第17話 波乱は続くよどこまでも
「お前二股してるんだってな!」
俺の目の前にいる男子生徒は敵意を剥き出しにして睨んでくる。どこでどうなったらそんな話になるのだろうか?百歩譲って久慈川と付き合っているか聞かれるのであればまだ理解できる。しかし二股など根も葉もない嘘である。
しかも結構な声量だったためクラスメイトがこちらに注目しているのだ。こんな注目の集め方などしたくなかったのに。
俺は考えるのも面倒になり無視する事にした。
こういう奴には何を言っても無駄なのだ。俺はよく身に沁みているから知っているんだ。彼の問いかけには一切答えず帰る準備をしていると
「無視するんじゃねぇよ!」
彼は大声で叫びながら机に両手を勢いよく叩きつけて威嚇してきた。俺を睨みつけるのも忘れない。思わずため息が漏れる。
「あのさ学校の備品を粗末に扱うなよ。お前の私物じゃないんだからさ」
全く困ったものである。これで机に何かあったらどうするんだ?俺の責任になるとかマジで勘弁して欲しい。俺は少しかがんで机の脚を触って問題ないか確かめた。
「お前何やってんだよ?」
俺の行動が理解できなかったのか彼は少しトーンダウンしながら俺に問いかけてきた。
「何って今ので机の脚が曲ってないか確認してたんだよ。もし曲がってたらガタガタするだろ?そしたら使いにくくなるし、ガタガタ音がなったら周りにも迷惑になるからな」
俺はそう言って机の確認をすませる。どうやら問題なさそうだ。ガタガタすることは避けられたみたいである。安心していると
「おかしな事言ってんじゃねぇよ!」
彼はまた怒りをあらわにして大きな声をだしている。てかおかしな事を言ってるのはそっちじゃないか?俺はそう言ってやりたかったが声には出さなかった。だって言ったらこいつ絶対怒るもの。だから言わなかったのだ。俺は空気が読めるようになったのである。自分の成長に満足していると
「てか俺の質問に答えろよ!」
彼は俺を問い詰めてきた。質問に答えろって言われてもねぇ?俺は彼の言葉に呆れてしまい思わずため息をついてしまった。そんな俺に彼は少し狼狽えている。
「な、何だよ!」
「だって質問してないじゃないか。二股してるって決めつけてるんだから、そういうのは質問とは言わないだろ?なのに質問に答えろとか俺は何を答えればいいんだよ。国語の成績は大丈夫か?赤点とってない?」
俺達の会話を聞いていた周りの生徒数名が吹き出した。口を押さえて笑いを堪えている。
何も面白い事などないんだが?されていない質問に答えるなど一休さんのとんちじゃないんだからさ。いい迷惑である。
赤点を指摘された彼は顔を真っ赤にしてプルプルしている。それを見て俺は理解した。
「ごめんな。赤点取ったやつに言って良いことじゃなかったな。成績の事とか言うべきじゃなかった。本当にすまない」
そうだよな赤点取ったとか知られたくないよな。これは俺が悪い。悪いと思ったら素直に謝る事の大切を俺は知っている。
「俺は赤点じゃねぇよ!」
彼は今までで1番大きな声で叫んだ。
そうやって否定すると逆に怪しくなるからやめておいた方がいいぞ。ほんとに赤点じゃなくても赤点取ったみたいに聞こえるからさ。ほらさっき吹き出した人達もこいつ赤点なんだみたいな目で見ているだろ?男子生徒もそれに気付いたようで
「違うから!赤点じゃないから」
一所懸命周りに弁明している。それを見ながら俺はもう二股どころではないなと思い帰ろうと席を立つと
「何帰ろうとしてんだよ!まだ話は終わってないから!」
彼に気付かれてしまった。くそ!もう終わりにしたかったのにまだ続くようだ。そろそろ帰りたいのに、なんて考えていると
「大丈夫ですか?」
杏奈が心配そうに声をかけてきた。杏奈の方を見ると久慈川も横で心配そうにこちらを見ていた。
「大丈夫だよ。問題ないから」
「そうですか?何やら言い合いをしていたので心配になりまして」
言い合いというか一方的に彼が詰め寄って来ているだけなんだけどな。俺は言葉にはせず苦笑いをすると杏奈も俺が言いたい事が分かったようで苦笑いを返してきた。さすが杏奈!今のでだいたい把握したようだ。まぁ隣の席にいたんだから分かるよな。そんな俺達を見ていた件の男子生徒は
「なんでお前ばっかり」
とこぼしながら俺を睨みつけてくる。そこで俺はようやく彼が誰なのか気付いたのだ。こいつクラスに可愛い女子が多いとサイコーアピールしていた集団の1人じゃないか!確かギャル好きのやつだったはずだ!なるほどね!俺はようやく理解した。狙っていた久慈川と俺が仲良くしているのが気に食わなかったんだろうな。
しかも杏奈とも仲がいいとくればお前ばっかりと思っても仕方ないのかな。まぁだからってこんな事をしても逆効果な気がするんだが。それでも彼がこんな事をする理由が分かってスッキリしていると
「お前みたいな奴、2人に相応しくないんだよ!」
彼が吐き捨てる様に言った言葉に真っ先に反応したのは杏奈だった。
「あなたは何が言いたいんですか?」
俺はそんな杏奈を見て黙ってしまった。だって雰囲気がいつもと違うからだ!口調は静かではあるが明らかに怒っている。彼も杏奈の雰囲気に押されてしまっているが何とか声を絞り出していた。
「白瀬さんは知らないんだよこいつがどんな奴か!」
それを聞いた俺は思わず体を強張らせてしまった。目の前の男子生徒が何を言うか分かってしまったからだ。
「こいつは親に捨てられる様な奴なんだよ!」
久しぶりに聞いた言葉である。そしてこれこそ俺が1年の時にクラスから腫れ物扱いされていた理由でもあるのだ。




