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第19話 ギャルと少し素直になる日

「………」


俺はいつものコインランドリーで洗濯物を洗濯・乾燥機に入れているのだが今日はいつもの様にご機嫌で洗濯物を入れる事ができない。

理由はコインランドリーに来てからずっと感じている視線のせいである。視線の正体はもちろん杏奈だ。何故かじーっと俺を凝視しているのだ。自分の洗濯物を入れる時もずっと見ているのである。無言で俺を見ながら洗濯物を入れている様はちょっとしたホラーだった。


杏奈による俺への凝視はベンチに座ってからも続いている。そしていまだに無言なのだ。

俺は耐えきれずに杏奈に声をかけた。


「どうした?めっちゃ見てくるけど」


すると杏奈は俺見つめたまま口を開いた。


「なんか普通だなって思って」

「普通?」

「そう!今日あんな事があったのに、なんかいつもと変わんないなって」

「あぁそういう事ね」


どうやら放課後の事で俺が落ち込んでいないかそういう事を心配して様子を見ていたようだ。それにしても心配の仕方が独特すぎない?

まぁ心配してくれた事へのお礼は言わねば。


「心配してくれてありがとね」

「そりゃ心配するよ!あんな事言われたのに」


杏奈は俺の方に体を寄せて真剣な顔で言う。

その真剣な目に俺は少し恥ずかしくなってしまい視線をそらしながら


「そんなに気にしてないから大丈夫だよ」


そう言ったのだが彼女は不満があったのか、

少し頬を膨らませている。急な表情の変化に

俺が困惑していると


「大輝はほんといつもそうだよね。あの時も途中でとめちゃうし!あいつらを庇うみたいになってたじゃん!大輝に謝ってないのにさ」


杏奈はそんな事を言うのだった。なるほどそれも気にしていたのか。そついやあの時も不満な顔をしていたな。俺は思わず笑ってしまった。それを見た杏奈は


「何で笑うのさ!」


より頬を膨らませてしまった。


「別に杏奈を笑ったんじゃないよ」

「じゃあ何なの?」

「杏奈は優しいなと思ってさ。あそこまで怒るとは思わなかったし、何ていうか嬉しかったんだよ。俺のために怒ってくれたのがさ」


俺がそう言うと杏奈は頬を膨らませたままソッポを向いて


「別に大輝のためだけじゃないし!私もムカついてたからだし」


なんて言いながら耳まで真っ赤にしている。

俺は彼女に気づかれないように笑みをこぼす。

なんだか安心してしまったが1個だけちゃんと訂正しておかないとな。


「あと俺は別にあいつらを庇ったわけじゃないからな」

「そうなの?」


ソッポを向いてモニョモニョしていた杏奈がこちらを見る。それを見て俺も話を続ける。


「俺があそこで止めたのは杏奈のためだよ」

「わたしの?」

「そう。あのままいくと多分、あいつらクラスにいられなくなったと思うんだよな」


まぁ今でもだいぶ怪しい気はするが、まだそこまでじゃないと思いたい。


「そうなると、あいつらみたいな奴は人に責任をなすりつけるんだよ。そうなったら標的になるのは俺じゃなくて杏奈になるだろうからさ。俺はそうなって欲しくなかったんだよ」


もしかしたら既にそう思っているかもしれないけどな。その時は俺はもう容赦しないけどね。


「それにクラスの雰囲気もさ、あのままだと最悪だっただろ?それを杏奈のせいにされるのも嫌だったんだよ。まぁそれは俺の考え過ぎかもしれないけどな」


あれ?なんかおかしいぞ!こんな感じじゃないはずだったのに!めっちゃ恥ずかしい!

もっと何でも無い様に言ういつもりだったに!

