久慈川も近づいてきた。
いやいやいや!やめてそれ以上近づかないで!
「ほら大輝くんが嫌がってますよ。離れてください」
「え〜?大輝は別に嫌じゃないよね?」
「大輝くん、ちゃんと言わないとダメですよ」
「嫌じゃないよね?」
「大輝くん?」
そして1番の変化がこれである。杏奈と久慈川との仲が良いことがクラスに知れ渡ってから、2人に遠慮が無くなったのである。学校だろうがお構いなしに距離を詰めてくるのだ。
教室ではここまでしてこないが空き教室に来るとこれである。
「ちょっと2人とも近いんで離れて下さい」
俺が恥ずかしさからそう言うと杏奈と久慈川は顔を見合わせて
「そんな事はないと思いますよ」
「そうだよ!大輝が気にしすぎなだけじゃん」
などと言ってくるのだ。2人の俺への距離の詰め方も変わったが、杏奈と久慈川の距離も前より近づいた気がする。なんというかお互いに遠慮しなくなったと言うのだろうか。前よりも仲が良くなったようでそれは良いことなのだろうが、こうやって2人で結託する事が増えた。
「まっここまでにしといてやるか!」
「そうですね。絵里はここまでで良いと思いますよ」
「あ〜そうやって抜けがけしようとする!」
「そんな事はありませんよ」
「そんな杏奈にはこうしてやる!」
「ちょっと!やめて下さい」
そう言って久慈川は杏奈に抱き着いている。
杏奈も言葉とは違いそこまで嫌がっているようには見えない。正直2人に何があったのかは知らないが俺が聞く事ではないと思ってあえて聞いていない。じゃれついている2人を見ていると、そのうち杏奈は久慈川に学校以外ではギャルな事を伝えるんだろうななんて思った。
そう思うと何だか寂しく思ってしまう。何でそんな事を思ってしまったのだろうか。杏奈にとっては悪くない事のはずなのに。
『あと何で今になって周りの目が気になったのかもちゃんと考えなさいよ。それは大輝のためなんだからね』
ふと尾上さんに言われた事を思い出した。
ちゃんと考えないといけないか。それに気になっていることもあるしな。そんな事を考えていると
「大輝くん見てないで助けて下さい」
久慈川に撫でくりまわされている杏奈が助けを求めて来た。
「大輝に助けを求めても無駄だよ!」
「ちょっと!大輝くん早くお願いします!」
「何やってんだよ2人とも」
コインランドリーでギャルと出会ってから俺の周りも随分と騒がしくなったもんだ。そう思いながら俺は2人の方に歩いていくのであった。