自分で言いだしておいてだんだんと恥ずかしくなった俺は、最後には体ごとソッポを向きながら一言付け足してしまった。

そんな俺の話を黙って聞いていた杏奈は


「大輝は私を守ろうとしてくれたんだ」


そう呟いたが俺は恥ずかしさから杏奈の方を見ることが出来ず彼女が今どんな顔をしているのか分からなかった。すると突然、背中にぬくもりを感じた。一瞬なにが起こったか分からなかったが、お腹あたりに回された手を見て杏奈が俺の背中に抱き着いて来たのが分かった。

俺は急な出来事に何もする事が出来ず、ただそれを受け入れるしかなかった。

杏奈は俺の背中に顔を押し付けながら


「ありがと。嬉しい」


そう言って俺のお腹あたりに回している手に力を込める。


「やっぱり大輝は優しいね」


彼女が話すたびに息がかかる場所がくすぐったくて身動ぎしそうになったが、動いてしまうとこのぬくもりが離れて行ってしまいそうで、俺はそれが何だか嫌でじっと耐えるのだった。


しばらく俺の背中に顔を押し付けていた杏奈は


「満足した!」


そう言いながら背中から離れた。それを少し寂しく思っていると


「あれぇ?もうちょい引っ付いてた方が良かったかなぁ?」


杏奈はニヤニヤしながら俺をからかってきた。

くそ!なんでそんなに俺の考えてることがわかるんだよ!俺は悔しさと恥ずかしさを誤魔化すように口を開いた。


「そんな事ありません」


全然誤魔化せてなかった。なんで敬語になってんだよ!余計に恥ずかしくなったじゃないか!

そんな俺を見て杏奈はケラケラ笑っている。

そんな時、乾燥が終わった事を告げる機械音が鳴り響いた。助かった!俺は洗濯物を畳むために立ち上がる。


「逃げたな」


杏奈がそう言いながらパタパタと俺の後ろを付いてくる。逃げてない!戦略的撤退と言ってもらいたいものだ!


洗濯物も畳み終えていつも通り杏奈を家まで送っていると杏奈が


「私ね大輝とこうやって、家までの帰り道を歩くの好きなんだよね」


突然そんな事を言い出した。そして上目遣いで俺の顔を覗き込んでくる。


「相変わらず、あざといなぁ」


俺はドキドキしているのを隠す様にそんな事を言うのだ。でも杏奈にはバレているのかクスクスと笑われてしまった。


「今日は本当に嬉しかったからさ、ちょっとだけ素直になろうと思うんだよね」


そう言って杏奈は俺の手を握ってきた。俺は突然の事に一瞬手を引っ込めそうになったが、杏奈が力を入れてそれを阻止した。


「私と手を繋ぐのは嫌?」

「嫌じゃないよ。ビックリしただけだから」

「なら逃げないでよね」


杏奈はもう一度手に力を入れる。それに合わせる様に俺も自分の手に力を込めて握りかえす。

俺は恥ずかしさと緊張とでビックリするぐらいドキドキしてしまっていた。そして手汗もヤバかった。許して欲しい!お年頃の男子が女子と手を繋いだのだ!こうなっても仕方がないと思うんだよな!俺は謎の言い訳をしていた。


杏奈はどうなんだろうか?ドキドキしているのかな?それとも手汗キモいとか思っているのだろうか?もしキモいとか思われていたら死にたくなる!

気になって横目で見ると、杏奈は機嫌良さそうにしていて何なら鼻歌を歌い出した。

良かった!どうやら手汗キモいとは思われていないようだ。


そう思うと、まだドキドキはしているが変な緊張はしなくなってきた。そういや女子と手を繋いだのなんて何時ぶりだろうか?もう随分と前な気がする。杏奈の鼻歌を聞いているととても懐かしい気持ちになってきた。そういやこの前もこの鼻歌聞いたなぁ。


「私ね大輝と手を繋ぎながら家まで帰るのが好きなんだよね」


杏奈は俺の方を見ずに独り言のように呟いた。

それを聞いた俺は彼女にならって少しだけに素直になろうと思った。


「俺も好きだよ。こうやって家まで帰るが」


俺の言葉を聞いた杏奈は嬉しそうに笑って。

繋いだ手に力を込める。俺もそれに応えるように力を込めるのだった。

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